12月23日
「はっ!」
飛び起きると自分の部屋、壁掛け時計は朝の9時を過ぎた所だった。
前回とは違ってサンタとの会話は明確に覚えている。
今日中に子供にプレゼントを渡さねば、自分の命はない。
「……外に出るか」
何もしなくても存在を抹消されるならいっそ後悔の無いようにしてやる。
急いで支度を済ませ外へ出ると、こんな真冬の朝なのにもかかわらず外を走る子供の声がしてきた。
「まずは……買い物からか」
プレゼントする物を買わないと始まらない。
駅前のデパートまでサンタの力を使わないように歩く。
どうやら急ごうと思うとサンタの超スピードで移動できるらしい。
少しでも足に力を込めてしまうと、時速二万八千キロで走りだしてしまうので注意……と枕元にあった書き置きに記されていた。
「どう考えても不便だろ、気を抜いたらマッハ22で走り出すとか嫌だぞ」
ちなみに衝撃波とかの心配はないそうだ、サンタパワーのおかげらしい、だからサンタパワーってなんだよ。
不満を漏らしながらも十分ほど歩き、駅前に到着した。
クリスマスイブの前日ということもあり、どこを見てもクリスマスの装飾に飾られていて、広場にある大きな木もクリスマスを象徴する風貌へと変わっている。
「クリスマスツリーとか最後に見たのいつだったかな……」
年末年始の寒い夜を徘徊する趣味はないので、実家で暮らしていたころに部屋に飾っていた小さいツリーくらいしか思いつかない。
まだ小学生だったころによく飾りつけの装飾を踏んで悶絶してた。
「店はもう開いてるな」
自動ドアをくぐると、暖房が優しく包み込んでくれた。暖かい、家から動かなければずっと暖かかったのに。
これも全部あのおじさんの前方不注意が原因だと思うとものすごくやるせない、今すぐ帰りたい。
命を握られてるので抵抗することも出来ないけど。
「……とりあえずお菓子でも買うか」
おもちゃのプレゼントとかは怪しいだろうが、子供たちに市販のお菓子を配る程度なら通報されないと思う。
デパートの食品売り場にやってくると、チキンやケーキなどクリスマスらしいものが並べてあった。
「こういうの見ると食べたくなるんだよな」
事が済んだら宅配サービスで頼もう、そう心に誓った。
奥に進み子供たちに人気そうなお菓子を何種類か買って外に出た。
「――寒」
日差しが出てるにもかかわらず肌を刺すような冷たさがある。
そういえばクリスマス付近は強い寒波が日本にやってくるとかニュースでやってた気がする。
都内でも雪が降って今年はホワイトクリスマスかも……なんて言っていた。
「さっさと終わらせてコタツに帰ろう」
鋼の精神で5分かけて歩いてこのあたりで一番大きいまで移動した。
子供たちは居なかった。
「ダメじゃねぇか」
そもそも公園でお菓子配ろうとするのが間違ってる気がする、これじゃクリスマスじゃなくてハロウィンじゃねーか。
いったん諦めて帰ろう、まだ十時前なんだからイベントとかに飛び入り参加できるかもしれない。
そう思い公園を出ようとしたところで、予想外の人物に遭遇した。
「あれ、刹那君」
「え、春香さん?」
現れたのは春香さんだった。
「……おにいちゃんだれ?」
しかも見知らぬ女の子を連れて。
店主と春香さんに子供はいなかったはずだ。
「……事案ですか?」
「どう考えたらそうなるのかわからないのだけど……姪を預かっただけよ?」
話を聞けば春香さんの妹の娘さんだった。
なんでも両親共に急な仕事が入ってしまったらしい。
「まだ四歳で一人っ子だから、家に留守番は心配だーって言われちゃってね」
「なるほど」
「ということで遊んであげてくれないかしら」
ということで?
今の流れからはちょっと急すぎるパスじゃないか?
「え、でも」
「いいからいいから、大人しくていい子よ?」
「えぇ……」
でも、ここで仲良くなれば何か欲しい物を聞き出せるかもしれない。
そしたらあとはそれをプレゼントするだけだ。
「わかりました」
「ふふ、やっぱり面倒見がいいのね」
「そんなことないです」
全ては自分の命の為だ。
面倒見がいいわけではない。
「麗奈ちゃん! お兄ちゃんが遊んでくれるってー!」
「……ほんと?」
砂場で遊んでた麗奈ちゃんがトコトコとこちらに来て聞いてきた。
「うん、あそぼっか」
「……じゃあ、ブランコ押して」
そういうとブランコの方までトコトコと歩いて行った。
後ろからついていき、麗奈ちゃんが座ったところでやさしく背中を押す。
冬の寒い空気をブランコが切り、冷たい風が頬を撫でる。
「ちゃんと捕まっててね」
「……うん」
これ、大人しいというか人見知りじゃないか?
その後もしばらくブランコを押し続けていると、麗奈ちゃんから「すとっぷ」と声が掛かった。
「もういいの?」
「うん」
正面に回って顔を覗き込むと、先ほどよりは満足そうな顔をしている。
「楽しかった?」
「……うん」
悪い印象を与えたわけではなさそうでよかった。
こんなところでプレゼント計画がとん挫してしまっては困る。
「……ほかにもおねがいしていい?」
「もちろんいいよ」
「じゃあ、しーそーやりたい」
その後も言われるがままに遊具で遊び、遊び疲れた麗奈ちゃんは春香さんの座るベンチへと戻っていく。
「刹那君、ありがとうね」
「いえ、これくらいなら全然」
「……おみずのみたい」
よし、プレゼントのチャンスだ。
「俺、自販機で何か買ってきますよ」
「え? でも……」
「自分の飲み物買うついでですから」
反論を返す暇も与えず、自販機まで早歩きで急ぎ、天然水を2本買う。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
これで、ひとまず欲しい物をプレゼントするという課題はクリアした。多分何とかなっただろう。
すると、春香さんのスマホから着信音が鳴った。
「あ、ごめんね刹那君、もう少し見ててもらえる?」
「はい、大丈夫です」
春香さんはスマホを片手にベンチから立ち上がると、少し離れたところまで行ってしまった。
「……おにいちゃん」
「ん?」
くいくいと裾を引かれ、麗奈ちゃんの方を向く。
どこか恥ずかしそうにしており、視線が泳いでいた。
それでも勇気を振り絞ったのか、口を開く。
「あのね、れなはいつもひとりであそんでたからね、その……おにいちゃんがあそんでくれてうれしかった」
「……そっか、それならよかった」
春香さんは一人っ子と言っていたし、人見知りな部分もある。両親共働きだと遊び相手もなかなかいないのだろう。
麗奈ちゃんは、言いたいことが言えたからかわずかながらも笑顔になっているようだった。
「お待たせ! 麗奈ちゃん、お母さん仕事終わったって!」
「ほんと?」
「うん、迎えに来るって言ってたから帰りましょう」
「わかった」
麗奈ちゃんがベンチから立ち上がったので、それに続くようにして立ち上がる。
「ほんとにありがとね、麗奈ちゃんも珍しく懐いたみたいだし、また機会があったら遊んであげて」
「そうですね」
手を振って公園から出ていく春香さんと麗奈ちゃんを見送り、俺も帰路に着こうと公園から足を踏み出した……その時だった。
体に走る三度目の衝撃。
意識はまたも刈り取られた。
◇ ◇ ◇
「毎回これやるんですか?」
「いや、そういうわけではないのじゃが」
「じゃあなんで轢かれたんですか」
「……その方が楽じゃからの」
見慣れつつある真っ白の空間で、俺はまた赤い服のおじさんと対面していた。
「と、ともかく。試験は終了、結果は合格じゃ」
その言葉に、ほっと胸をなでおろした。
これで始末されなくて済む。
「ほっほっほ、こんなにもサンタの才能があるとは思ってなかったのじゃ」
サンタの才能ってなんだ?
「子供もいい笑顔じゃったし、よかったのじゃ」
「……そうですか」
確かに、麗奈ちゃんは笑顔だった。
別に水を渡したことが原因ではないが。
「そりゃあの、知り合って数十分の人間からもらった水だけで喜ぶ人間は子供でも少ないのじゃ」
「……ではなんで合格に?」
「子供が笑顔だったからじゃ。こんなことを言ってもあれじゃが、プレゼントは本質ではないのじゃ」
曰く、子供たちに夢と希望を届けるのが仕事であり、プレゼントは形の一つだという。
「お主があの子供と遊んであげていたから、あの子供は笑顔になれた。それは誇るべきことであり、お主が優しい証拠なのじゃ」
「……ありがとうございます」
いや、いい話のように終わらされてる気がするが、元はと言えばこのおじさんがわき見運転をしていたことが発端なんだ。
おかげでこんなことに巻き込まれた。
「ま、まぁよいではないか……」
「ちょいちょい思考盗聴するのやめてくれませんか?」
「よし、ではお主にサンタの力を授けよう」
問答無用でおじさんの手の上に光り輝く球体が生まれ、それが俺の体に叩き込まれた。
体に不思議な感覚が走る
「これでお主もサンタの力を手に入れたのじゃ」
「……なんでだよ」
「ところで明日は暇じゃろう? 見習いサンタとして儂についてきてもらうからの」
「拒否権は?」
おじさんは、ニコニコと怪しげな笑みを浮かべると「ないのじゃ」と言い放った。