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独身おじさんとアルバイト④

 ロッソたちとメシを食った帰り、俺はテッサを職場まで送るべく一緒に歩いていた。

 テッサは嬉しそうに言う。


「『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の皆さん、すっごくいい人たちでした。王国最強の七人の冒険者っていうから、ちょっと怖い人たちなのかなーって思ってたんですけど……」

「みんないい子だろ? 俺もずいぶんと世話になってるよ」

「はい。皆さんが、また一緒に食事を……って誘ってくれました」


 いい友人ができたようで何よりだ。

 食事中、ちょっとお酒も飲んだので気分がいい。俺は酒の勢いでテッサに聞いてみた。


「なあ、テッサの両親は何をやってるんだ?」

「エルフリア精霊国で、父は狩人を、母は網籠職人をやっています」

「狩人はわかるけど、網籠……?」

「そのまんまです。エルフリアの固有樹木であるフェアリの木に生える大きな葉っぱを加工して、いろんなカゴを作るんです。カバンや、川に設置する罠籠とか、いろんな用途があります」

「へぇ~、そんなのあるのか」

「はい。他国でも、けっこう売れてるんですよ」


 エルフ族。異世界ファンタジーでは定番の種族だ。

 エルフリア精霊国って大きな国があり、基本的に他種族は立ち入り禁止。エルフは出入り可能で、他国で行商とかしたりもするので、他国の文化とかも入って来るそうだ。

 なんで入国禁止なのかはわからん。まあ、許可が取れれば入国できるそうだけど。

 俺の場合……十二星座の魔女っていう王族よりも偉いバックが付いてるので、入国はできるらしい。


「兄弟とかいるのか?」

「はい。妹が一人います。妹は、父曰く狩りの天才らしいので、立派な狩人になるべく、父に鍛えられていますよ」

「なるほどなあ」

「私は、手先が器用で……母に似たんですけど、こんな髪と目をもって生まれたおかげで、いろいろとやりづらくて。家では居場所がなくて」

「……」

「あ!! う、疎まれていたとかじゃなくて、見た目が見た目だから、なんとなく居心地が悪いというか」

「お、おお」


 ちょっと暗い話になりそうだ。軌道修正せねば!!


「テッサが見つけた魔導文字ってどんな文字だ?」

「『突』っていう文字が一番役立っていますね。矢にくっつけて命中させると、貫通力が増すんです」

「ほう……」


 確かに、貫通力が増しそうな文字だ。

 たぶん『貫通』のがもっと貫通しそうな気がする。いややらんけど。


「テッサはさ、やりたいことはやっぱり魔道具職人か?」

「はい。小さくてもいいので、自分のお店を持ちたいです。師匠みたいに、みんなの役に立つ魔道具を作ってみたいなあ」


 ま、眩しいぜ……日本知識、日本にある道具を魔道具で再現しているだけの俺とは違う。

 異世界の人からすれば画期的なアイデアばかりなんだろうけど、その場その場で役立ちそうな魔道具を地球にある家電にあてはめて作ってるだけだ。自分で考えて作った物なんてそんなにない。

 魔導文字だって、漢字なわけだし。

 立派だ、すごい、さすが……なんて言われても、俺が作ってるのは全部、先人が作った物だ。


「俺は立派なんかじゃないよ。近所の発明家のオッサンとか、どんな街にも一人はいる修理工と同じ。尊敬されるようなモンじゃない」

「またまた!! ご謙遜を」

「……ははは」


 うーん、俺が落ちこんでしまった。

 まあいいや。俺は異世界系主人公みたいに、使命を帯びてきたわけでもなければ、無自覚無双したり、イキったりするために来たわけじゃないし。

 便利だから作る。それだけでいい。


「師匠、明日の仕事は?」

「明日は……そうだな。仕事は入ってないはずだし、せっかくだから町の案内でもしてやろうか? うまい飲み屋、食材の安い店とか教えてやれるぞ」

「いいですね、ぜひ!!」

「あ、でも……俺でいいのか? こんなおっさんと一緒に行くの、嫌じゃないか?」

「え? なんでですか?」

「あ、いや……うん、じゃあ行こうか」

「はい。じゃあ明日」


 職場に着くと、大福が玄関前で待っていた。おかしいな……鍵、ちゃんとかけたし、大福がソファにいるのを見たんだけど。

 テッサは大福を抱っこし、俺にペコっと頭を下げて部屋に戻った。

 俺は一人で歩きながら思う。


「テッサ。いい子だな……というか、警戒心がちょっと危ういな。俺がそんなつもり欠片もないとはいえ、男と出かけることに疑問を持ってないぞ。箱入り娘……とは違うけど、男と二人になることなんてなかったんだろうなあ……よし」


 すっかり夜だけど……ちょっと『あいつら』を誘ってみるか。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。


「よ、オッサン」

「……なぜ、私が」


 職場前には俺、サスケ、そしてトモエが集まった。

 テッサは俺たちを見て目をパチパチさせ、俺を見る。


「えと、師匠?」

「あ~、俺だけだとわからない場所もあるからな。エーデルシュタイン王国に詳しい友人を呼んだ。その……いきなりで悪いな、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です!!」


 お許しが出たな……さて、ここで説明を入れるか。

 昨日、いつもの居酒屋に行って、イェランやリヒターが来ないかなと待っていたら、サスケが来た。実はイェランを今日の案内に誘おうと思ったんだが……実はまだザナドゥにいるようだ。ダイビングのインストラクター、はりきってやってるみたいだな。

 というわけで、サスケを誘ってみた。


『別にいいけどよ、いきなり行っていいのか?』

『ああ。大丈夫……それに、どうも警戒心が薄いというか、箱入り娘的なところがあるから、そのへんも少し教えようと思ってな』

『でもよ、男二人に女の子一人じゃ苦しいところもあると思うぜ。よし……オレに任せてくれ。ちょうどいい相手がいるんだ』


 と、そんな感じで任せたら、クレープスの護衛であるトモエを連れて来た。

 二人とも今日は私服だ。どこか和装っぽいのは、二人がアズマ出身だからだろうか。

 というか……トモエ。あんまり面識ないんだが、俺のが人見知りしちゃう。


「初めまして。オレはサスケ。オッサンと一緒に、エーデルシュタイン王国の案内をするぜ。行きたいところ、気になるとことがあれば、何でも聞いてくれ」

「はい!! あ、私はテッサリオンです。テッサ、って呼んでくださいね。あと……トモエさんも一緒でうれしいです。前はあんまりお喋りできなかったけど、今日は一杯お喋りしましょうね」

「……ええ」


 トモエは微妙に微笑み、俺をチラッと見て、サスケを見た。

 サスケは頷き、俺はよくわからず首を傾げる。


「じゃあテッサでいいか。今日は天気もいいし、帽子を被った方がいいぜ。帽子、あるか?」

「あ、お部屋にあります。ちょっと待ってくださいね」


 テッサは事務所へ。するとすかさずトモエが言う。


「サスケ。クレープス様にどういう根回ししたのか知らないけど……わざわざ案内役として同行させるなんて、どういうつもり?」

「悪いな。同世代で知り合いの女の子で、お前しか心当たりなくてよ」

「……そ、そう」


 あれれ~? なんか、トモエが微妙に赤くなったぞ~? 

 サスケは言う。


「お前も知ってると思うけど、あのテッサって子、警戒心が緩いらしくてな。オッサンのアイデアで、今日はいろいろ教えることにした」

「警戒心……」

「ま、オレやお前とは違うのは当然として、オッサンが『出かけようぜ』って誘ったら疑いもせずに喜ぶような子だ。エーデルシュタイン王国は綺麗だけじゃないってことも、教えてやらないとな」

「なるほどね……確かに、エルフリア精霊国から出たことがないのか、無警戒なところが多い子だとは思ったわ。クレープス様は、そういうところをあなたに預けることで、気付く機会を与えたのかもね」


 まあ、俺もそう思った。

 商売のイロハはファルザンのところでもできる。俺のところで学ぶのは『世の中いい人ばかりじゃない』ってことかもな。

 まあ、それならそれで教えてやれる。


「……ところで、あなたは私でいいの? 面識何てほぼないけど」

「最初はイェランに頼もうと思ったんだよ。ロッソたちは討伐依頼で忙しいとか言ってたからな。サスケにお願いして正解だった。えーと、トモエでいいか?」

「ええ」

「……サスケと二人がよかったか?」

「は?」


 うおおお、睨まれた。こえええ!! 

 すると、テッサが帽子を被って降りて来た。


「お待たせしました!! じゃあ、さっそく冒険……じゃなくて、観光しましょう!!」

「ああ。さて、気になることとかあるか?」

「そうですね~、あ、下着があんまりなくて。下着のお店、行きたいです」

「あ、ああ……わかったぜ」


 サスケ、苦笑い……やっぱ警戒心ゆるゆるだわ、この子。

 というわけで、今日は俺、テッサ、サスケ、トモエという、初めてのメンバーで町に出かけるのだった。

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