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独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~  作者: さとう
第十六章 独身おじさんとアルバイト

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独身おじさんとアルバイト②

 テッサを雇うことに決めた翌日。

 欠伸をしながら職場へ向かうと、テッサが表を掃き掃除していた。

 

「あ、おはようございます。師匠」

「お、おう」


 竹箒を片手に、職場の掃き掃除をするエルフ美少女……か。

 雇うと決めたんだけど、なんだか新鮮な感じでもあり、奇妙な感じもする。

 テッサはぺこりとお辞儀をすると、俺の両隣にいる猫を見た。


「師匠。その猫は……」

「そういや紹介してなかったな。こっちが大福で、こっちがきなこ。うちで飼ってる猫なんだ」

「ネコ……」

「ああ。休みの日は連れ帰るんだけど、基本的にここが住まいなんだ。と……大福、きなこ、この子はテッサリオンことテッサ。しばらくうちで仕事するから」

『なぁご』

『にゃあ』


 二匹は「うむ」か「わかった」と言うように鳴いた。

 そして、いいタイミングで二階の窓にくっつけてる止まり木にバニラが止まった。カバンを器用に足で引っかけ、俺たちに向かってホウホウ鳴く。


「わわ、伝書オウル……?」

「あいつはバニラ・アイスことバニラ。あいつもうちで飼ってる伝書オウルで、新聞とか、簡単な買い物を任せてる……と、事後承諾で悪いけど、こいつらの世話も任せていいか?」


 職場に住むとなると、こいつらの世話を任せれば安心だ。

 若い子みたいだし、夜に一人だと寂しいだろうしな。

 すると、テッサはニコニコしながらしゃがみ、大福を撫でる。


「悪いだなんて!! 私、動物大好きです!! ふふ、かわいい~」

『にゃああ』『ごろごろ』


 きなこは「俺も撫でろ」と言わんばかりにテッサにすり寄り、大福は撫でられ気持ちよさそうだった。

 よかった。動物アレルギーとかもなさそう……若い女の子って、可愛いの好き……あれ?


「……あのさ。テッサ、聞いていい?」

「はい?」

「その、エルフ族……エルダーエルフだっけ? その、今……何歳?」

「はい。先月、百二十六歳になりました……若輩もいいところですけど」


 ひゃ、ひゃくにじゅうろく……126歳か。

 俺の三倍強生きてるんだな。エルフ族のスパンだと若輩なのね。

 

「よ、よし!! まずは仕事前に、朝のコーヒーだ!!」

「コーヒー?」

「苦いけど美味い、大人の味だ」

「……えっと」


 とりあえず、コーヒーは俺が淹れるとしますかね!!


 ◇◇◇◇◇◇


 職場に入ると、大福ときなこ、バニラはいつもの定位置へ。

 テッサは俺の机の正面向かい合わせにある従業員用のデスクへ。座るなりキョロキョロし、俺をジッと見て言う。


「あの……」

「まあまて。朝のコーヒーを飲まないといけないんだ」

「そのコーヒーっていうのは、もしかして……『コピの豆』の?」

「あれ、知ってんのか?」

「ええ。噂で……二年くらい前から、一部界隈で微妙な広がりを見せてる飲み物とか」


 たぶん、それ俺が広めたんだわ。

 コーヒー……コピの豆っていうコーヒー豆っぽいのを見つけ、焙煎し粉にして飲んでるところ、サンドローネとかロッソたちとかにも見られてたし。

 ブランシュとか、けっこう家でも飲んでるとか言ってるし……『鮮血の赤椿』のブランシュが黒いの飲んでる、なんだあれ、コーヒー? にっが、あれでもクセになる……みたいな感じで、二年かけて微妙に広がって行ったらしいな。

 まあ、それはそれでいい。専門店とかオープンすることも実は考えてたりして……副業でカフェ営業とか面白そう。

 というわけで、コーヒー用意。


「テッサ。朝のコーヒーは死ぬほど美味いんだけど、個人差があるんだ」


 俺はお湯を沸かし、コーヒーメーカーではなく手淹れをする。

 豆を挽き、メッシュフィルターに入れ、お湯を注いでコーヒーを淹れるところを、テッサはジっと眺めていた。


「まず、苦い……」

「に、苦いんですね」

「ああ。でも、慣れるとクセになる」

「……そ、そうなんですか?」


 カップを二つだし、コーヒーを注ぐ。


「ブランシュっていう、十七歳の女の子がいてな。最初は苦いコーヒーを苦手としていた……でも、今じゃもうブラックでガブガブ飲む」


 カップをデスクに置き、さっそく飲む。


「……うん、うまい」

「……ぅ」


 テッサは顔を微妙にしかめた。俺がそれを見て慌てるが、俺は笑う。


「ははは。それが普通の感覚なんだ、それでいいんだよ」

「ううう……ごめんなさい、師匠」

「さて、秘密兵器を出すぞ」


 俺は冷蔵庫から牛乳、そして砂糖を取り出す。

 テッサのカップに砂糖を入れて溶かし、牛乳を入れてマイルドにした。


「さ、どうぞ」

「は、はい……あれ、おいしいです!!」

「だろ? コーヒーミルクは飲みやすくて美味い。冷やしておくとなおうまい」


 そういや、淹れたてのコーヒーばかりで冷たいのを常備していない。

 ガラスポッドを用意して、コーヒー入れて冷蔵庫に入れておこうかな。


「まあ、無理に飲む必要はないよ。冷蔵庫に果実水とか、麦茶もあるし、好きに飲んでいい」

「はい。でも、師匠が好きな飲み物ですし、私も好きになりたいです」


 にっこり笑うテッサ……可愛いじゃねえか、ちくしょうめ。

 俺もコーヒーを飲み、そのうまさに震えた……やっぱ異世界で飲むコーヒーは最高だぜ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、一服も終わり、俺とテッサは一階へ。


「さて。俺の仕事だけど……主に『魔導具修理』と『魔道具開発』だ」

「はい、師匠の斬新なアイデアで、数多くの魔道具が生み出され、世界中に広がって行ったと聞きます」


 お、大袈裟……恥ずかしいぞ、おい。


「こほん。まあ、開発の方はアイデアが降りて来た時にしかやらない。基本的に魔道具修理がメインだ。持ち込まれる魔道具を修理したり、重くて動かせない魔道具……エアコンとか、冷蔵庫とかの修理に出かけたり。あとは、自転車の修理だな」

「自転車、って……アレキサンドライト商会が発売してる、移動手段ですよね」

「ああ。そいつのトラブルがけっこうあるんだ。さて……」


 俺は一階にあるボードをチェックする。

 

「このボードには、今日の予定が書かれてる。エアコンの取り付けとか、大型魔道具の修理とかだな」


 さて、今日の仕事はエアコン設置だ。


「エアコン設置……って、普通は買ったお店で設置してくれるんじゃ?」

「そうなんだけどな。でも、設置するにも魔道具技師がいないとダメなんだよ。魔導回路の調整とか、壁に穴開けたりする工事とかもあるし。だから、エアコン本体だけ買って、工事は別の魔道具技師に依頼するってパターンが多いんだ。多少、割増料金を支払っても早く設置したいとかあるしな」


 アレキサンドライト商会で買うと、順番待ちになる。

 金額が多いから早くできるってわけじゃないんだよな。


「ってわけで、今日はエアコン設置だ。行くのは午後で、午前中はエアコン作りをするぞ」

「……え? エアコン、作る?」


 まあ、ロッソのところのエアコン設置だ。

 シュバンとマイルズさん、スノウさんとユキちゃんの部屋にエアコン設置するのと、十ツ星の魔石に耐えられるよう、ロッソたちの部屋にあるエアコンの調整をするのだ。


「とりあえず、エアコンの本体は俺が組み立てるから、テッサには魔石をお願いしたい。彫る文字は『吸引』と『冷風』だ。できるか?」


 紙に『冷風』と『吸引』の二文字を書く。

 部屋の暑い空気を吸い込み、冷風を吐き出すための魔石だ。

 テッサは文字をマジマジ見て頷く。


「大丈夫です。吸い込むのと、冷風の魔石ですね……できます」

「よし。じゃあ、腕前を見せてもらおうかな」


 テッサは、自分の魔石用彫刻刀を出す。

 作業テーブルに座らせ、金庫から出した五つ星の魔石をいくつか置く。


「わ、五つ星……」

「予備は大量にあるから、失敗してもいいぞ」

「は、はい!!」


 作業テーブルのライトをつけると、テッサは集中し始めた。

 彫刻刀を片手に、慎重に文字を彫り始める。

 俺はその剥き出しの背中を見て思った。


「……仕事だし、制服必要だよな」

 

 ツナギ、テッサ用に作るか……一か月だけのバイトでも、あった方がいいよな。

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― 新着の感想 ―
「ツナギ」とは言うものの書籍版表紙絵のゲントクさんは鉄道屋さんや電気工事屋さんのナッパ服に近い感じに見受けられるなあ
作業着、作業帽、作業靴、作業手袋 大事ですね。 逆に着けたら危ないとかもありますし。 さすがに背中がばっと空いてる服はないわーw 鳥人とかで作業のとき 飛んだり降りたりするなら そりゃあ、ありですが。…
たとえアルバイトでも作業着は大事w テッサちゃんの作業着姿はもっと大事だ。 女の子のツナギ姿みたい人〜♪
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