スノウデーン王国、二度目の冬②/準備開始
翌日。俺は職場の前を掃除しているテッサを事務所へ。
ソファに座らせ、俺がサンドローネの依頼で『スノウデーン・スーパー大銭湯』に行くことを伝えた……ついでに、そのまま一か月ほど冬の休暇を取ることも。
テッサはウンウン聞いていたが、休暇と聞いて「え」と驚く。
まあ、預かってまだ十日も経過してないのに、いきなり『休暇』と聞けば驚くよな……でもごめん、俺はそこまで仕事熱心じゃない!! 異世界では適度に仕事をし、都会でのんびりスローライフをするって決めてるのだ!! そのスローライフには温泉でのんびりも含まれている。
でも、ちゃんと補足しておく。
「まだ話はしてないけど、今日にでもファルザンとクレープスにお前を連れて行っていいか聞いてみるつもりだ」
「わ、私も?」
「ああ。俺の手伝いをして欲しいのもあるし、預かった以上、休暇を取るのも立派な社会経験だ」
こじつけくさいけど気にしないでくれ。
するとテッサ、満面の笑みを浮かべウンウン頷いた。
「はい!! スノウデーン、どこかわかんないけど行きたいです!! そのスーパーせんたい? とかいうのも気になります!!」
テッサ、決して五人組のカラフルなピチピチスーツを着た正義のヒーローじゃないから安心してくれ。当然、ゴールドとかシルバーみたいな追加戦士もいない……じゃなくて。
「スーパー銭湯な。せんたい、じゃないぞ。その間違いは危険だ」
「えーと、すみません」
「というわけで、出発まで三日しかない。テッサ、今日は溜まった仕事全部片づけるぞ。新規の依頼もストップだ」
「はい!!」
「よし、仕事の準備。俺は手紙を書くからよ」
「手紙?」
「ああ。ファルザンと、クレープス、あとロッソたちに」
テッサは掃除を再開し、これまで受けた仕事の確認と準備をする。
俺は手紙を書き、バニラ専用の手紙入れカバンに入れる。
「これを、ファルザンとクレープス、ロッソたちに届けてくれ」
『ほるるる』
バニラは飛んでいった……まあ、大丈夫だろう。
俺はコーヒーを入れようと思ったが。
「……しゃあない。ちと早いけど、仕事全部終わらせるぞ!!」
コーヒーは、仕事が終わったあとで。
修理依頼、出張依頼といくつかあった。今日中に終わらせるぞ!!
◇◇◇◇◇◇
この日は、貯まった依頼を全部片づけた。
エアコンの設置工事、冷蔵庫の出張修理。持ち込まれた魔道具の修理を全部終え、本来なら引き取りに来てもらうんだが全部届けた。
スクーターにリヤカーくっつけて、エーデルシュタイン王国を回ったぜ……けっこう目立ってしまったけど、温泉のためなら仕方なし!!
昼飯もそこそこに、俺とテッサは職場の掃除、少し早い冬季休業に入る看板を出した。
あんま仕事してないけど……まあ、勘弁しておくれや。
夕方になると、バニラじゃない伝書オウルが手紙を運んで来た。
『ホーホー、ホーホー』
「おお、なんだなんだ。メンフクロウみたいなやつだな」
抹茶色の伝書オウルだ。こんな色見たことないぞ……異世界のフクロウだなあ。
細い首輪をしており、小さな紋章が揺れていた。なんだろう、緑色の、ツインテールみたいな。
「あ、ファルザンか。こいつ、ファルザンの伝書オウルか」
『ホーホー』
「はいはい。おつかれさん」
「わあぁ、かわいい~」
『ほるるる』
バニラと抹茶色の伝書オウルは、同じ止まり木で並んでホーホー鳴きだした。なんだろう、世間話でもしてるのかね。
まあいい。手紙手紙……と。
手紙を確認すると、長ったらしい文章が書かれていた。ファルザンの近況とか、最近の出来事とか、最近狩猟を始めたとか……ええい、クソ長い。
最後の方に、『テッサをスーパー銭湯に連れて行くならかまわんぞ。ワシのところに来るのが遅くなっても問題ない。土産を買うよう伝えておけ』とあった。
俺は手紙をテッサへ。
「テッサ。ファルザンのお許しが出た。あとはクレープス……」
『ほろろろ、ほろろろ』
と、窓にある止まり木に、真っ黒なミミズクが止まった。
テッサはファルザンの手紙を読もうとしたが、黒いミミズクを優先したのか窓を開ける。そして、腕を差しだすと黒いミミズクがテッサの腕へ。
「ふふ。こんにちは、あなた、カッコイイね」
『ほろろろ』
「タイミング的に、こいつは……やっぱクレープスの伝書オウルか。真っ黒なミミズクとか初めて見た……てかミミズクなのか?」
『ホーホー、ホーホー』
『ほるるる、ほるるる』
「あはは。お友達になりたいのかな?」
テッサは止まり木へ黒いミミズクを連れて行く……三羽のフクロウが並んで止まり木へ、そしてホーホー鳴きだす……世間話してるなこりゃ。仕事の愚痴かもしれん。
と、それよりクレープスの手紙。
◇◇◇◇◇◇
『ご自由にどうぞ』
◇◇◇◇◇◇
「……え、こんだけ?」
手紙には、一文だけ書かれていた……つまり、いい、って、こと……なのか? え、いいのか?
「あーテッサ。その、クレープスもいいって。保護者の許可出たから、スノウデーン王国に行けるぞ」
「やったあ!! スノウデーン王国……どんなところかなあ」
テッサはワクワクしていた。
一応言っておく。
「楽しみにするのはいいけど、いちおうは出張依頼ってことになるから、仕事もあるぞ」
「もちろんです!! えへへ」
テッサはビシッと敬礼。やれやれ、まあいいか。
すると、外の階段をカンカン登る音がいくつか聞こえ、ドアが開く。
「おっさーん!! 手紙読んだよ、今年も温泉行くんだね!? ふふん、護衛はお任せ!!」
「……今回は、スーパー銭湯だよね」
「ふふ。そのあとは、アオの別荘にも行きますわよ」
「そっか……私と出会って、もう一年経つのね」
ロッソたち四人、『鮮血の赤椿』がきた。
ちょうどいい、いろいろ説明しなきゃな。
◇◇◇◇◇◇
伝書オウルを返し、説明をする。
スーパー銭湯でトラブルがあったこと、それを解決するために行くこと、道中の護衛をお願いすると、二つ返事でオーケーしてくれた。
「出発、三日後だけど……いいのか? 仕事とか」
「別にいつものことだしね。アタシら冒険者、依頼で遠出するなんて当たり前だし」
「……その日に依頼を受けて出発して、一か月帰らなかったこともある」
「ええ。三日もあれば、準備は完璧ですわ」
「行く手段は連結馬車? ヒコロクに引っ張ってもらわないとね……と、ゲントク」
「ん?」
ヴェルデが確認するように言う。
「バレンたちに、護衛の依頼はしたの?」
「あーいや、してないな。前回はお前たちだけだったし……」
「そう。まあ……遠出する、ってことくらいは世間話で言うかもね。あの三人も、休暇とか取るかもだし……」
ヴェルデは、ロッソたちをチラ見しながら言うが、ロッソは言う。
「ヴェルデ。別にもう険悪にならないからヘーキよ。心配しなくていいわ」
「……うん、そうだね」
「ええ。ご安心くださいな」
「そう。余計な心配だったわね」
ヴェルデなりに、気を遣ったようだ。
するとブランシュが言う。
「うーん、全開はスノウさんたちはお留守番でしたけど、今回は……どうします?」
「硫黄の匂い、確かダメなんだよな……スーパー銭湯の方はわからんけど、連れてくるなら俺はいいぞ」
「ユキにも温泉の気持ちよさ、味わってもらいたいけどねー」
ロッソがソファにもたれかかって言う。
「……とりあえず、行くことだけ伝えて、あとの判断はスノウさんに任せる」
「そうですわね」
「ええ。というわけでゲントク、道中の護衛はお任せね」
「やったあ。ふふ、皆さんと一緒に行けるんですね!!」
テッサ、大喜び。
ロッソはウンウン頷き、拳を突き上げた。
「よーし!! 『鮮血の赤椿』!! 今年も温泉行くぞー!!」
「「「おおー!!」」」
よし、テッサの保護者の許可、ロッソたちの護衛はクリアだ。
出発は三日後……いろいろ、お出かけの準備しないとな!!