独身おじさん、ウェディングプランナーになる④
さて、ウェディングプランの発表からしばらく経過。
俺の仕事は終わったので、いつも通りの仕事……魔道具の修理、開発などに精を出していた。まあ基本修理だけで、開発はしていない。
そろそろ、俺専用の車とか作りたいな……バイクも放置してるし、アーマーも全く着用していない。原付は移動で乗るけど、最近はもう見慣れたのか、特に何も言われない。
俺は持ち込みのドライヤー、ランプ、懐中電灯の修理を終え、持ち主が引き取りに来たのを確認して料金をもらい、それを金庫にしまって一服していた。
「……コーヒーうめえ」
今は、魔道具よりコーヒーのことを考えていた。
コーヒー豆。この世界じゃ薬として豆のまま飲まれたりしている。話じゃ腹痛の薬って聞くけど……どうやら、腹が痛いときに飲むことで腸を刺激して、悪いのを全部体外に出すための薬っぽい。
でもそれって、わざと腹痛を誘発させてゲリさせてるんじゃ……と思わなくもないが、俺は医者じゃないので口出しはしない。
まあ、この豆を焙煎して粉にするとコーヒーになるってことだけわかればいい。
俺の考えはコーヒー、そしてもう一つあった。
「喫茶店か……」
喫茶店。それも、コーヒー専門店。
今の俺の財力なら、コーヒー店を経営するくらいわけはない。人気が出なくても、店を維持するくらいの金は楽勝である。
「俺自身がカウンターに立つのもいいな。それか、おしゃれなマスターに店を任せて、俺は経営者として顔を出し、コーヒーを飲む……悪くない」
喫茶店って、子供の頃はけっこうな人数があこがれる仕事だと俺は思ってる。
なんかこう……おしゃれだよな。少なくとも俺はけっこうあこがれた。
レトロ風な店内で、クラシカルなBGMが流れて、店内にはコーヒーの香りが漂い、おしゃれなマスター(マイルズさんが浮かんだ)がコーヒーを淹れてくれる……俺は窓際の席に座り、コーヒーを味わいながら外の景色を眺め……。
「ちょっと、なにボケッとしてるのよ」
「うおおおおおお!? な、さ、サンドローネか……びっくりさせんなよ」
「あなたが勝手に驚いたんでしょうが」
サンドローネがいつの間にかいた。
サンドローネだけじゃなく、マンボウさんも一緒だ。今日もタオル片手に汗をぬぐっている。
「な、なんか用事か?」
「ウェディングプランについて、諸々の作業が完了しそうなの。あなたにチェックをお願いしようと思ってね」
「あ、ああそう……あーほんとにびっくりした」
「何を妄想していたのよ……スケベね」
「おい、聞き捨てならないぞ。俺はな、理想の喫茶店を」
「はいはい。とにかく、あなたの作った魔道具のチェックもあるから、さっさと行くわよ」
サンドローネがさっさと歩き出し、店を出た。
マンボウさんが汗をぬぐって言う。
「も、申し訳ありません。ゲントク様、ご足労おかけいたしますが」
「ああいや、行きます行きます」
俺は上着を掴み、マンボウさんと店を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
数日後。
いよいよ、アレキサンドライト商会の新事業である『ウェディングプラン』が始まる日がやってきた。
俺は職場で、ロッソたち四人と一緒にいる。
今日は四人とも冒険者ではなく、招待客として来ていた。なのでみんなドレスを着ている。
「うー、ヒラヒラして動きにくい」
ロッソは赤を基調としたドレス。ロングスカートなので動きにくそうだが、普段とは違う装いにどこか色気を感じる。
「……背中、涼しい」
アオは背中むき出しの青いドレス。なんというか……背中、すっげえ綺麗だな。
「ふふ。二人ともお似合いですわ」
ブランシュは白系。二人と違って露出こそ少ないが、華やかなドレスはブランシュに似合っており、どこか色気を感じさせる……なんかエロい。
「はいはい。アオ、ロッソ、あんまり動くとドレスが着崩れするわ。おとなしくしなさい」
ヴェルデは緑。ブランシュと似たようなデザインだが、こっちは背中がむき出しで胸元もやや協調されている。ブランシュとロッソのドレスを合わせた感じかな。
ちなみに俺は無難なスーツ。髪も整え髭も剃ったのでイケメン化しているぜ。
すると、アオが言う。
「……おじさん。今日のパーティー、どんなの?」
「結婚式な。ふふ、うまい飯もいっぱい出るぞ。楽しみにしておけ」
「……わくわく」
ちなみに、ロッソたちが参加する理由は護衛ではなく、若い女性たちの視点、意見を聞きたいとのことで特別参加という枠だ。
今日の結婚式の招待客は、貴族が六割、アレキサンドライト商会と関わりのある商会の重役たちが二割、平民たちが二割だ。平民がどういう人たちなのかはわからんけど……たぶん、俺と似たような街で働く人たちだろう。
すると、職場の前に連結馬車が到着。アレキサンドライト商会が手配した御者が下りてきた。
「ゲントク様。お迎えに上がりました」
「どうも。うし……じゃあ行くか!!」
俺たちは連結馬車に乗り込み、結婚式会場へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
結婚式会場に到着。
馬車から下りたロッソたちは、その建物を見て驚いた。
「わ……なにこれ」
「……でっかい」
「まあ……美しいですわ」
「すごいわね……」
ふふふ、驚いてやがる。
俺はコホンと咳払いし、四人の前に立って言う。
「結婚式といえば『教会』だろ。まあ、そうじゃないところもあるけど……というわけで、これは俺がデザインした、その名も『アレキサンドライト教会』だ」
教会。
そう、うろ覚えの俺のデザインを基にした教会を、アレキサンドライト商会は建てた。
デカく、立派で、チャペルがあり、広場に噴水がある。尖った三角屋根とか、ステンドグラスとか……まあ『たぶん、素人が思う教会ってこんな感じ』というのを、結婚する気ゼロ、超うろ覚え、漫画やアニメで見た教会を思い出し絵に描いたのだ!! それを、この世界の建築家が精査し、ちゃんとした形にしてくれたのである。
ブランシュは両手を合わせ祈る。
「なんだか神々しいですわ……あの鐘は?」
「チャペル。えーと……結婚の祝福とか、そんな意味で鳴らす……のかな」
チャペルの由来とかわかんねーし!! でもまあ、結婚式のあとでリンゴンリンゴン鳴らすもんだし、たぶん必要になる。『おめでとーう!!』みたいな意味で鳴らせばいいとは思ってる。
アオが周りを見て気づく。
「……馬車、いっぱい」
「ああ。貴族たちも招待されてるからな。駐車場は広くとってある」
俺は重役っぽい扱いなので馬車は教会に横付けしてもらったが、それ以外は少し離れた駐車場に馬車を止めている。
ブランシュは、教会の隣にある大きな建物に気づいた。
「あれ? ねえゲントク、あの大きな建物は?」
「あっちは会食会場だったり、いろいろ準備したりする建物だ」
「……ねえ、今更だけど、結婚式って儀式よね? 食事とかするの?」
「そこなんだよ」
俺はびしっと指をヴェルデに向ける。
この世界の結婚式は『儀式』で終わる。結婚式って、もっと楽しいモンだと俺は思っていた……そもそも、飯とか食わないのなんで? って思ってる。
「まあ、あとでのお楽しみだ。さあ、行こうぜ」
俺は招待状を五枚ポケットから出し、それぞれに渡す。
すると、別の馬車が俺たちの前に到着。ドアが開き、ドレス姿のパルテノスが降りてきた。
「はぁ~い、こんにちは~」
「おお、パルテノス……」
うぉぉ……すっげえドレス。
大きく開いた胸元、背中むき出し、なんつうスタイルだよおい。
ドレスというか、薄緑のヴェールを身体に直接巻いたようなドレスだ。パルテノスの妖艶さも相まってとんでもないことになってる。
「ふふ。ゲントクちゃんと、アレキサンドライト商会の結婚式……楽しみにしてるわね」
「お、おう」
「じゃあ、またね~」
パルテノスは行ってしまった。
パルテノス、内容のチェックはしたけど、まったく口出ししなかった。あとは『一人のお客として楽しませてもらうわね~』と、ほぼ顔出しもせず、任せっきりだった。
金だけは全額出しようで、アレキサンドライト商会の出費はゼロらしい。うーん、この教会を作るのに何億セドルかかったのだろうか。
すると、アオが腕を引く。
「……おじさん、デレデレしてないで行こう」
「え、いや、デレデレは」
「はいはーい。じゃあ行こうおっさん!!」
「ふふ、楽しみですわね」
「さて、何があるのかしらね」
こほん……とにかく。今はこれから始まる結婚式が優先だな!!






