模擬戦?
――学校まであと一ヶ月
「「カラリア!!」」
「はいはい」
それからも城の皆と上手く馴染みながら、私はこの生活を満喫していた。
「ワンッ」
「もふもふ!!」
王子の兄弟達はワンコロを気に入ったようで毎日遊んでいる。ワンコロもまんざらでもない表情で転がっていた。
「カラリア、調子はどうですか?」
「おかげさまで元気ですよ、ライバ王子」
ライバ王子も私の側で兄弟達の様子を微笑ましく見守っていた。
「それは良かったです。では今夜もどうですか?」
「是非、楽しみにしています」
王子との交流も増えていき一緒にご飯を食べる事やダンスの練習をしてくれていた。
「ワン!!」
「待て待てー!!」
こんな生活をするなんて、少し前の私には想像できなかったな。
「もうすぐ学校ですね」
「はい。」
「本当は一緒にいたいのですが、一年近くは」
「分かっていますよ。正式な発表が出るまでは関係をあまり見せないようにしましょう」
ライバ王子は少しうつむいた表情でそうですね。と呟いた。
「なにかあえば必ず貴方を守りますから、すぐに行ってください。」
「頼もしいですね」
「そうですか?カラリアの近くには入れませんが、我慢して遠くから見てますから。ずっと。」
っ……なんだか恥ずかしい。
私は少し頬が赤くなっているのを気にしていた。
でも、学校ってどんな人がいるんだろ?私の力はどのくらいあるのかわかればいいんだけど。
昔は、よくシグルと模擬戦してたんだけど。お願いしたら誰かとできないかな?
「あの、ライバ王子」
「なんでしょうか?」
「実は、自分の力がどのくらいあるかを知りたくて。もし出来れば模擬戦をしてくださる方がほしいのですが」
もし、学校でなにかあったら自分の身は自分で守らないといけない。王子に頼るだけは嫌だし。だから、学校に向けて準備しないと。
「では私が相手になりますよ」
「ありがと…えっ!」
王子はニコッと笑いながら自分に指を向けた。
「でも、水がかかるかもしれませんよ?」
「実戦用の服がありますから大丈夫です。それに、カラリアとは是非力を比べてみたいと思っていました。」
そういうと、王子はワンコロ達の元へ歩いていく
「今から、カラリアと模擬戦をしますが見に来ますか?」
「うん」
「いく!!」
ノアと妹のアノは無邪気に頷き、ワンコロは首を傾げていた。本当にやるの?
「ではカラリア、実践場に行きましょう。」
「あっ……はい!」
もうここまできたらやるしかない。実践場は城の最上階にあるようで、王子についていくと広い場所があった。
「カラリア、あそこの更衣室でこれを来てください」
「わかりました」
案内された場所でカーテンを引っ張り、ドレスから実践服へと着替えた。動きやすいズボンと薄くて丈夫な上着を身につけた。昔に戻ったような快適さがある。
「カラリアはなに着ても似合いますね。」
「ありがとうございます。」
王子と向かい合うと、間でラナは待てとポーズをした。
「その服には高度な防御魔法がかけられています。怪我をする事はありませんが痛みは感じるので、痛み具合や、攻撃があたった回数、服の状態を見て判断します。やめ。といったら全ての武器、魔力を放棄することが絶対条件です。」
「お兄さん頑張れっ」
「カラリア勝てよ!!」
二人はわいわいと外から声をかけていた。
「遠慮はいりませんよ」
「こちらこそです」
「では初めっ」
「――っ行きなさい!」
ラナの声と共にワンコロが飛び出て王子に向かう。
「いきますよ。我が剣よ」
王子は魔剣の使い手で魔力がこもった剣を上手くつかいこなす人だと聞いている。使える魔力はほぼ全部。特に光は、神の領域に達するほどと言われている。
流石は、王子と名乗る実力だ。
王子はワンコロの攻撃を軽々と受け流すと彼の足下を狙い剣を振りかぶった。
「ワンっ!」
――今だ!
片手は水流を使いワンコロの援護。もう片手で創造を始める。
「……流石ですね」
王子は不意に現れた水流をギリギリ受け止め、次のワンコロの攻撃に備える。
「一気に2つ!?」
「すげー」
「いけっ」
「ピャー!!!」
凶暴に暴れ始める鳥のような獣は王子に一目散に向かう。
ガッ
クチバシと剣がぶつかり合う瞬間に、ワンコロが背後から奇襲をかける。
「……っ! やっぱりカラリアの力は偉大ですね」
攻撃された片腕を押さえながらも王子は強く剣を構えた。
「これからです。神よ私に祝福あれ」
王子の声をともに剣は光りを放つ。光は飛び散るようにワンコロと獣の動きを止めたようにみえる。
「二人ともどうしたの!?」
「剣よ、我が道を貫け――」
動けなくなった獣達に王子はサッと向かい、大きく振る。
「キャン!?」
「ピギャ!!! ……。」
「っ!!」
獣は片手で作ったせいで脆く壊れてしまった。ワンコロは転がるように壁にたたきつけられる。
やはり王子は強い。でも、もっと強くならないと私は学校で生き残れない。きっとこんな人が沢山いるだろう。
そう考えている間に、王子は私の元まで間合いを狭めていた。
「――っ!!」
「油断しましたね」
王子は剣を振りかぶって向かってくる。まだ負けるわけにはいかない。
ズサッ
「?」
王子は床が落ち、方足が下に落ちたことに驚いている。作戦通りだ。
「油断したのは王子のほうですっ。」
バシャ!!
私は顔に向かって至近距離から水を浴びせた。
「やめ。カラリアの勝ちです。」
王子はビショビショになりながら呆気にとられた表情をしていた。マズイかな。
と思った矢先、
「ははははっ、やっぱりカラリアの魔法は面白いですね。」
王子は濡れながらも、子どものように楽しげに笑っていた。
「王子の剣も凄かったです。少しでも間違えてていたら負けていました」
「久しぶりに良い勝負ができた。次は私が勝つからな」
「私も負けませんから」
そう言うと、王子は髪の毛が垂れながらニコッと笑い着替えに向かっていた。
「王子に向かって容赦なく水をかける人、初めて見ました」
「謝ったほうがいい?」
「別にいいと思いますよ。どちらかというと貴方らしいと思っていそうですし。」
王子に容赦なく水をかける令嬢とか多分私だけだろう。しかし、あんなに強い人と戦うことは初めてだったな。
防御魔法の服なしでどちらかが倒れるまでやっていたら負けていた気もするし。まだ本気では無い気がする。
「大丈夫かな?」
「大丈夫です。ひどくて明日風邪をひくくらいでしょう」
それって結構大惨事じゃない?
「しかし、あの人があんなに楽しそうに笑うのは初めてです」
「そうなの?」
「はい。剣の修行も魔法の練習もずっと厳しくされていましたから。剣術の試合も険しい顔しかしませんし、あんなに楽しそうに戦うのはみたことがありません」
逆に楽しそうにしすぎて、怖かったけどそれなら良かったかも
「じゃあまたやろう。」
「そうですね。でも、カラリア様のやることは沢山ありますから忘れないように」
「っ……」
私は顔を逸らした。
「ふふっ、楽しかったです。」
「こちらこそです」
私が着替え終わると、ライバ王子もいつもと変らない格好になっていた。
「お手合わせありがとうございました。」
「またお願いしますね」
その後、兄弟達が模擬戦の事を大興奮しながら話し夕食の時間が終わった。
王妃は私にそんなことをしたのか?と王子を責めていたが、私が庇ったためなんとかなった。
――学校一日前――
「大分、踊れるようになりました」
「それは良かった。では今日も」
私は差し出された王子の手を取り、エスコートされながらステップを踏んでいく。
ゆっくりとした音楽からテンポがあがりステップを変える。
最初は難しくて、ドレスを踏んでいたけど王子やラナのおかげで普通くらいのダンスはできるようになった。
まだ、王子の負担が大きいような気がするからもっと頑張らないとな。
「カラリア、どうしましたか?」
「いえっ」
「やはりカラリアは上達が早いですね。」
「ありがとうございます」
クルクルと回りまがらも王子の顔だけははっきりと見えている。
「綺麗ですよ。」
「っ……」
「やはり貴方を婚約者にして良かった。カラリアとの毎日は飽きませんしずっと一緒にいたいです」
「ありがとうございます。」
ライバ王子は照れる私をみてクスッと微笑んだ。
最初はずっとバスプラにいる予定だったけど、この生活も楽しくて私にとっての大事な場所になっている。
「学校での生活で分からないことがあれば聞いてください。婚約者なんですから」
「はい。」
「学校では秘密ですけどね」
楽しいダンスは終わり王子は私を部屋まで送ってくれた。
「では、また明日。学校で会いましょう。」
「はいっ」
「おやすみカラリア」
――っ
王子は私が油断した隙をみて、口を近づけた。
「お、おやすみなさい。ライバ王子」
私は突然のキスに驚きながらも部屋に入る。
しばらく時間が経つと、ラナが鞄を持って部屋をこじ開けた。
「さあ、カラリア様速く明日の準備をしてください。時間がありません」
「そういえば、準備があったのか」
「大体はしましたけど」
「本当!?ありがとうラナ!」
安心しながら二人で鞄の最終確認をして、仲良くお風呂に入った。
「明日は、よりいっそう身なりを整えてください。服装は学校指定なので身なりが大事です。貴方はバスプラという田舎から行くことになっていますので第一印象に、より気をつかう」
「はい」
「で、明るく。面倒ごとには首を突っ込まない」
「はい」
「そうすれば友達の一人二人は出来ますよ」
「やった」
「婚約者も言わない」
ラナから子どものように言われながら、風呂をでてベットに入る。
「では、また明日」
「おやすみラナ。」
「おやすみなさいませ。お嬢様」




