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独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~  作者: さとう
第十六章 独身おじさんとアルバイト

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独身おじさんとアルバイト③

 さて、エアコンの本体を作るのに、そう時間はかからない。

 むしろ、魔石の方が難しいだろう。『冷風』と『吸引』……意味を知らないと、同じ文字を彫っても効果は全然違うのだ。

 ここで簡単に説明。

 まず、魔石に文字を彫るのなら子供だってできる。『冷風』って漢字はそう難しくない。

 でも……ただ文字を彫るだけなら、誰だって魔道具技師になれる。

 大事なのは、『魔道具技師・魔導武器職人が魔石に文字を彫る』ということだ。

 俺は、本体の作成を中断し、加工用のデスクで慎重に文字を彫るテッサを見た。


「…………」


 テッサは、魔石に専用のペンで下書きし、書き順を確認。

 慎重に文字を彫っている。うんうん、いい感じだ。漢字なだけに……なんちゃって!!

 と、アホなこと考えてる場合じゃない。

 俺はテッサの背後にそ~っと近づき、確認する。


(……へえ、うまいな)


 綺麗に整った『冷』だ。

 さて説明の続き。ただ『冷』と彫るだけなら誰でもできるし、効果も出る……でも、効果は本来の一割以下であり、さらに壊れやすい。

 俺も詳しく説明できないけど……魔導文字は、『文字の意味を理解すること』が最も大事なのだ。

 魔導文字を彫る時、技師は無意識に魔力を彫刻刀に込めて彫る。このとき、『文字を理解した』時の魔力が魔石に反応し、文字の効果が魔石に刻み込まれるのだ。

 この『理解』が最も難しい。俺は『火』が燃えるってことを知ってる。この『火』って見ただけで炎をイメージできるだろ? でも、異世界の人はそうじゃない。

 文字に縁のない狩りとかする部族に『火』って見せるのと、松明に燃える実際の火を見せるのじゃイメージが全くちがう。

 この『理解』すること、技師の理解から魔力を魔石に刻みつけることができるかどうかで、魔道具技師、魔導武器職人になれるか決まるのだ。

 クソ長い説明でごめん。まあ、『文字を知ってても素人にはムリ』ってだけ知っててくれ。

 他にも、感じの書き順とか、魔石の劣化があるから一角目を彫ったら速やかに彫れとかもある。まあ、技師じゃない人はわかんなくてもいいか。


「……よし」


 お、脳内解説してたらテッサが『冷風』を彫り終わった。

 

「あ、師匠。どうでしょうか?」

「どれ」


 魔石を受け取り、魔力を流す……すると、魔石から冷風が渦巻いて放たれた。

 

「うん、いい感じだ」

「やった」


 ちなみに、魔導文字によっては、魔道具にセットしないと発動しない文字もある。『火』とか『冷風』みたいなのは魔石だけでも効果がある程度発動するが、『回転』とかは魔道具にセットしないと発動しない。魔石だけクルクル回転するのかと思ったら、何も起きなかった。

 この辺、法則がサッパリなんだよな……まあ、これも別にいいけど。


「じゃあ、次は『吸引』に取り掛かります」

「ああ。頼むぞ」


 こうして、午前中はエアコン制作で終わるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 エアコンが完成したので、リヤカーに全て載せる。

 仕事道具も全て載せ、ロッソたちの拠点まで行ってエアコン設置、そして十ツ星用に調整したエアコン本体と交換して、この日の仕事は終わりだ。

 その前に……昼飯が先かな。


「さて、昼飯食って休憩したら、午後は出張修理とエアコン設置に行くぞ」

「はい!!」

「場所は、俺の知り合いの家だ。知ってるか? 『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』って言うんだけど」

「え!? まさか、あのS級冒険者チームですか?」

「ああ、知ってるのか」

「もちろん、有名ですよね!!」

「ははは。確かにな……と、昼飯だけど、いいところがあるんだ。ここから近いし、行ってみるか」

「わあ、楽しみです」


 向かったのは、ここから近くにある『オダ屋』だ。

 店に入ると、オセロット獣人のトレセーナがいた。


「いらっしゃい。あれ、ゲントクじゃない」

「おっす。二人だ」

「はーい。あれ……その子、誰?」

「うちの新人。テッサだ、よろしくな」

「よろしくお願いします!!」

「へえ……ゲントク、あんたついに弟子を?」

「弟子じゃなくて、アルバイトだよ」


 カウンター席に並んで座り、メニュー表を見る。

 

「テッサ。俺の奢りだ、なんでも好きなの頼んでいいぞ」

「は、はい……でも、ドンブリメシ? どういう意味なのか……」

「あ~、店主さん、おススメは?」


 トレセーナに言うと、クスっと微笑んだ。


「ウチはなんでもおススメだよ。今日だと……ザナドゥからミルキーシェルがいっぱい届いてね。ひと箱注文だったのに、間違えて三箱頼んじゃったのよ。よかったら、食べるの強力してくれない?」

「ミルキーシェル……? どんなのだ?」


 俺も聞いたことがない。シェルってことは貝か?

 トレセーナは、平べったい貝を見せてくれた。


「これだよ。ザナドゥじゃ珍味らしくてね、ナマで食べたけどけっこう美味しかったから頼んでみたけど……まさか、三箱届くなんてね」

「……おいおい、まさかこれって」


 平べったい貝にナイフを差し込んで開くと、そこには白いプリっとした身があった。

 ミルキーシェル……これ、牡蠣っぽいな。


「おいおいおい、こりゃお宝だぞ。なあトレセーナ、俺に料理させてくれよ」

「お客もまだ少ないし、別にいいけど……あ、エプロンしてね」

「あの、師匠が料理を?」

「ああ。ふふふ、トレセーナ、食材借りるぜ」


 まず、牡蠣の下ごしらえだ。塩水で綺麗に洗ってぬめりを取る。トレセーナも手伝ってくれたのですぐに終わった。

 そして、パン粉を用意……俺がいろいろ教えたおかげか、俺が欲しい食材が全部そろってるな。

 そしてマヨネーズ!! 異世界系漫画のおかげでレシピがなんとなくわかり、分量なども調節してそれっぽいのが完成したのだ。

 俺はマヨネーズを作り、ゆで卵を潰して絡め、『なんちゃってタルタルソース』を作る。

 あとは、小麦粉に溶き卵を付け、パン粉を付けて揚げる。


「へえ……いいね」

「カキフライだ。いや、ミルキーシェルフライか? あとは……ザツマイを茶碗によそって、味噌汁、揚げたてのカキフライを皿にのせて、タルタルソースをかけて……完成!!」


 俺はテッサの前に、カキフライ定食を出した。


「さ、食ってくれ」

「わああ……で、では」


 テッサは祈りを捧げ、フォークでカキフライを食べた。


「ん!! お、おいしい!!」

「だろ? タルタルソースが合うんだよ……まあ、まだ満足してないけどな」


 俺も自分用のカキフライ定食を食べる。トレセーナは、試作用に作ったカキフライを食べ、タルタルソースを舐めていた。


「ん……いいね。ゲントク、これもうちのレシピでいいんだよね」

「もちろん。作り方……」

「見たからわかる。改良もしていいよね」

「ああ、任せる」


 さて、あとはトレセーナにお任せ。今度来たら、美味いカキフライ定食がメニュー表に加わっているだろう。


 ◇◇◇◇◇◇


 昼食後、リヤカーを引いてロッソたちの拠点へ。

 出迎えてくれたのはユキちゃんだった。


「にゃあ。おじちゃん……と、だれー?」


 テッサを見て首を傾げるユキちゃん。白玉が出て来て俺の足にじゃれつき始めたので抱っこして撫でると、テッサが羨ましそうに見たので白玉を渡す。


「この人は、アルバイト……えーと、お手伝いさんなんだ。しばらくお手伝いするから、よろしくね」

「にゃあ」

「初めまして。テッサって呼んでね」

「にゃうう。ユキだよ」


 ユキちゃんは、テッサに向かってぺこりと頭を下げる。するとスノウさんが来た。


「あら、ゲントクさん。こんにちは」

「どうも。エアコンの設置と改良に来ました」

「はい。あら? そちらの方は……」


 テッサを紹介。互いに挨拶すると、スノウさんはユキちゃんを抱っこし、俺たちを室内へ。

 家にはロッソたちがいた。


「おっさん!! と……誰?」

「……エルフ?」

「まあまあ。どなた?」

「ゲントクと一緒にいるってことは、どういうこと?」


 いろいろめんどくさい……テッサに自分で挨拶させた。


「初めまして!! 師匠の元で、しばらくお世話になります、テッサです」

「「「「師匠?」」」」

「はい!! 実は……」


 テッサは説明する。

 クレープスの紹介、俺のところでしばらく勉強する、いずれはファルザンの元へ……と、説明を終えると、ロッソが言う。


「なーるほどね。ま、よろしくね」

「……おじさんと一緒。いいなあ」

「ふふ。可愛らしいお方ですわね」

「ゲントク、手ぇ出しちゃダメよ?」

「誰が出すか。とにかく、仕事させてくれ。テッサ、エアコン設置と改良するぞ。設置後の確認、試運転はお前に任せていいか?」

「えっと、まだわからいことが……」

「わからないことは何でも聞いてくれ。アシストはする」

「はい、じゃあお願いします」

「おっさん、師匠っぽいねー」

「……ずっと一緒。いいなあ」

「テッサさん。お話聞いてみたいですわね」

「ねえねえ、お仕事終わったらみんなでご飯行かない? シュバン、マイルズ、お出かけ用意!!」


 外野がやかましい……とりあえず、今日はみんなでメシに行くこと確定っぽいな。

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アルバイトとは言えゲントクにも弟子みたいなのが出来るとはね。
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