独身おじさん、優勝して超うれしい
さて、ゴールが速すぎたせいでかなり待たされた。
二位以下とは一時間くらいの差だ。そして待っていると、二位のボートが来た……すっげえボロボロだ。
魔導武器の攻撃を受けたのか、かなりひどい状態でゴール。三位、四位と続けてゴールした。
結果から見ると、参加ボート535隻中、ゴールしたのは20隻だけだった。
多くのボートが攻撃を受けて沈没したり、無茶な改造で走行中に分解したりと、途中棄権も多かった。
驚いたことに死者はゼロ……いいことなんだが、俺はちょっと気分が沈んだ。
表彰式の前、俺の様子が気になったのか、サスケが言う。
「オッサン、何か気になるのか?」
「ああ。まあ……五百以上のボートが沈んだだろ? ザナドゥの綺麗な海が、ボートの残骸で汚れると思うとな……」
「なるほどな。でもまあ、魚の遊び場になるんじゃねぇか? 気にしてもしょうがねえよ」
「……だなあ」
「とにかく。表彰式だぜ!!」
ちなみに俺たちは、仮設の控室にいる。
これから表彰式である。係員が俺たちを呼びに来たので控室を出ると。
「「「「ワアァァァァ!!」」」」
「ゲントクー!!」「おっさーん!!「きゃーっ!!」
「おめでとー!!」「アレキサンドライト商会バンザーイ!!」
すっごい大歓声だった。
いつの間にか設置されていた表彰台……すっげえ、かなり高いぞこれ。階段を上って表彰台へ。
一位、二位、三位の表彰台は日本と変わらないな。
ハボリム、サンドローネ、ラスラヌフ、そして関係者が表彰台へ登ると、ハボリムが拡声魔道具で叫ぶように言う。
『第一回、ザナドゥ・マリンスポーツ大会、自由競争の優勝はアレキサンドライト商会!! アレキサンドライト商会だ!! ゲントク、サスケ、優勝おめでとう!!』
そう叫ぶと、爆発するような大歓声が俺たちに浴びせせられる。
メチャクチャ身体がビリビリする。すっごく気持ちいい。俺は思わず両手を上げると、さらに歓声が俺の身体を貫いた……なんだこれ、メチャクチャ気分いい!!
サスケも手を上げると、なぜか女性から黄色い声が浴びせられた……ああそうだよな、イケメンだもんな、わかるよ、わかる!!
そして、ラスラヌフがでっかい優勝トロフィーを俺たちに差しだす。
「ワシがサンドローネに協力してもらって作った特注トロフィーじゃ。ほれ」
「おお、こっちの世界でも優勝トロフィーなんだな」
「うむ。アツコが持っていたからの」
「ああ、なるほどな」
透明な板を加工して作った優勝トロフィーだ。優勝カップみたいな形をしている。
それを受け取り、サスケと一緒に掲げると、もう最高だった。
「くぅぅ、オッサン、マジで最高の気分だな!!」
「おう!! いぇいいぇい!! みんな、ありがとー!!」
俺とサスケは手を振りまくる。
ああ、マジで気持ちいい……数万の視線が俺たちを貫き、祝福の声が響いている。
俺はこの日を忘れないだろう……マジで最高の一日だぜ!!
◇◇◇◇◇◇
さて、表彰式が終わり、第一回ザナドゥ・マリンスポーツ大会も無事閉幕。
出店や露店などはまだまだ盛り上がっている。祭りが終わったからすぐ撤収……ってわけではないんだな。
俺とサスケは着替え、サンドローネに呼ばれたので王族用の観客席へ。
ドアをノックして中に入ると、なんかメチャクチャ空気が重かった……同時に、老舗商会を経営しているボンバさんが俺をジロっと睨む。
「貴様……貴様のせいで!!」
「え、なに、え」
「ええい!! 貴様が優勝などしなければ!! 貴様がああああああ!!」
「え、は? えと」
な、なんかズンズンとボンバさんがこっちに来るんだが!!
するとサスケが前に出て、冷たい目をボンバさんに向け、どこから出したのか苦無を向けた。
「ひっ」
「なるほどな。サンドローネさん、言いがかりかい?」
「ええ、そうよ」
メチャクチャ勝ち誇ってるサンドローネ……ああそういうことね。
サンドローネは胸を張り、煙管を吸って甘い煙を吐き出す。
「約束通り、あなた方の商会を一つ完全に潰すこと。期限は十日以内。もし、十日以降も商会が残っていたりすれば、アレキサンドライト商会は全力で潰すわ」
「ぐ、ぐうう……」
ボンバさんは震え、いきなり別の老婆へ言う。
「マディアン!! 貴様の商会を潰す。文句はないな」
「はあああ!? ボンバ、貴様が我々の代表だろう!! 潰すのは貴様のじゃ!!」
「だまれ!! ヘイグかマディアンのどちらかだ!! お前ら、文句は言うくせに陰に隠れてブツブツ言うだけじゃ!! なんのリスクもないお前らの商会を潰すべきだ!!」
「言わせておけば!! そもそも、ワシはアレキサンドライト商会に喧嘩を売るなんて馬鹿なことだと言った!!」
「そんなこと言っとらん!! モーディもシュリも、黙ってないでなんとかいえ!! 黙ってれば逃げれると思ってるのか!!」
「なにぃ!? やかましいわ!!」
「そうじゃそうじゃ!!」
ろ、老人たちがメチャクチャ喧嘩してる……誰の商会を潰すかで。
なんとなくサンドローネに言う。
「な、なあ……サンドローネ、勘弁してやったらどうだ?」
「ダメよ」
サンドローネはよく通る声で言う。
「一度でも甘い顔をすれば、こういう輩は調子に乗る。絶対にルールは曲げないし、容赦もしない」
「お、おお」
こっわ……マジ女王様って感じ。
さて、なんで俺たちが呼ばれたのかね。
「ゲントク。あなたの『潜水艇』だったかしら。アレキサンドライト商会で管理するわ。新しい商品になりそうだしね」
「ああ、いいぞ。ところで……優勝したし、俺との約束も守ってもらうぞ。くくく、俺も容赦しないからな」
「……わ、わかってるわよ」
すると、ハボリム、ラスラヌフが入って来た。
「よーうゲントク、優勝おめでとさん」
「おう。ありがとな、今度奢れよ」
「ははは、わかってるよ」
「近く、祝勝会やる予定だ。俺の別荘で、給仕とか全部サンドローネに任せるからよ、お前とラスラヌフも来いよ」
「え」
「ははは、もちろん参加するぜ」
「うむ。ワシも行くぞ」
「おう。じゃあ、今日は疲れたし帰るわ。じゃあな」
俺、サスケは軽く手を振って部屋を出た。
すると、ドア越しに聞こえて来た。
『で、お前ら。どの商会を解体するんだ?』
『ほほほ。勝負の条件だったからのう、なあサンドローネ』
『ええ。早く決めてくださる?』
『『『『『…………』』』』』
古参商会の人たち、どうゴネても絶対に一つの商会を解体することから逃げられそうにないな。王様、ザナドゥの生き字引、アレキサンドライト商会商会長に言われたら……おーこわ。
「オッサン、このあとどうする?」
「そうだな、軽く飲んでから帰るか」
まあ、俺とサスケの仕事は終わった。あとはのんびり、休ませてもらおうかね。