『乙女座の魔女』パルテノス・ヴァルゴ
さて、目の前にいる二メートル近い女性……いやはや、とにかくデカい。
身長もだけど、俺の視界いっぱいには胸があった。巨乳……いや爆乳。スノウさんよりデカい。
「あの~」
「はっ……あ、ああすんません。えーと、パルテノス、ヴァルゴ……だっけ」
「ええ。ふふ、や~っとゲントクちゃんに会えたわ~」
なんかほわほわした人だな。
糸目というか、ずっとニコニコしてる。ロングウェーブの長い髪がふわふわ揺れ、不思議な甘い香り……なんか嗅いだことあるな……ああそっかこれ、ベビーパウダーみたいな香りなんだ。
パルテノスは、ニコニコしながら言う。
「あのねぇ、ゲントクちゃんにお願いが……」
「「「おじちゃーん!!」」」
と、久しぶりに聴く声が割り込んできた。
そっちを見ると、三輪車をキコキコ漕ぐケモミミチルドレン……ケモチルの三人だ。
クロハちゃん、リーサちゃん、シアちゃんが俺の前で停車。三輪車から降りて足にしがみつく。
「がうー、ひさしぶりだぞ」
「きゅうー、おじちゃん」
「わうう、あそびにきた」
「ははは。みんな久しぶりだな、元気にしてたか?」
俺はしゃがみ込み、三人の頭を順番に撫でる。
三人は尻尾をブンブン振り、耳をピコピコ動かした。そして、お供の動物たちも傍にいる。
クロハちゃんの黒いオオカミ、リーサちゃんの黄金色のキツネ、シアちゃんの……あれ?
『ワウウウ』
「わうー、ジロ、おじちゃんにごあいさつ」
灰色の柴犬、しかも子犬だった。
初めて見たけど、シアちゃんにもお供のペットができたのか?
シアちゃんは、灰色の子犬を抱っこして俺に見せてきた。
「わうう、わたしのおともだちなの」
「へえ、可愛いね。この子、どうしたんだい?」
「あのね、ウングおにいさんがくれたの。雪のくにで、拾ったんだって。ヒコロクと同じいぬなんだって。お世話できないから、わたしが世話してって」
「なんと」
ウングがくれたオータムパディードックか……雪国ってことはスノウデーン王国? そこで見つけたオータムパディードックを拾って、シアちゃんにくれたのか。
なんか意外な展開だ。ウングがねえ……とりあえず撫でる。
『くぅぅん』
「わうー、ジロ、よろこんでる」
「はは、ジロか。いい名前だな」
「がうう、くろ助もいるぞ」
「わたしのサリーも」
おお、オオカミのくろ助、キツネのサリーが撫でろと言わんばかりに近づいてきた。うん、もふもふは可愛いぜ。
と、忘れてた。
「おっとスマン、パルテノス。この子たちは知り合いの子供でな、いつも公園で遊んでて……」
「あぁぁぁぁん!! かわいいわねぇ~」
次の瞬間、パルテノスは俺を押しのけてしゃがみ、子供たちを撫で始めた。
「こんにちはぁ~、ふふ、みんな可愛いわねぇ。お姉さんと遊ぼっか」
「がう? あそんでくれるの?」
「きゅううん、あそびたい」
「わふぅ、あそぼう」
「ふふふ。じゃあ遊ぼっか。さ、公園に行きましょうね~」
「にゃああー!!」
と、ここで聞き覚えのある声。
スノウさん、そしてこちらに走って来るユキちゃん、白玉、そしてウォンバット……じゃなくて、テプロドトンのエリザベスが来た。
ユキちゃんは急停止し、久しぶりに再会する友達に挨拶をする。
「にゃああ。みんな、久しぶりー!!」
「がうー、ユキだ!!」
「きゅう、げんきにしてた?」
「わうう、一緒にあそぶぞ!! わう……? ユキ、それなに?」
と、シアちゃんはエリザベスを指差す。
エリザベスを抱っこし、ユキちゃんは自慢するように見せつけた。
「ふわふわなの。新しいともだちなの!! ブランシュおねえちゃんが、みんなと遊ばせてって、つれてきたの!!」
『もあぁぁぁ』
「がうー、なんだこいつ」
「きゅう、ふわふわー」
「くぅん、抱っこさせて」
エリザベスは子供たちに抱っこされ、撫でられ、すぐに人気になった。
そこにパルテノスも混ざり、子供たちと一緒に笑っている。
というか……用事あったんじゃないのかな。
「ゲントクさん、こんにちは」
「どうも、スノウさん」
スノウさんは、手荷物を持っていた。
聞くと、子供たちにお土産やおやつを持って来たようだ。ユキちゃんじゃ重くて持てないし、今日は仕事も休みなので一緒に来たらしい。
スノウさんは微笑み、パルテノスに気付く。
「あら……あちらのお方は?」
「いやぁ、なんと言えばいいのか……子供好きみたいなんですけど」
「そう、なんですか?」
困惑するスノウさん。申し訳ない……俺もよくわからん。
パルテノスは東屋に行くと、子供たちと座る。
そして、ポケットから糸束を取り出し、適当な長さに切って輪を作る。
「見ててね~……こうして、こう、こうすると……はい、箒」
「「「「おおー!!」」」」
なんと、パルテノスはあやとりを始めた。
箒、星、東京タワーに、俺も知らない形を糸で作る。
この世界にあやとり……いや、たぶんアツコさんから教えてもらったのかな。
他にも、折り紙、おはじきやお絵描き、お手玉などを始めた。身体を動かすような遊びじゃない、どこか女の子っぽい遊びだ。
ユキちゃんたちも、知らない遊びなのか楽しんでいる。
俺はスノウさんに言う。
「任せて大丈夫そうだ。スノウさん、お菓子とか子供たちにあげるなら、事務所の空き部屋使っていいですよ。たぶん、昼飯もそこで食うと思うんで」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
さて……俺もパルテノスのところに行ってみるか。
◇◇◇◇◇◇
結局、お昼まで子供たちはパルテノスと遊んでいた。
そして、事務所のキッチンでスノウさんが昼飯を作り、そのあとはお菓子を食べたりして、今はお昼寝をしている。
俺、そしてスノウさん、パルテノスは事務所のソファに座り、お茶を飲んでいた。
「ふう、子供たちは可愛いわぁ。この世界の宝ねぇ」
「それには同意するけどよ、お前……俺に用事あるんじゃないのか?」
「あ、そうだったわぁ。ごめんなさいねぇ、わたし、子供が大好きなの。だから、小さい子供を見ると、ついお世話したり、一緒に遊びたくなったりしちゃうのよねぇ」
うーん、パルテノスだから許されるセリフだな。
もし俺が「俺、子供大好きでな……小さい子を見るとお世話したくなったり、遊びたくなっちゃうんだよねぇ」なんて言ったらドン引き、サンドローネに聞かれたら衛兵呼ばれてそのまま牢屋行きだ。
スノウさんが言う。
「パルテノスさん、子供たちも楽しんでいました。ありがとうございます」
「いいのいいの。ふふ、あなたもお母さんなのねぇ」
「はい……あら? あなたも、ということは」
「ふふ、そうなの。わたしもお母さんなの」
「え、マジ?」
ちょっと驚いた。これまでにも十二星座の魔女には会ったけど、既婚者はいなかった。
驚いていると、パルテノスは続ける。
「お母さんといっても、わたしはエルフだからね……旦那様は必ず先立っちゃうし、子供もすっかり大きくなって自立して……旦那様のところへ行った子も多いわ」
「「…………」」
こ、コメントしづらい。
スノウさんも、恋愛結婚というか獣人としての結婚だから、なんといえばいいのかわからないようだ。
ちなみに獣人は重婚可能で、嫁が多ければ多いほど、オスとして優れているという認識らしい。
「あ、そんなに悲しまないで? ちゃんとお別れはできてるし、旦那様、子供たちと過ごした日々は決して忘れないわぁ」
「お、おう……ちなみに、その……何人くらい、旦那様が?」
「ふふ、内緒」
パルテノスはクスっと微笑んだ。
うーん、未亡人……スノウさんもだけど、タイプが違うなあ。
と、まあ別にそれはいい。
「こほん。ところで、俺に用事って何だ? アツコさんの遺品修理か?」
「それもあるけどねぇ。アイデアが欲しいのよ。ゲントクちゃんは、アツコちゃんと同じ世界の子だから、きっと素敵なことを教えてくれると思ってね」
「まあ、地球の知識にはお世話になってるけどな。で、パルテノスはどんな偉業を?」
「ふふ、わたしのお仕事はね~」
俺、スノウさんはその『仕事』を聞いた。
そして……今回ばかりは、俺にもどうすればいいのか、わからないのだった。






