独身おじさん、難題に挑む
「う~~~~~~……ん」
現在、俺は一階にある作業場のデスクで書き物をしていた。
近くの作業台には、研磨して飾りを修理して付け直した簪が、俺が作った特注の木箱に入って収まっている。見よう見まねで似たような簪をいくつか作り、作業台の上に転がっていた。
さて、俺が悩んでいるのは簪の修理ではない。
「結婚式、けっこん式、結婚しき、血痕式……」
用紙には、ウェディングドレス、ウェディングケーキ、ケーキ入刀、お色直し、余興など、思いつく限りの『結婚式に関する単語』を書いていた。
「入るわよ」
「こんにちは、師匠!!」
「やっほー、遊びにきたぞー」
「…………おう」
サンドローネ、テッサ、イェラン、そしてぺこりと頭を下げたリヒターだ。
入るなり、サンドローネは作業台にあった簪に視線を向ける。
「これは……髪飾りね。アズマで見た形と同じ……確か、カンザシだったかしら」
「お前、詳しいな……まあ、俺がテキトーに作ったモンだ。欲しいならやるよ」
「髪飾り!! わあ、私もらいますー」
「アタシはいいや。髪はテキトーに縛るだけだし」
サンドローネは簪をテッサへ。どうやって付けるのか考えていたが、なぜかリヒターが解説を始める。サンドローネとイェランは俺の元へ来て、用紙を覗き込んだ。
「新しい魔道具の図面でも引いているのかと思いきや……」
「なにこれ? ウェディング? ウェディングってなに?」
この世界に、『ウェディング』って言葉はない。
というか……サンドローネにイェランか。
俺はペンを起き、椅子に座ったままポケットから煙草を出し、マッチで火を着ける。
「ふぅぅぅ……なあお前ら、結婚式に出たことあるか?」
「はあ? アタシはそんなのないよ。仕事で忙しいし」
「というか……結婚式っていうのは、身内だけでやる儀式でしょう。私は家族と絶縁しているし、取引先で結婚式を挙げたと聞けば、贈り物くらいはするけど」
「……なんとなく、お前らに聞いても無駄な気がしたよ」
俺は煙を吐き出し、灰皿に灰を落とす。
そして、自分の髪をいじって簪を差し、リヒターに見せていたテッサに聞く。
「おーいテッサ、ちょっといいか?」
「はいはーい。あ、師匠どうです? カンザシ……似合ってますか?」
テッサは、髪をお団子にして簪を差していた。
俺は適当に「おお、似合ってる似合ってる」と言い、聞いてみた。
「なあ、お前の故郷……エルフリア森国だっけ。そこで結婚式ってやるか?」
「ええ。森の精霊に報告する儀式がありますよ。親族は全て参加で、一日祈りを捧げるんです」
「ああ~……そういうのか」
異世界っぽい儀式だ。言っちゃ悪いが参考にならんかも。
サンドローネが言う。
「あなた、何を悩んでるの?」
「十二星座の魔女の依頼だよ。魔道具じゃなくて、知識を貸してくれってさ。んで、その知識ってのが『結婚』についてでな」
俺は煙草を灰皿に押し付け、二本目を咥える。
サンドローネが指を鳴らすと、リヒターが煙管を出した。どうやらこいつも吸いたくなったようだな。
煙草を吸って煙を吐き出し、サンドローネは言う。
「結婚ね……私もあなたも無縁ね。正直、私は力になれないかも」
「まあ、期待してねぇよ。俺も半端な知識しかないから、パルテノスには悪いけど……」
と、肩を竦めると。
「こんにちは。あら? 今日は忙しそうね」
「お? なんだ、ポワソンじゃないか。久しぶりだな」
入って来たのは、六歳ほどの幼女……ではなく、十二星座の魔女の一人、『魚座の魔女』ポワソン・ピスケスだ。
ユキちゃんたちとそう変わらない身長、見た目だが……魔導文字を生み出した天才でもある。
ポワソンは、トコトコ歩いて俺の傍へ来た。
「たまたま近くに来たから寄ったのよ。何やらまた、面白そうなことをしているようね」
「面白そうってな……パルテノスの依頼だよ」
「……パルテノス、ね」
おや、なんかポワソンの表情が少し曇ったように見えた。
ポワソンは言う。
「パルテノス……彼女、同世代である私のことも、子供みたいに扱うのよ。少し苦手なのよね……」
「まあお前、見た目子供だしな。身体は子供、頭脳は大人!! ってやつか?」
「なにそれ? ともかく……どんな依頼?」
俺は、パルテノスから『俺の故郷でどんな結婚式をやっているのか』という依頼について説明。俺は結婚について全く詳しくないので困っていることを言うと、ポワソンは周りを見て言う。
「そんなの、簡単じゃない」
「え?」
「断片的な知識はあるんでしょう? なら、それを元にして、新しい結婚式を考えればいいのよ。これだけ人がいるのよ? 意見を出し合えば簡単じゃない」
「いやでも、結婚式ってのは神聖な儀式だろ? 中途半端なモンを……」
「中途半端って、あなたが思うの? でも、ちゃんとまとまりのある、理に適った式なら……それは中途半端と言える?」
「……む」
そう言われると……どう、なのかな。
サンドローネを見ると、何やら考え込んでいた。
「そうね。この国の結婚式をおさらいして、あなたが持つ断片的な情報を組み合わせてみるのはどうかしら。組み合わせの過程で、余分なところをカットしたり、さらに追加したり……一通りの『流れ』を組み立ててごらんなさい。悩み続けるより、まずは考えて行動するのが一番よ」
「……確かに、そうかもな」
ポワソンは、にっこり微笑んで頷く。
「うし。サンドローネ、リヒター、テッサ、イェラン。ちょいと協力してくれ」
「……いいわ。新しい事業のニオイがするわね」
「アタシもいいよ。ケッコンに興味ないけど、面白そうだし」
「私もお手伝いさせていただきます」
「もちろん私もです!! よーし!!」
俺を入れて五人。みんなで知恵を出せば何とかなるか。
俺はポワソンに言う。
「ポワソン、ありがとうな。なんだかできる気がしてきた」
「力になれたようなら「あらぁぁぁ~~~!!」
と、いきなり割り込んできた声。
振り返るとそこにいたのは、『乙女座の魔女』パルテノス・ヴァルゴだった。
目をキラキラさせると、一瞬でポワソンの元へ。そして思い切り抱っこして抱きしめた。
「ポワソンちゃんんんん!! 久しぶりねぇぇ~~~!!」
「うぶぶぶっ、ちょ、パルテノス、くるし」
ポワソンは、その大きな胸に完全に埋まっていた……あ、頭が完全に胸に包まれて、首から下だけしか見えねえ。しかも、身体はきつく抱きしめられているから足だけバタバタしてる。
このままじゃ窒息する気がしたので言う。
「お、おいパルテノス、ポワソンが死ぬぞ」
「え? あらやだ、ごめんなさいねぇ。はい、抱っこしてぎゅ~」
「ぶはっ!! ゲホゲホ、げほげほっ!! はぁはぁ……あ、あなたね、毎回毎回、出会うたびに殺しかけるのやめてくれないかしら」
「ふふ、そんな物騒なことするわけないじゃない。ん~ポワソンちゃん可愛い♪」
「あのね……もう何万回も言ってるけど、私とあなたは同世代。子供扱いしないで」
「えぇぇ? こんなに可愛いのにぃ」
「いいから、離しなさい」
「あ、ゲントクちゃん。結婚式のアイデアだけど……」
どうやら、抱っこしたまま要件に突入するようだ。
ポワソンが何とか逃れようとするが、パルテノスの拘束から逃れられない。
「あ~……アイデアだけど、俺の知識は半端だからな。こっちの世界の結婚式とかと合わせてお前に提案するよ。それに必要な魔道具とかも必要になるかもだしな」
「あらぁ~……じゃあ、ゲントクちゃんだけじゃなくて、みんなに依頼しちゃうわね。ふふ、なんだか素敵な予感がするわ~」
パルテノスはニコニコしていた。
サンドローネが言う。
「パルテノス・ヴァルゴ様。私はアレキサンドライト商会のサンドローネと申します。その『結婚式』に関する依頼、我が商会で受けさせていただきます」
「うん、お願いね。ちゃ~んとお礼するからね♪」
「は、はい」
こうして、パルテノスの依頼は俺個人じゃなく、アレキサンドライト商会で受けることになった。
「ちょっとパルテノス、離して……!!」
「はいは~い。ママとお風呂行きましょうね~」
「ちょ、ママって……ああもう!!」
パルテノスは、ポワソンを抱っこして出て行った……なんというか、ママみ溢れるやつだ。
サンドローネが言う。
「さて、正式に依頼も受けた。ゲントク、これからはアレキサンドライト商会も協力するわ」
「……なんか積極的だな。お前、何企んでるんだ」
「私は商人よ? ふふ、結婚式……単なる儀式としか思わないけど、もしかしたら新たな商売になるかもね」
こいつは商魂たくましいな……まあいい。
とりあえず、今ある情報を整理して、結婚式についてしっかり考えるとしますかね。






