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侯爵閣下の甘い罠〜メルキアデスサイド〜

作者: 松尾吏桜

メルキアデスとモニカ。それぞれの目線で物語を書いております。モニカサイドを先に上げてますので

そちらもご覧頂けたら幸いです。



バタバタバタ――キキィィイー!!

 


「メルキアデス侯爵閣下ぁあー!確保ぉぉお!」


「わぁお。今日は一段と早く見つけてくれたなぁ」



数日前に異動したモニカ=ルイスは優秀な秘書だ。


俺が何処に姿を眩ましても見つけ出してくれる。



ゼェ……ゼェ……


「……ほんっと、いい加減にして下さいよ」


「大丈夫?お茶飲む?」



彼女を強制的に異動させて側に置いたのは俺。


こうでもしないと気にもしてくれなさそうだから。


職権濫用と言われようが、使えるものは使う主義。




☆ ☆ ☆

 


3年前――


 

高等部から講義依頼が入り、魔法塔から代表して学校へと出向いた。



真剣な講義中にピーピーキャーキャー喚いて授業にならない。先生方も注意せず一緒になって騒ぐ始末。


 

忙しい合間を縫って来てんのに、とうんざりしていた。『次に……』そう言いがら目線を上げた時、最前列に座る女学生が目に留まった。



他の連中と違い色めき立つ様子も無く、真剣に講義を受ける姿勢を貫いていた。



黒板を見る姿勢に誠意を感じ、後半は彼女の為だけに授業したと言っても過言ではない。



授業終わりの予鈴がなると教科書を纏め、一人だけ深々と頭を下げると、さっさと教室を後にした。



「前列の生徒?ぁあ、首席のモニカ=ルイスです」



定期的に行う講義には、いつも必ず最前列に彼女が座っている。愛想も無く考えの読めない生徒だが、始まりと終わりの挨拶を彼女だけが必ず行っていた。



「講義に行くの最近楽しそうっすね」



部下に言われ気付く。

彼女に会えるのを楽しみに待っている自分がいる。

講義中、彼女の微かな反応が見ていて癖になるんだ。



講義が終わり魔法塔へ帰る途中で彼女を見つけた。

図書室の窓際に座り勉強をしている真面目な彼女。

どうしてこんなに目がいくのか――。



「魔法塔に来たら、優秀な人材になるだろうな」




そして2年後――。



魔法塔の就職試験に彼女の姿を見つけ胸が高鳴る。



やたら根詰めて勉強していたので少し期待はしていた。魔法塔を受験するつもりでいるのでは?と。



彼女ほど魔法塔に相応しい者はいないだろう。

集中力があり勤勉で、俺を1ミリも意識しない女性。



入塔式で新入社員代表の挨拶をするモニカ。

 


帰り際『入塔おめでとう』と、どさくさに紛れ伝えると満面の笑顔で『ありがとうございます』と。



「ジョルディ経理部長、モニカ=ルイスですが……」

 

「メルキアデス所長?私情を挟んではなりません」



部下と言っても、人生では大先輩。

60代の貫禄で此方の思惑を全て見透かすようだ。



「今後の成績次第になりますね。優秀な子ですし」




半年後。



経理部長は楽しく仕事している優秀な部下を手放すのは惜しいが、上司の連日続く催促に根負けした。

 


入塔半年で所長付き秘書の異動が出た優秀な新人。

 


モニカはそんな事とは露知らず日々を満喫していた。



 

☆ ☆ ☆


 


「侯爵閣下!手を動かして下さい、手ぇえ!!」

「モニカ君。呼びにくいでしょ?所長って呼べば?」

 

「っふ……仕事しない人を所長とは呼べません」



経理部の頃は、笑顔で同僚と会話し酒場にも行く。



秘書になってからは懐かしの無愛想が返り咲いた。



今日も朝からモニカの隙をついて部屋を抜け出す。



中庭のベンチで、ゆったり彼女を待っていると招かれざる客に見つかってしまった。



( あ〜。厄介なのに捕まっちゃったな)



第二王女のラリ姫は暇さえあれば俺に擦り寄ってくる。何度断っても一向に聞かず、痺れを切らし王様に苦情を入れたら隣国への輿入れが即決まった姫。



「貴方と離れたくないの。私と逃げて……」



いや、無理。

俺はお前から逃げたいんだから。

泣きながら胸に飛び込まれ、つい眉間に皺がよる。

服が濡れて汚れるし不快だ。

さっさと離れろ――




ドタドタドター――!




(タイミング良いなぁ〜)

 



良い機会だ。

誤解する状況でどんな反応してくれるか……




「すみません!私、お邪魔してしまって」




おや?望んでいた反応と違う。

清々しい程妬いて無い。

それどころか邪魔をしたと本気で思っている。

 



想像以上に打撃を受け、その後は何も喋れなかった。




執務室に戻り書類に没頭するも傷心は癒えず……。


 


( 邪魔なのはアイツ=姫の方なんだよ!)

 



定時のチャイムが鳴り始める。



今更だが、好感度アップを狙い彼女を定時で上げた。一体どうやったら異性として意識するんだ?



1人になった執務室で考えに耽っていたら

廊下から聞き捨てならない話し声が耳に入る。



元同僚の男と2人きりで酒場に行く?

危険過ぎるだろ。男は例外無く皆んな獣なんだぞ?



居ても立っても居られなくて彼女達の後をつけた。

フードを深く被り、酒場のカウンターに座る。





……これではまるっきりストーカーじゃないか?

 




 ( 俺は、一体何をやっているんだ)

 


自問自答してる間にハイペースで酒をあおる彼女。

酔いが回り赤い顔の彼女が急に大きな声で叫んだ。



『逢引きしてんぢゃないわよぉー!!』


「ぶほぉ!」



(違ぁぁぁぁあーーーう!

断じて逢引きでは無い。君を待っていたんだ!)



叫ばれた内容に思わず酒を吹き出してしまった。



『人の気も知らないで……』

『…………わかんない』



彼女は自分の気持ちが分からなくて戸惑っている?

脈無しと少々落ち込んだが希望の光が見えてきた。



「すみません、大将――」



酒が入ると本音を言う彼女に強めの酒を注文した。

効果はテキメンで、退店まで俺は自身への止まらぬ不満を聞いていた。




 ――

 ――――




「俺、お前の家知らねぇよ」




(連れ帰る気か?やはり……初めから彼女を狙って)

 



イライラッ……

2人の進行方向ど真ん中に立ち、わざとぶつかる。



ッドン――。


 

「ぶつかって、すみませ……っあ!」


「俺のモニカを何処に連れて行く気だ?」

 

「おれの??……待って下さい!まじで誤解です!!はい、後はド〜ゾ」

 


元同僚の男は俺に気付き、途端に顔面蒼白になった。



魔の手から無事に取り返すと、近くの宿屋へ向かう。



「こんなに酔っ払って。警戒心が無くて心配だな」



酔っている彼女をベッドに寝かせ飲み水を準備する。



「……っん……こうひゃく……かっか?」

 

「うん、そうだよ。水飲むかい?」




上半身を支え、水の入ったコップを口元へと運ぶ。

コクコク……と飲む姿に酒場の光景を思い出した。




「いっぱい不満が溜まってたね。経理に戻りたい?」



『戻りたい』と言われても戻さないが、職場環境の改善のために一応は聞いておこう。



「かっかはひめと……かけおちするんでしか?」

「は?天地ひっくり返ってもしないよ。何ソレ?」

「みんな……うわしゃで…」



不快極まりない噂を流した奴は誰だ。コ○ス……

 


いや、待てよ。

それより今なら望んだ言葉を言うのではないか?




「別の女の元へ行くの嫌?

素直に言ってくれたら行かないよ?」






「……………………………………いやれす」







キラキラキラキラ〜〜――――。

 



彼女のたった一言でこんなにも心が満たされるのか!



酒でピンクに染まる頬と膨れっ面の顔が可愛い。



俺の理性を試す気か?

今手を出したら流石にクズ過ぎるだろ。

俺は獣達から彼女を守るために見張って――




「かっかが…………きになってしかたないんれす」




……………プチッ…………………

待てよ?

俺も男だから獣なんだ。すっかり忘れてた。



よし。


 


酒を言い訳にさせない準備をし彼女に問いかける。

 



「それは、俺の事が好きってことかな?」


「…………………………す、き…………?」




微妙に疑問系で聞こえたが細かい事は気にしない。

録音の再生をオフにすると機械を鞄へと仕舞う。

 


「言質は取ったからね?」



とろんとした顔で俺の行動を見る彼女に歩み寄る。

 


最前列の彼女と出会って爛れた女遊びは全て清算した。真面目な彼女に軽蔑されるのは勘弁だからな。



相手にされなかった日々もこの夜で全て報われる。



「優しくするから」

「……へ?」


 


――


―――



翌朝――

ドスンッ!と大きな物音で目が覚める。

 


上半身を起こしベッド下を窺うと、彼女が布団を引き摺り込みながら勢い良く壁際へと転がって行った。



芋虫のように布団に丸まった姿。隙間から見える顔は耳まで茹で蛸のように赤くなってとても可愛らしい。





「こ〜ら。まだ体キツイのに何してるの?」

 




あえて事後を意識させる為の言葉をかける。

 



昨晩。

酔いのせいか彼女は珍しく素直で、初めてと分かっていたが止められずに少々?無理をさせた。




「浮気するにしても相手を選んで下さい!」




まだ言ってる。じっくり教えていこうじゃないか。




「冗談を……侯爵閣下を好きだなんて言う訳が」

「覚えてないの?証拠あるよ――」





録音した音声を聞かせると驚愕の顔で震え出す彼女。

言質取っておいて正解だった。

みすみす逃す訳ないだろ?




「両想いだし、俺は正式に君の彼氏だよな?モニカ」


「――――――!!」




あとはモニカを一途に愛していくだけ。





※※※


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