独身おじさん、ウェディングプランナーになる①
さて、サンドローネ率いるアレキサンドライト商会が、結婚式事業に乗り出すことになり、元々は俺がパルテノスから受けた依頼ということで、俺を主導に企画を練ることになった……んだが、なんかいつもと違うやり方なのでちょっと困惑する。
いつもは、俺が考えた魔道具をアレキサンドライト商会が商品化して売るってやり方だ。イチから企画を一緒に練って形にするってのはあんまりない。
しかも、会議の場所は俺の会社の一階作業場だし。
「さてゲントク。今日からよろしくね」
サンドローネがニッコリ微笑む。
ちなみに、俺の作業場である会社の一階部分には大きなテーブルが設置され、その周りには数人の知らない連中が座っていた。
まずサンドローネは一番いい椅子に座り、背後にはリヒター、隣にはイェラン。
そして、恰幅のいい悪徳商人みたいな男性と、眼鏡をかけたスーツ姿の美女、そして二十代後半くらいの、リヒターとは違うタイプのイケメンだ。
リヒターが『眼鏡系真面目秘書』なら、こっちは『軽薄系不真面目社長』って感じ……いや、俺は何を考えてんだ。
「ゲントク。脳内でごちゃごちゃ言うクセ、まだ治ってないの?」
「……これは治る治らないじゃねぇし」
イェランに言われてしまった。
サンドローネは言う。
「そういえば、あなたはうちの幹部たちに会うのは初めてかしら」
「確かにそうだな。アレキサンドライト商会にいた時も、魔道具開発部門にしかいなかったし……で、この人たちは?」
「そうね、紹介するわ」
サンドローネはリヒターに目配せをする。
「まず彼女は、戦略部門統括、フーシェラです」
「初めまして。ゲントク様、お会いできて光栄です」
「あ、ども」
立ち上がり、胸に手を当て軽く一礼する美女、フーシェラさん。
年齢は二十代後半くらい。長い髪をお団子にまとめ、リクルートスーツっぽい服にスカーフを巻いている。いかにも仕事できそうな美女だ……しかも胸デカいし。
「そして、営業部統括、シーモア」
「初めまして。もっと早くお会いしたかったですよ、ゲントク様。あなたとならいい酒が飲めそうだ」
「はは、いつでも付き合うぞ」
「ぜひ。おいリヒター、聞いただろ? 今度はオレも誘えよ」
「……仕事中だ。私語は慎め」
シーモア、軽薄っぽい感じだけど……なんか、リヒターと仲良さそうだ。
するとイェランがこっそり言う。
「シーモア、リヒターとは幼いころからの知り合いなんだって」
「え、そうなのか?」
「うん。リヒターはお姉様に拾われて護衛として教育受けたの知ってるよね。実は、リヒターだけじゃなくてシーモアも一緒に拾われるはずだったの」
だが、シーモアは拒否。スラム街の子供たちを放っておけず、そのまま残ったそうだ。
そして大人になり、スラム街だけじゃなく裏通りの帝王なんて呼ばれるようになり……エーデルシュタイン王国の裏通りでは知らない者はいないくらい有名になった。
その伝手や交渉術などを買われ、王都の孤児院を支援するという契約の元、アレキサンドライト商会の正社員として今は働いているそうだ。
シーモアを見ると、ウインクしてきた……うん、俺こいつ嫌いじゃないわ。
リヒターは咳払いをすると、シーモアは肩をすくめる。
「そして最後、販売部門統括、マンボウ」
「は、はじめまして。はじめまして……マンボウです」
「あ、はい、マンボウ……さん」
恰幅いいな。
汗を掻いており、ハンカチ……いや、タオルで拭いている。ぷっくりしており真ん丸で、座っている椅子がぎしぎし軋んでいる。スキンヘッドでちょび髭という、どこか悪徳商人っぽいけど……サンドローネの人選だし、大丈夫だよな? いや馬鹿か俺は、人を見た目で判断するな、爺ちゃんにも言われたぞ。
すると、サンドローネが言う。
「ゲントク。マンボウはもともと商人として商会運営していた経験があるのよ。彼のことなら心配無用……この私の人選だからね」
「わーってるよ。すみません、マンボウさん」
「い、いえいえ。サンドローネ様はそう言ってくれますが、私は自分の商会を潰してしまった愚か者です。買い被りすることだけは……」
「潰した原因が、災害に見舞われた町を救うため、採算度外視で救援物資をひたすら送り続けたからでしょう? 善人は馬鹿を見るというけど、愚か者より立派よ」
「きょ、恐縮です……」
いい人だった……見た目で判断した俺を誰か殴ってほしい。
リヒターは言う。
「今回、新事業となる『結婚式プラン』は、このメンバーで進めます。皆さん、よろしくお願いします」
こうして、アレキサンドライト商会の新事業である『結婚式』について、話し合いが始まるのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、まず一番最初の問題だ。
「結婚式。これについて説明」
「はい、お嬢」
リヒターが一礼し、資料を配る。
そこに書かれていたのは『一般的な結婚式について』だった。
「ゲントクさん、私がこれからこの国における『結婚式』について、資料に基づき説明します。思ったこと、疑問点などの報告をお願いします」
「お、おう」
なんか『真面目な会議』って感じする。
そもそも、こういう雰囲気は合わねえ……町内会での会議とかでも嫌なのに。
というか、みんなもう真面目モード。軽薄そうなシーモアですら真面目な顔で書類を手にし、文字を追っている。フーシェラさん、マンボウさんも言わずもがな。
イェランも、魔道具開発部門の統括として真面目だ。サンドローネは当然だろう。
ここで一発ギャグでもしようモンなら追い出される可能性もあるな……いややらんけど。
「つまり、結婚式というのは婚姻の儀式であり、神に報告する儀であることで」
あ、しまった。リヒターの真面目な説明、あんまり聞いてなかった。
でも……書類を見るだけでも、この世界の結婚式はちょっとつまらん。
俺の知識では、友人の結婚式に出たことで、何をやったかぐらいだけど……まあ、なんとかなるかな。
「───以上です」
リヒターの説明が終わり、サンドローネは煙管を取り出す。
すかさずリヒターが煙草をセットし火を着け、サイドテーブルに用意していた茶器を使いお茶の支度をする……今現在、一番忙しいのはリヒターだな。
「ゲントク、どう?」
「ん?」
「だから、今の話を聞いて、あなたの意見を」
「ああ、そうか。まあ……ツッコミどころ多くてな」
イェランは資料をテーブルに置き、リヒターが用意した果実水を飲んで言う。
「ゲントク、久しぶりに『いつもの』頼むよ~」
「んだよ『いつもの』って。まあ……疑問は山ほどあるけどな」
俺はニヤリと笑う。
サンドローネは煙を吐き出した。
シーモアも紙巻き煙草に火を着け、フーシェラさんは紅茶を飲み、マンボウさんは汗を拭う。
全員を見て、俺は言う。
「まず、堅い」
「「「「堅い?」」」」
おお、サンドローネとリヒター以外がハモッた。
「ああ。硬い。この資料を見るに、結婚式ってのが単なる『報告』になってる。それじゃつまらん」
「……結婚式っていうのは、神に報告する儀式じゃないのか?」
シーモアが煙を吐き出し、灰皿に煙草を押し付ける。
「そう、それが一般的で、この世界では当たり前なんだ」
俺は、それが違うと知っている。
「まあ、俺も詳しいわけじゃないけど……それでも、もっと面白い式にできるぞ。ってわけで、俺のアイデアを聞いてくれ」
さて、教えてやろうじゃないか……結婚式というものをな!!






