テッサ、次の研修先へ
レレドレを出て、連結馬車が走ること数日。
エーデルシュタイン王国はもうすぐ春。雪が積もっていた街道もすっかり綺麗な舗装街道になり、日差しの柔らかさ、空気の温かさが春だと伝えてくれる。
俺はベッドで目を覚まし……胸に妙な重さを感じた。
「……にゃ」
ユキちゃんだ。
そういや、「にゃあ。今日はおじちゃんとねる」って枕と白玉を連れて来たんだっけ。スノウさんが「ダメ」って言おうとしたけど、まあ俺は構わない。
というわけで、ユキちゃんと一緒に寝た。寝返りは打たないで寝れるらしいから、潰すようなことはなかった。
ユキちゃんは白玉を抱っこして寝ていた……白玉、大福よりはやや小さいけど、もうすっかり大人の猫みたいな大きさだな。
すると、ユキちゃんが目を開ける。
「んにゃ……くぁぁ」
『ニャアア』
「おはよう。さ、着替えて朝ごはんだぞ」
「にゃああ……」
俺は素早く着替え、ユキちゃんの着替えを手伝い、食堂車へ。
食堂車からはいい香り……すでに、サンドローネは紅茶を飲み、リヒターが背後に控えていた。
「おはよう。あと二時間でエーデルシュタイン王国に入るわよ」
「おう……ふぁぁ、煙草あるか? 部屋に忘れちまった」
サンドローネの真向かい移動する。
ユキちゃんはキッチンに入ると、スノウさんが抱っこして出て来た。
リヒターが素早く子供用椅子を出し、俺の隣へ……おうおうリヒター、気が利くねえ。
サンドローネに煙草をもらい、マッチで火を着けて吸う。
「はぁぁぁぁ~……朝の一服、最高」
「その気持ち、よく理解できるわ。さて……確認ね」
「あ?」
すると、スノウさんが朝食のプレートを用意してくれた。
ご飯、焼いた魚、ベーコンエッグ、山盛りのキャベツ、味噌汁……いやどういうチョイスなんだ? どうも『ごきげんな朝飯だ』って言いたくなるぞ。
ま、まあいい……ユキちゃんも同じメニューだし、文句は言うまい。
俺がベーコンエッグを食べると、サンドローネが言う。
「テッサさんは、あなたのところからうちの……正確には、イェランのところで研修を受けるわ。その後、ファルザン様のところで本格的な魔道具技師としての研修が始まるわ」
サンドローネは、足元にいたエディーが甘えてくるので頭を撫でる。
俺はご飯を食べながら言う。
「研修か……俺のところじゃ、魔道具技師というか、遊んだりする方がメインだったな」
「ま、それはそれで大事じゃない? さて、テッサさんの荷物整理もあるから、明日には引っ越し手伝いを何人かあなたの会社に送るから」
「そんなに荷物ないと思うぞ。まあ、わかったよ」
そうか……テッサも、研修終わったら出て行くのか。
なんだか、あっという間だったなあ。
◇◇◇◇◇◇
さて、エーデルシュタイン王国に到着した。
連結馬車が俺の会社の前に止まり、ぞろぞろとみんな降りてくる。
ロッソたちは、ヒコロクに連結馬車を一両だけくっつけた。
「じゃあおっさん、いろいろありがとね!! 楽しい冬の旅行だった!!」
「おう、また遠出するときには、お前たちに依頼するよ」
「……絶対だからね」
「ふふ。わたくしたち、おじさま専属の護衛みたいですわね」
「まあ、ゲントクとだと、いろいろ楽しいけどね」
みんなで笑い、俺はヒコロクの頭を撫でる。
テッサは、ロッソたちに頭を下げたり、悪手をしていた。
そして、ロッソたちの馬車が去る。
「テッサさん。明日、引っ越し手伝いを送るわ。そのまま、アレキサンドライト商会が管理する家に案内するわね」
「んふふ、アタシがいろいろ案内してあげる!!」
「あ、はい!! お願いします!!」
「じゃあ、また明日」
そう言って、サンドローネとイェランは行ってしまった……いや帰るの早い。
残ったのは、スノウさんとユキちゃん。
「あれ、ロッソたちと一緒に行かなかったんですか?」
「はい。今夜の食材を買うので。リヒターさんが、お手伝いしてくれるそうなので」
「え、リヒター?」
すると、気配を消していたのか、リヒターがコソコソ会社の植え込み近くにいた。
ニヤニヤしていると、リヒターが目を逸らす。
「ではゲントクさん。楽しい旅行、ありがとうございました」
「いえいえ。また機会あればぜひ」
「はい、その時はよろしくお願いしますね」
「にゃああ。おじちゃん、ばいばい」
ユキちゃんの頭を撫で、スノウさんたちは行ってしまった。
さて、俺とテッサだけになった。
「師匠。あの……今日が最後ですね」
「おう。でもまあ、アレキサンドライト商会とか、リブラ商会で研修するなら、永遠の別れって感じじゃないだろ? 最後だけど、いつでも遊びに来ていいぞ。と……そうだ、今日はお前の送別会でもやるか」
「え、師匠と二人きりですか?」
「イヤならいいけどよ」
「いえいえ!! なんだかうれしくて……えへへ」
この日、テッサの事務所にある私物や工具類の片付けをしたあと、二人で居酒屋に向かった。
そこに、商業ギルド受付のグロリアや、冒険者ギルド受付のヘクセン、魔導武器職人のホランド、弟子のビンカちゃんが合流し、久しぶりに楽しい『地元飲み会』となった。
うまいツマミ、酒、そして友人たち。
ようやく冬が終わり、春がやってきた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
事務所に行くと、テッサの荷物をリヤカーに載せるアレキサンドライト商会の職員が会社の前にいた。
そして、私服のテッサ、ついでにイェラン。
どうやら、荷物の運び出しは終わったようだ。
「あ、師匠」
「おう。引っ越しだな」
「はい」
テッサはぺこっと頭を下げ、振り返り、オダ魔道具開発所を見た。
「なんだか、あっという間でした。師匠の弟子になって、勉強……あ、あれ? なんか魔道具の勉強、あんまりしてない」
「まあそうだろ。ちょっと仕事してすぐ、休暇でスノウデーン王国だしな」
「あ、あはは……でもでも、勉強になりました!! 居酒屋での飲み方とか、いろんな居酒屋とか、これでハシゴ酒に付き合えって言われても大丈夫です!!」
そ、それは大丈夫なのかな……?
まあ、精神的にテッサはタフになった気も……するような、しないような。
でもまあ、俺のところでの仕事は、もう終わりだ。
「テッサ、お疲れさん。まあ……楽しかった。俺はこの会社、一人でやっていくつもりなのは変わらないけど、お前がいた時間も悪くなかったぞ」
「おーいゲントク、素直じゃないぞー」
「うっせ」
イェランがからかうようにニヤニヤすると、テッサも笑った。
目尻を拭ったような気もしたけど、きっと気のせいだろう。
「師匠!! お世話になりました!! 師匠はずっと、私の師匠の一人です!!」
「おう。困ったことあれば、相談に来ていいぞ。仕事終わり、イェランと一緒に飲みに誘うのもいい。同じ国に住んでるんだ。たまには遊びに来い」
「はい!!」
テッサは満面の笑みを浮かべ、俺に向かってもう一度頭を下げた。
そして、「ではまた!!」と、イェランと一緒に歩き去った。
その背中を見送り、俺はポケットから煙草を取り出し、会社の前で吸う。
「……さーて、また一人か。よーやく静かになったぜ」
寂しくないといえば嘘になるけど、以前に戻るだけだ。
俺は煙草を自作の携帯灰皿に入れ、カッコよくその場を。
「ごめんなさぁぁ~~い」
「へおっぶ!?」
振り返った瞬間、何かに激突された。
柔らかい。なんか甘い香りする。何かに包まれている。
「もがが、もが……なな、なん、なんだ!?」
柔らかな何かを両手で掴み、呼吸を確保しようと顔を引っ張り出す……なんだこの弾力は。
「ああぁぁん、もう、触っちゃダメよぉ。もう、メッ!!」
「え、あ」
俺が両手で鷲掴みしていたのは……『胸部』だった。
しかも、スイカみたいなデカい『胸部』だ。鷲掴みなんていうが、掴めない。
そして、その持ち主は……デカい。
思わず見上げると、顔が見えた。
ニコニコとした、柔和な笑みを浮かべた美女。ウェーブのロングヘア。長い耳。
エルフなのはわかった。だが驚いたのは……その身長だ。
俺より頭一つ以上の大きさ。たぶん、二メートル近い。
「……あ、あの」
「いきなりぶつかってごめんねえ? だいじょうぶ? えっと……ゲントクちゃん」
「……ゲントク、ちゃん」
俺は、身長二メートル近い巨乳美女の胸を鷲掴みしていた。慌てて手を離して距離を取る。
女性は、大きな胸を手で隠すようにし、照れているように見えた。
「ふふ、恥ずかしいわぁ。と……自己紹介ね。わたし、パルテノス・ヴァルゴで~す。『乙女座の魔女』っていえばわかるかな?」
「……じゅ、十二星座の?」
「うん。あのね、ゲントクちゃんにお願いがあってきたの。お話、聞いてくれる?」
「……あ、はい」
えー……テッサがいなくなり、感傷に浸るのも忘れ、俺は十二星座の魔女の『お願い』を聴くのだった。
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これからも『独身おじさん』をよろしくお願いします!!






