スノウデーン王国、二度目の冬⑤/スーパー銭湯、満喫
別荘の中は、やっぱり豪邸だった。
いや、豪邸なんだが……俺の家も、別荘も、豪邸しかないから新鮮味が……うーん、心は庶民のままかと思ったけど、金持ちに染まりつつあるのかね。
離れの中はかなり広い。アオと二人で見回った。
「……おじさん、温泉」
「おおお!! すっげえな、めちゃくちゃ広いぞ!!」
でも、温泉はすごかった!!
大浴場、そして露天風呂!! いろんな風呂をけっこう見たけど、やっぱこういうのは何度見てもいい。
岩づくりの露天風呂、綺麗な景色がよく見えるし最高だ。
「……おじさんの部屋、いいなあ。私、ここに泊りたい」
「ははは。遊びに来るのはいいぞ」
「……一緒にお風呂入る?」
「ん? こらこら。そういうのは冗談でもダメだぞ」
かわいいやつめ。そういうのは好きな男に言えっての。
一通り、離れを探索すると、玄関のドアがノックされた。
来客かなと思ってアオと行くと、そこにいたのはハーフの獣人が四名。みんな女性だ。
みんなが同時にペコっと頭を下げる。
「ゲントク様、アオ様。マッサージのご利用、ありがとうございます。準備をしますので、まずは温泉へどうぞ」
「え、ああはい。温泉か……アオ、先にいいぞ」
「わかった……」
というわけで、マッサージ師が来た。
獣人女性からアオは浴衣みたいなのを受け取って温泉へ。
四人は離れの構造を知っているのか、部屋の一つを使って準備を始めた。
アオが温泉から上がって俺も温泉へ……うん、やっぱ温泉は最高だぜ。
「ここの温泉、なんか甘い匂い……おお、湯の花も浮いてる」
湯の花……温泉の成分が固まって、花みたいに見えるんだよな。
雪の結晶みたいに綺麗だ。湯の花ができるってことは温泉の成分すげえってことか。
「っと……長湯したいけど、マッサージあるし上がるか」
浴衣に着替えて部屋に戻ると……準備完了していた。
ベッドが二つ並び、獣人女性たちが整列してお辞儀。俺を出迎えた。
「おじさん、ここに横になるんだって」
「お、おお」
とりあえず横になろうとすると。
「すみません、お召し物を……」
「え、ああはい……って、脱ぐの?」
「はい。全身マッサージですので」
そういや、浴衣の下はハーフパンツだ。渡されたっけ。
浴衣を脱いでハーフパンツだけになりベッドに横になる。隣を見ると……って。
「お、おいアオ!?」
「……なに」
アオ、上半身裸でうつ伏せになっていた。いや、見えないけど……綺麗な背中丸見えだ。
俺はマッサージ師さんに言う。
「あ、あの、仕切りとか」
「はい。その……アオ様が必要ないと」
「……仕切りあるとお話できない」
うっそだろ……いやまあ、別にいいけど。
マッサージ師、みんな女性でよかった。
「では、これより施術を開始します。コースは……」
もちろん全身。頭から爪先までしっかりやってもらうぜ。
アオも同じだ。というか、俺は三十代後半だから全身のコリとかあるけど、まだ十代のアオがマッサージって効果あるのか? まあ気持ちいいとは思うけど。
というわけで、マッサージ開始。
「あおぉぉぉぉぉ……」
「……呼んだ?」
「ち、ちが……」
気持ちいい声が出た。
まず、一人は頭部のマッサージ……き、きき、きもち……いい。
頭のツボを押され、俺は意識が飛びそうなくらい気持ちよかった。
「アオ、きもち……っておおお」
アオ、仰向けだったので見えちゃいけないところが見えていた。というか……こういう場合の女性ってシャツとか着るもんじゃないのか?
視線を天井へ戻すと、仰向けになるよう言われたので仰向けへ。そして、背中と腕のマッサージが始まる。
背中を指圧、筋肉のマッサージ……いい匂いのするオイルを背中に塗ってのマッサージ……ああ、マッサージ……マッサージ……マッサージ。
「……はぁぁ」
アオも気持ちよさそうだ。
背中を終え、腕……そして足へ。足の裏、太ももとマッサージ……関節部分を重点的に。老廃物を流しているのか、リンパマッサージみたいにギュ~っと……うあああ、きもちい。
「ぁぁぁぁぁ……」
「……おじさん、すごい声」
「アオは気持ちいいか?」
「うん、揉まれるの気持ちいい」
……ちょっとだけ卑猥に聞こえるのは俺の心が汚れているからだな。うん、ごめんなさい。
アオはうつ伏せで……って、あれ? お尻にタオル? てか……ハーフパンツ履いてなくね? え、まさか全裸……いやいや、んなわけないか。
綺麗な背中はオイルでテカテカしており、今は足と、腕のマッサージを受けている。
俺と目が合うと、恥ずかしそうに顔を逸らす。
「……おじさん、今は見ちゃダメ。はだか」
「え」
「女の子のマッサージはおじさんと種類違うの」
「は、はい」
敬語になってしまった。
とりあえず、アオの方は見ないようにして……うん、気にしないようにするか。
◇◇◇◇◇◇
マッサージが終わり、マッサージ師さんたちは引き上げて行った。
俺とアオは、マッサージの余韻に浸っていた。
「あ~~~……滞在最終日とかにもう一回頼もう」
「うん……気持ちよかった」
今はもうちゃんと浴衣を着てる。
すると、俺の腹が鳴る。
「……腹減った。そういやここ、メシ食うところいっぱいあるんだっけ?」
「うん。スーパー銭湯の地下に、すごく広い飲食店街がある。ロッソ、すごく興奮してた」
「なるほどな。時間的に昼を少し過ぎたくらいか……よしアオ。一緒にメシ行くか」
「うん」
移動は浴衣でいいらしいので、このまま移動する。
でも、外に出るのはなあ。せっかくあったまったのに、外は雪だし冷えちまう。
まあ、仕方ないか……と、思っていたら。
「おじさん。離れの地下道から、飲食店街に行けるよ」
「なに? 地下道?」
「うん。こっち」
玄関のすぐ隣にあるドアを開けると、なんと階段になっていた。
そこを降りて行くと、高級ホテルの廊下みたいな綺麗な道に続いている。
「こんな道あったのか……」
「さっき見つけた。あ……おじさん、あそこ」
と、アオが指差した方を見ると、見覚えのある背中が三つ。
浴衣に半纏、長い髪をまとめた女性たちだ。この離れから地下に続く道を通れるのは、離れに泊っている人だけ……つまり。
「あら、ゲントクじゃない」
「奇遇じゃん」
「師匠!! お疲れ様ですー!!」
サンドローネとイェラン、テッサだ。
近付くと……うん、なんかテカテカしてるぞこいつら。しかもなんか甘い匂いする。この匂い、アオと同じ……ってことは。
「お前らもマッサージ受けたんだな」
「ええ。ふふ、疲れが完全に抜けたわ」
「いや~、アタシもああいうの久しぶりに受けたけど、やっぱ気持ちいいね」
「それにしても師匠……なんか、浴衣に会いますねえ」
テッサが俺をジロジロ見て言う。まあ、純正の日本人だから浴衣は似合うのさ!!
するとサンドローネ、アオを見て俺に言う。
「アオさん。まさかあなた、アオさんとマッサージを?」
「ん、まあそうだけど」
「お姉さん、おじさんは紳士だから、私のこと少ししか見なかった。背中とか、胸をちょっと」
「おいいいいいい!! アオ、そういうこと言うな!!」
「「「…………」」」
なんかサンドローネたちの視線が凍ってる!! 外歩いてるわけじゃないのに寒いんだけど!! いやまあ確かにちょっと見ちゃったけどさ!!
「師匠、私の裸も見ましたよね……まあ、あれは私も悪いですけど」
「ザナドゥでアタシの胸も見たよね……あれも事故って言えば事故だけど」
「……私も何度か。あなたの別荘とか、お風呂でね」
なにこれ、俺を断罪する場所なのか?
俺は咳払いをして言う。言わせてもらう。
「こほん!! まあ、確かに見たことは違いないが、下心はない!! それより、メシ行くなら行こうぜ。飲食店街を見て、土産物屋とかも見たい。ここの施設とかどうなってるのか確認したいからな。ほら、行くぞ!!」
俺はサンドローネたちの前を歩くと、テッサが隣に並んだ。
「師匠、お供します!! スーパー銭湯でどんな問題が発生してるか、話を聞く前にわかっちゃうかもしれませんからね!!」
「……私、おじさんとご飯たべる」
アオも隣へ。サンドローネとイェランが後ろからついてきた。
「今のところ、不満はないけど……どんな問題が起きてるのかしらね」
「お姉様、今は楽しみましょうよ!! んふふ、お姉様と温泉~」
さて、スーパー銭湯はまだまだこれからだ。楽しむぜ!!






