スノウデーン王国、二度目の冬⑦/源泉チェック
とりあえず、俺とサンドローネは地下飲食街へ。
アオたちはまだ温泉満喫してるみたいだし、待ってるのも時間かかりそうだ。
まあ、地下飲食店街で合流できるだろう。
ロビーにある、地下へ続く階段を降りて行く。階段の横幅はかなり広く、段と段の幅も広いのでコケる心配もない。子供とかが走っても安心だ。
そして、地下……まあ、温泉でもわかってたけど、とにかく広い。
「……すごい広さね」
「いや、おかしいだろ」
階段の途中で見えたのは、巨大なサークルと言えばいいのか……円形に広がる超広いドーム状の空間だった。そこに、円に沿って店が並んでいる。
ざっと見ただけで、百以上の店がありそうだ。というか、マジで東京ドームレベルの広さなんだが……つーか、階段もめちゃくちゃ段数あるし、上がること考えると頭痛い。
「まず一つ。デカけりゃいいってもんじゃない。この階段、下手したら千段以上あるぞ……」
「……これ、登るのよね」
「おう。ここ設計したやつ、おおざっぱと言うか、とにかく広さを追求して、歩く人のこと考えてないぞ……うーん、できるかなぁ」
「あら、何かアイデア?」
「いや、もうエスカレーター必要だろ」
エスカレーター。一応、構造は理解している。
『回転』の魔石があればなんとかなりそうだ。俺が手掛けるんじゃなくて、模型を作ってここの技術者にやらせるのがいいかもしれん。
「エスカレーター、って?」
「自動で動く階段だ。ここだと……一か所じゃなくて、十か所くらいあった方がいいな」
東京ドームレベルの地下空間に降りる、千段以上の階段……うん、エスカレーター必要だ。
俺とサンドローネはようやく階段を降りた。
「あー疲れた……見ろよサンドローネ、登り階段」
「……やめて。今は見たくないわ」
見上げると、山奥にある寺院へ続く長い階段みたいなのが見えた。
まあいい。とりあえず、今は飲食店街を楽しむとしよう。
◇◇◇◇◇◇
さて、サンドローネとさっそく飲食店街を歩く。
「なるほどね。円に沿うようにお店を並べているのね。円の中に円、円……回るように飲食店を巡れるのは面白いわ」
「右側、左側とどっち見ても店があるのいいな。お? おい見ろ、雑酒専門店だってよ!!」
「ダメよ。お酒でフラフラになったら、階段から落ちるかもしれないわ」
「うぐ、否定できん……エスカレーターもだけど、エレベーターも必要だな」
「それはなに?」
「昇降機……ああ、あとで説明するよ。とにかく、改善点はけっこうあるぞ」
クソ広い温泉、広すぎる地下へ移動する階段、ヘドロスライム問題。
スーパー銭湯としては最高なんだが、とにかく問題点が多い。
二人で歩いていると、後ろから声がした。
「ししょぉ~!! サンドローネさぁ~ん!!」
「ん? おお、テッサか」
「ふいい、やっと追いつきました。っていうか、階段きついです……せっかく温泉入ったのに、もう汗だくですぅ」
テッサは浴衣の前をパタパタする……おお、見えそう。
「……ゲントク」
「え、あ。うん、いい天気だな」
「ここは屋内よ。まったく、男って」
サンドローネに睨まれた。サンドローネはテッサに「ほら、やめなさい」と胸元パタパタをやめさせる。
俺は誤魔化すように周りを見たが……うん、若い人、獣人、亜人系が多い。老人系はあんまりいなかった……やっぱ階段のせいだよなあ。
すると、俺の袖がクイクイ引かれた。
「……おじさん。ごはん」
「おお、アオか。っと……なあアオ、この階段、どう思う?」
「……広くて、大きい。でも段数多くて大変」
「アオでも疲れるか? 冒険者の視点で見てどう思う?」
「……ダンジョンでも、ここまでの階段はない。私みたいな冒険者にはそこまでじゃないけど、一般人にはきつい」
「やっぱそうか」
「あの、師匠……階段の入口で、お年寄り夫婦が途中で引き返してました。やっぱり降りるの大変みたいです」
「……うーん。こりゃ、早急な対策が必要だな。テッサ、あとでエアリーズから使えそうな素材をもらうから、魔道具作り手伝ってくれ」
「はい!! えへへ、でもその前にご飯ですね」
「ああ。みんな、何食う?」
みんなが食いたかったのは、肉、魚……まあそうだよな。
というわけで、どっちも食える『鍋』にすることにした。
歩きながら鍋屋を探していると、イェランも合流。鍋を食うことを伝えると「いいね!!」と大喜びだ。
そして、地下の中央付近に行くと……見覚えのある姿、声。
「んまぁぁ~!! リーンドゥ、そっちの鍋も食べさせて!!」
「ん、いいよ。ロッソ、そっちの辛い鍋追加していい?」
「もち!! まだまだ食え……あれ? おっさんたちじゃん」
鍋屋のテラス席で、いくつも大鍋を空にしていたのは、ロッソとリーンドゥだった。
というか、外で食う鍋とかいいな。店の入口でこんな美味そうに鍋食われたら食いたくなる。この店、わかってるな。
「おっさんたちもご飯? お鍋ならこの店いいよ。すっごくおいしい!!」
「ね、ね、おっちゃんたちも一緒に食べよ~!! すみませーん!! お席追加で!!」
まあ、断る理由はない。
というか……こんな美味そうなの見せられたら食いたいわ!!
◇◇◇◇◇◇
えー、鍋は非常においしかったです!!
ロッソ、リーンドゥは「デザート~!!」と飲食店街を再び歩き出し、イェラン、アオも一緒に行ってしまった……女の子はデザート別腹だよな。
俺、サンドローネ、テッサの三人は……。
「はぁ、はぁ、はぁ……キッツ」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……うっぷ、な、鍋、ぅうう……お、お腹、厳しいわ」
「ふぃぃ、けっこうな段数ですねえ。上る方がきついです!! 師匠、サンドローネさん、大丈夫ですか?」
えー、階段でめちゃくちゃ苦労していました。
鍋は絶品だった。だが、鍋食ったあとに階段上るのはキツイというか死ぬ。
何度も止まり、少しずつ上がり……再びロビーに戻ったのは、じつに二時間は経過していた。
俺、サンドローネは背中合わせで階段入口で座り込む。
「……サンドローネ。俺、食事はもう全部部屋でいいわ」
「……同感ね。正直、もう二度とこの階段使いたくないわ」
疲労困憊……足ガックガク。
すると、エアリーズ、支配人のバルトロさんが俺たちの元へ。
「二人とも、どうした?」
「……エアリーズ。お前って体力ある方か?」
「まあ、自身はあるな。ああ……この階段で疲れたのか。まあ、雪国の住人たちは、毎朝雪かきで鍛えられているし、足が埋まる雪道を普通に歩くから足腰も鍛えられているからな」
「……雪国の住人基準かよ。ここ、観光地だし……もうちょい、一般的な」
「すまんな。設計者は生粋のスノウデーン人だから仕方ない」
「……改善点、いくつかあるからぜひ頼む。あと、魔道具も作るから、適当な素材くれ」
「おお、早速か。バルトロ」
「お任せください。ゲントク様のお部屋に、スーパー銭湯の建設で使った素材をお持ちしますので、ご自由にお使いください」
バルトロさんはペコっと頭を下げ行ってしまった。
エアリーズも、「ではまたな」と行ってしまった……つーか、俺とサンドローネ、立てねえんだが。
「お……お嬢!?」
「り、リヒター……? ううう」
「し、しっかりしてください!!」
「まあ、サンドローネさん!! 大丈夫ですか?」
デート中のリヒター、スノウさんだった。
二人とも浴衣だ。スノウさんはサンドローネに肩を貸す。俺はなんとか自力で立ち上がった。
リヒターは、冥府の入口みたいに口を開けている階段を覗き込む。
「まさか、飲食店街へ?」
「ええ……もう、歩けないわ」
「私とスノウさんも行くつもりでしたが……スノウさん、申し訳ございません」
「いいえ。さあ、サンドローネさんをお部屋へ連れて行きましょう」
「はい、ありがとうございます」
「ううう……」
サンドローネは、リヒターとスノウさんに連れて行かれた。
俺は自分の足を軽く揉んだ。
「あ~、俺らも戻るか。お土産屋とか見たいけど、明日でいいか」
「はい。じゃあ、師匠のお部屋に行きますね」
「ああ。何を作るか説明する」
地下道で行くこともできたが、歩いて汗だくなので外の空気を吸って帰ることにした。
ロビーから外に出て離れへ行こうとすると。
「ねえ、いい?」
入口で、声を掛けられた。
立っていたのは、コートを着た、ふわっとしたロングヘアの女性だ。確か、エアリーズの妹、トーラスだったっけ。
「トーラス、だよな。なんだ、何か用か?」
こいつ、俺に用事はないとか言ってたはずだけど。
トーラスは髪を払って言う。
「あなた、お姉ちゃんと仲がいいのよね。私のお願い、聞いてくれない?」
「……え」
「見返りに、このスーパー銭湯の問題解決、手伝ってあげるわ」
そう言って、トーラスは俺に向かって手を差し伸べるのだった。






