スノウデーン王国、二度目の冬①/大銭湯へ
事務所で爆睡してしまった。
起きるとすでに夕方……マジかよ、一日寝てしまった。
今日はもう仕事無理、ってか終わってる。めちゃくちゃ腹減ったし、寝すぎたせいで超スッキリしてるし、今日はもう寝れんぞ……さすがにもう酒は飲まない。
とりあえず、懐から煙草を取り出して吸おうとする。
「火、火……めんどくせ」
『ほるるるるる!!』
「こら、逃げちゃダメー!!」
と、テッサが事務所に飛び込んできた……裸で。
大きな胸がぷるんぷるんと揺れ、濡れたバニラを捕まえようとする。
そして、俺と目が合い、顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。
「きゃあああああああああ!! ななな、ししし、師匠ぉぉおおおおお!?」
「ぶっふおおおお!? あじ、あっじぃぃぃ!?」
煙草に火を着けようと、魔法で指先に火を灯して付けようとしたが……部屋に飛び込んできたおっぱい……じゃなくてテッサに仰天し、魔力量ミスって指先から炎を噴射してしまった。
鼻が焦げ、前髪も焦げる。揺れるナマの巨乳なんて久しぶりに見た。
バニラは書類棚の上へ避難……どうやらテッサが洗っていたようだ。廊下に繋がる窓が開いてたせいか、そこから飛び込んできたようだ。
テッサはソファで身体を隠し、ソファから半分顔を出して言う。
「し、師匠……い、いたんですね」
「いや、お前送り届けて、疲れたから寝ちまったんだよ……あれ?」
なんか、サンドローネがいたような……気のせいか?
『──じゃあ、お願いね』
あれ、なんか脳内にあいつの声が……なんだっけ?
首を傾げていると、テッサが言う。
「わ、わたしはその、さっき起きて、シャワー浴びようとしたら、バニラさんが汚れていたので、一緒に洗おうと思いまして……」
「そ、そうか。ああ、見ちゃダメだよな。悪い、出て行くよ」
「い、いえ。師匠の職場ですし……こっち見ないでくださいね」
テッサは俺が明後日の方を見ている間に廊下へ。そしてドアから半分だけ顔を出して言う。
「し、師匠……その、送ってくれてありがとうございました。今日はお仕事、無理ですよね……」
「あ、ああ。明日からまたやろう」
「はい。では……」
テッサはシャワー室へ消えた。
俺は落とした煙草を拾って咥え、魔力量をミスらないよう慎重に火を着け、煙を吸い込んだ。
「ふぅぅ~……いやあ、いいもん見せてもらったぜ」
とりあえず、揺れる巨乳のことを思いだし、俺はウンウン頷くのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、帰ってもう一回寝ようと思ってたんだが……飲み屋街の前を通るとつい入ってしまうのがいつもの居酒屋。
というか、めちゃくちゃお腹減った……酒は飲まず、メシ食って帰ろうと思っていました。
「すんませーん、おかわりー!!」
えー、エールはすでに三杯目。焼き鳥五本、生野菜に酢漬けと食ってます。
なぜこんなに食ってるのか? まあ理由は簡単だ。
「はぁ~!! やっぱ故郷のエールはおいしいねー!!」
「ふふ。ザナドゥとエーデルシュタイン、エールの味は同じでは?」
イェラン、そしてリヒターが来たのだ。
特にイェラン。ザナドゥから昨日戻ったばかりで、しばらく休暇となるらしい。なのでもしかしたらと思いいつもの居酒屋に来たら、俺がいて、あとからリヒターも来たってところだ。
俺は焼き鳥を食いながらイェランに聞く。
「なあ、ザナドゥはどうだ?」
「どうだも何も。マリンスポーツは開始から大好評。今は、ゲントクの作った潜水艇を開発中。ああ、正式に決まってないけど、潜水艇は来年のマリンスポーツ大会では使えないかもね。もっと大型の潜水艇を作って、沈んだ船の残骸とかを回収する仕事をさせるみたい」
「そりゃ朗報だ。ザナドゥの海に、今は五百くらいの船の残骸沈んでるもんな……」
「あと、ダイビングは大人気。パラセーリングも予約殺到……いやぁ、来年の夏はもっと盛り上がっていくと思うよ」
「はっはっは。そりゃ楽しみだな」
イェランともう一度乾杯。すると、リヒターが言う。
「ゲントクさん。ロイヤリティの支払いが月末にありますので……それと、スノウデーン・スーパー大銭湯の件ですが」
「……なんでそこで大銭湯が出てくんだ?」
首を傾げる俺。するとリヒター、驚いたように言う。
「いやいや。昨日言ったじゃないですか……スノウデーン・スーパー大銭湯で問題が発生して、それを解決してもらいたいと」
「…………え?」
「出発は三日後ですよ? その、準備は」
「…………」
◇◇◇◇◇◇
『あなた、今年はスノウデーン王国に行く? 行くなら、スノウデーン・スーパー大銭湯経由で行ってほしいのよ。管理を任せている支配人が、困ったことがあるみたいでね……あなたに相談したいことがあるんだって』
『とにかく。今年は温泉の町レレドレじゃなくて、スーパー銭湯で温泉を堪能したら? あなたの考えたスーパー銭湯がどうなってるのか、あなたも気になるでしょう? それに、私の権限で、宿の一番いい部屋を用意してあげる。もちろん、移動は連結馬車よ』
◇◇◇◇◇◇
「……お、思い出した」
やべえ、サンドローネがそんなこと言ってた気がする。
というか……三日後!? 嘘だろ、おい。
「いやいやいやいや、マジで!? ザナドゥから戻って来たばかりじゃねぇか!!」
「そ、そうですけど……もうすぐ冬が近いですし、ゲントクさんはスノウデーン王国の温泉に行くんですよね? そのついでに、スーパー大銭湯の問題を片付けて、温泉で休暇……という形にすればいいのでは?」
「……た、確かに」
テッサは……俺のところでの仕事はあと二十日以上ある。
温泉では一か月は堪能したいし、スーパー大銭湯の問題を片づけたら帰ってもらうしかないか。まあ、ファルザンとクレープスに言えばなんとかなるか?
「なあリヒター、俺……絶対行かなきゃダメなんだよな」
「え、ええ。昨日、了承をいただきましたし……お嬢も、スケジュールを調整して、スーパー大銭湯へ向かう準備をしています」
「……うわちゃー」
参ったな。
てか、テッサの指導があるのにまた長時間お出かけとか……どうすんだ。
というか、テッサを雇うのは技術云々じゃないし、問題ない……のかな。
考えていると、イェランが言う。
「まあ、ゲントクならどうとでもなるでしょ。ってかテッサって誰?」
「……お気楽なやつだな」
「あ。あたしも同行するよ。休暇だしね~」
「え? いいのか? お前、リヒター、サンドローネといなくなったら、アレキサンドライト商会はどうなるんだよ」
「それなら大丈夫です。先日、砂漠からユストゥスさんが報告のために一時的に戻ってきまして。お嬢がいない間、アレキサンドライト商会はユストゥスさんにお任せです」
「ああ、ユストゥスか……砂漠の方は順調、なんだろうなあ」
俺が心配することじゃないか。
というか……俺が考えること、けっこうあるな。
「ロッソたちの護衛依頼、ファルザンとクレープスにテッサを連れて行くことを話して、テッサにもスノウデーン王国に行くこと説明して……てか、スーパー大銭湯の問題って何だ? 俺に解決できるようなことなのか? ああああ……」
なんかもう、スローライフどころじゃねえな。
せっかく日常に戻って慣れてきたと思ったのに。
「温泉かあ。ゲントク、スーパー大銭湯の問題解決したら、あんたが自慢してた別荘に連れてってよ」
「いいけど、うちは混浴だ。俺と一緒でもいいか?」
「はいはい。そういうのではもうあたしも照れないから。ん~楽しみ、ねえリヒター」
「そうですね。私も泊まりましたが、ゲントクさんの別荘は素晴らしいところでしたよ」
「……よし!! 考えるの明日でいいや。今日は飲むぞ!!」
とりあえず、諸々を明日に回して、俺はイェランとリヒターともう一度乾杯するのだった。