スノウデーン王国、二度目の冬⑨/模型作り
さて、あのクソ長い階段を苦労して降りるには?
まあ誰もがわかる……エレベーターと、エスカレーターである。
俺は、素材置き場から鉄板をいくつか用意し、箱、滑車を作り、ひもを用意した。
それらを見て、トーラスとテッサは首を傾げた。
「あの師匠、これは?」
「階段いらずの秘策そのいち……エレベーターだ」
「エレベーター? アツコが言っていたような……」
まず、大きな箱の天井部分に滑車を付けて紐を通し箱に固定。箱の反対側に重りを付け、箱と釣り合うようにする。
「構造はこんな感じだ。仕組みは滑車とロープ、それから釣り合い重り。この三つが心臓部だ。ロープの片方に『かご』を、もう片方に『重り』をつける。滑車に『回転』の魔石を付けて、巻き取るようにすれば……」
箱は上に動き、重りをゆっくり落とすと下へ行く。
まあ、科学の実験でもやる内容と同じだ。
「これは模型だけど、もっと大型にして、人が乗れるくらいの大きさにする……こっちのかごに人が乗って、地下へ一気に……」
俺は模型のはこを下へ。
「こんな感じで、下への移動が速やかになるようにする魔道具だ。構造はこれでいいとして、重さとか大きさの設計は、ここの専門家に任せるか。テッサ、構造は理解できたか?」
「はい!! 師匠、すごいです……こんなものを思いつくなんて」
「まあ、俺が考えたものじゃない。先人の知恵ってやつだ。じゃあテッサ、この模型をもっと精錬させて、完成させてくれ」
「お任せください!!」
「私も手伝うわ。面白そう」
テッサ、トーラスは模型作りを開始。
俺はその間、もう一つの移動法……エスカレーターについて考えた。
「エスカレーター。修理業者のヘルプで同行して修理したことあるけど……」
動く階段。
あれ、ローラーの付いた踏み段が回転してるんだよな。
いつもお世話になってる『回転』の魔石を使って、踏み段を……確か、段差の付いたやつか。これをいくつも作って、斜面に沿ってあるガイドレールの中を通って回り、階段となる。
言葉じゃわかりにくい。でも、エスカレーターがあればあの長い階段も苦労することなく登れる。
「けっこうめんどくさいな……あのデカくて長い階段を半分カットして、登りと下りが三か所ずつあれば移動も楽になるかな……けっこう人がいたし、一か所ずつじゃ厳しいか」
図面を書きながら考えていると、テッサが言う。
「師匠、模型のチェックお願いします!!」
「ん、ああ。って……すごいな」
模型は完璧な『エレベーター』だった。
しかも、箱には花柄の彫刻までされてるし、なぜか台には鉄で作ったウォンバット……じゃなくて、テプロドトンが何匹も集まって遊んでいる光景があった。
器用すぎる。模型作りをお願いして二時間くらいなのに。
「ま、まあいいんじゃないか? というか、このテプロドトンは……」
「えへへ。かわいかったので作りました」
確かに可愛かったけどな。まあいいか。
するとテッサ、俺の手元の図面をのぞき込む。
「師匠、これは……」
「エスカレーター。動く階段の図面だけど、ちょっと悩んでてな」
「なるほど……ふむ、じゃあここをこうすればどうですか?」
「お? おお、確かに……じゃあ、これだとどうだ?」
「いいですね!! さすが師匠です!!」
悩んでいた個所を、テッサの提案通りに修正してみたら、かなりいい感じになった。
「じゃあ、必要な部品を作ってみますね」
「ああ、頼む」
「テッサ。難しいところは指示をちょうだい、私も手伝うわ」
三人で模型作りを開始した。
エスカレーター、ガイドレールと踏み段の組み合わせにかなり苦労したが、完成した模型のガイドレールを回転させると、ちゃんとエスカレーターとなって動いた。
「わああ!! 階段が動いてます。すごいです!!」
「驚きね……これが、動く階段?」
「いやー苦労した。模型はこんなもんでいいか。あとはこれをエアリーズに渡して、施設の改良をすれば移動問題は解決だ」
改善案その一、『エレベーターとエスカレーター』はクリアだ。
さて、次の問題は。
「温泉の移動ですよね……確かに、広すぎて移動が大変です。何キロも裸で歩くのって疲れるし恥ずかしいですし」
「まあ、それは簡単だ。トロッコでも作ればいい」
「トロッコ?」
「ああ。温泉内に線路を引いて、それに乗って移動するんだ。いちおう模型作るか」
これは簡単にできた。
線路を敷き、箱に滑車をつけて線路の上に乗せるだけ。あとは『回転』の力で滑車を回転させれば目的地まで行ける。
温泉気分を出したいのなら、箱を温泉で満たすとか、箱に『温熱』や『浄化』の魔石を仕込んできれいなお湯を張って、トロッコ温泉にするとかすればいい。
「トロッコ温泉!! なんだかおもしろそうですね~!!」
「今思いついたけど、俺も面白そうだって思った。いけるなこのアイデア……」
「移動を兼ねた新しい温泉ね……いいじゃない」
テッサやエアリーズにも好評だ。
とりあえず改善案その二、『トロッコ温泉』の完成だ。
「ヘドロスライム問題……確か、源泉の一つが汚染されてるんだったか」
「そうね。お姉ちゃん、『最悪の場合、露天風呂の源泉を封鎖するしかない。湯量は減るが別の源泉から湯を引っ張る』ってさ」
「それもありっちゃありだが……そうだな、ヘドロスライムの実物が欲しい」
いくつか考えがあったので、試してみることにした。
◇◇◇◇◇◇
さて、トーラスが持ってきた『ヘドロスライム』が、木桶の中にいる。
薄紫のドロドロだ。スライムっていうが、これは生きてるのだろうか?
ってか……く、くっさ。
「師匠、臭いです……」
「……わかってるよ」
ヘドロに硫黄を混ぜて放置したような臭いする……最悪。
こんなのが源泉に住み着いて、お湯がこの匂いになるのは最悪すぎる。しかも源泉そのものが餌なので死ぬこともないし、ずっと増え続ける。
「師匠、どうするんですか?」
「とりあえず……こいつを使ってみるか」
俺は、『メッシュスパイダー』という蜘蛛の糸で作ったフィルターに魔石をくっつけ、そこにヘドロスライムを流してみた。
すると……おお、予想通り。
「あれれ? 師匠、これ……ドロドロが、さらさらになってます!!」
「思った通り。ヘドロスライムは『浄化』の魔石で浄化できる」
「……このスライム、すごいわね」
トーラスは、ヘドロスライムだったものに触れる。
「汚れや臭みが完全に浄化されてるわ。しかも、スライムそのものは残ってるし、生きている……もしかしたらこれ、利用できるかも」
「利用?」
「ええ。さっき言ったわよね? フォボス森国……そこにはダークエルフが住んでいるけど、彼女たちは化粧品にスライムを使うの」
「す、スライムを化粧に……ですか?」
「ええ。純粋なスライムに薬草や香料などを食べさせて、『ビューティフルスライム』に育てるの。その子たちを樽に詰めて、その中に入ると、スライムたちが身体の汚れを吸収して、薬効成分で肌がきれいになるのよ」
「わあ、すごそうです。やってみたいですね」
「……それもアイデアとして使えるかもしれん」
スライム風呂。
薬草などを食わせたスライムを湯船に浮かべる……物珍しさからウケるかも。
「よし、浄化フィルターを作って、温泉パイプに設置するか。これで問題の三つめもクリアかな」
問題その三の改善案、ヘドロスライムの浄化もこれでクリアだ。
浄化フィルターの試作をいくつか作り、全ての準備物が完成した。
「よーし。これで準備完成だ。エアリーズのところに行って、改善案の説明に行くぞ!! そのあとは酒でも飲みに行くか!!」
「はーい!! いやあ、いい仕事しましたねー」
「なかなか楽しかったわ。あと、お姉ちゃんの説得、忘れないでよね」
こうして、三つの問題点についての改善案が完成した。
あとはここの職人さんたちにお任せして、俺はレレドレにある自分の別荘に行きたいぜ!!






