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悪徳令嬢に仕立てあげられた少女は、この世界に抗い生きる。  作者: 大井 芽茜


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長い1日

婚約をした私は王都に向かい、王に挨拶をした。

これで終わったと思ったら夜の会で皆に挨拶をしなければならないらしく……

 ――夜


「お、お揃いあそばされてごきげんよう。ライバ王子の婚約者になり、本日からこの城に住むことになったカラリア・ガベットと申します。」



 私は、大人数に向かって挨拶する。手汗は止まらないし、心臓の高鳴りは止まることがない。傍に王子とラナがいることだけが私の支えだった。



 その声を聞いた人は、戸惑う表情やザワザワとした空気がただおう。

「なにあの子」

「みたことないけど、どこの令嬢?」


 やっぱり田舎者に令嬢のふりをしろというのは荷が重すぎる。どうしよう。どうしよう。



「皆、彼女は今話題になっているバスプラを救った英雄だ。彼女の魔力に惹かれた私は誰よりも速く彼女に婚約を申し込んだ。もちろん、お父様の了承は貰っている。」


「ライバ王子、あの方との婚約はどうなったのですか」

 ライバ王子は不意をつかれたかのように一瞬視線が泳いだ。



「……この国で魔力が使えない者との婚約は認められない。それに私はカラリアの美しい魔力と心に惹かれたのだ。カラリア、貴方の力を皆さんにも見せてあげてください」

「は、はい!」


 私は、王様の時と同じようにワンコロを造り出した。



「ワンッ、ワンワン!!」

「ワンコロ私の傍にいて。後で美味しいものは沢山あげるから」


 ご飯を見てはしゃぎかけたワンコロを大人しくさせていると、皆も王様と同じように

「無詠唱!? こんな高度な魔力を使えるのか?」

「水の創造なんて初めてみたわ」



「これがカラリア様の魔力……」

 ラナも息をのむようにワンコロを見つめていた。

 少し調子が出てきた私は、鳥を作り出し会場に散らしたり、花を作ったりして場を湧かした。


 その時には、顔が緩み楽しそうに拍手が巻き起こる。良かったあ。



「正式な発表は1年半後、学校での功績により決まる。しかし、今も私の婚約者には変わりない。どうかカラリアのことを静かに見守ってくれると嬉しい。」

 そう王子が言うと、戸惑っていた人達も静かに頷いて拍手する。



「カラリアのことを皆が認めてくれたようです。ではカラリア、私のお母様にも挨拶にいきましょう」

 そう言うと、ライバ王子は王と王妃の元に連れていってくれた。



「貴方がカラリアね。先ほどの余興大変素晴らしかったわ。」

「ありがとう存じます。」


 金色の巻いた髪に光る口紅……高貴!で上品!と見るだけで分かる。お里が宜しいようで。


「ふふっ。そんなに固くしないでいいのよ。これからよろしくね」

「はいっ」


 なんとか王妃にも認められたようで私は胸をなで下ろした。

 しかし、安心する暇もなく王子の妹さんや管理人、お目付役の人達などに挨拶してまわった。



 ご飯なんて食べる暇もなく、歩きにくいドレスと靴に苦しみながらやっと長い会が終わり、ベットに裸足で倒れ込んでいた。


「カラリア様、ご飯を食べた後はお風呂に入ってください。」

「お風呂?町を出る前に入りましたけど……それに風呂屋まで行く気力はもう」

 そう言うと、ラナはうつむきながら考え事をしていた。



「あの、ここでは毎日入るのが基本なんです。風呂屋はないですが城の中にありますので。」


「そうなの!?あっそうなんですか?」

「そうです。あと、私にはそこまで気を使わなくて構いません。」

 流石、王族といったところだ。

 バスプラでは一週間に2、3日くらいしか入っていなかったけど、色んな人と話すのが楽しかったな。


 でも、1人で入ったことないや



「じゃあ、お言葉に甘えて。あの。一緒にお風呂入ってくれませんか」

「えっ」

 彼女の目が一瞬見開いた。やっぱり変かなあ。



「一人だと心細いので……一緒に来てくれたら嬉しいなって」


 ラナは、はぁ。と小さなため息をつきながらも

「分かりました」


 と承諾する。一緒にお風呂場に行くと大きな浴槽があった。こんな浴槽見たことない。


「これがお風呂!? なんて広いのかしらっ」

「待ってくださいカラリア様。先に汚れを落とすのが基本です」

「そうでした。へへっ。」

 私は汚れを落としたあと、ラナに髪を洗ってもらい、手入れしてもらった。


 なんかよく分からなくて長かったけど、綺麗になった髪に見とれてしまう。


「いきますよ」

「うんっ」


 お城は窮屈だけど、その分バスプラとは全く違う生活に飽きはしない。

 お風呂気持ちいいな。


「カラリア様、明日の魔法学についてです。先ほど会っていたお目付役の方から教授して頂きます。その後は私とまた作法について学びましょう。」

「うげ。やることだらけだな……」



 そういうと少し違和感がラナから伝わった。

「そうですか。私はうらやましいと思いますけどね。」

「えっ」

 少し悲しそうにした後、はあ。と呟きながらお湯に肩まで入っていく。


「実は私、ライバ王子の元婚約者です。」

「……そっか。」



 ん?

 こんやく、婚約者!?


「ええええええっ!!!??」

「そんなに驚かないでください。はしたないですよ」



「本当はその予定でしたが、何度か耳にした通り私は魔力が使えません。だから、学校にも通えませんし、セルディアで生きていくのも苦しいくらいです」

「そんな」


 彼女がもし魔力が使えてたら……でも、魔力がないからって。


「もういいんです。私はカラリア様の召し遣いとしてライバ王子を影から支えると決めました」

「……」


「初めて貴方を見た時、本当にふさわしいのか心配しましたが、あの魔法を見て王子に見込こまれた事があると思いました。あのようなすごい魔力を使いこなせる貴方が心底羨ましい」

「ラナ」

 ラナは吐きつけるように言うと一定の間静かな雰囲気が流れた。



「だから、婚約者の召し遣いとして、元婚約者として、貴方の力になります。貴方には立派な婚約者になってもらわないと私の立場がなくなります」

「……うん」

 私は自然に力強く頷いた。



 その後、お風呂を出て廊下を一緒に歩いて部屋に向かう。

「そういえば、「無詠唱」ってなに?」

「えっ」


 本気で言っているのかという顔をされても、意味が分からないから聞いただけなんだけど。



「本来、魔素を魔力に変換させる時に詠唱という道筋を作り魔力として形にします。その詠唱がなければ形に出来ず、不安定な魔素が出てくるのです」

 道筋?そんな仕組みがあるなんて初めて知ったな。



「……そんなこと聞いたことない。小さい頃に本を読んでて、魔力を使う人がかっこよくて真似したら出来たんだけどな」


「はぁ、全くとんでもない人ですね。普通、魔力を使えるようになるまで5年はかかるというのに」



 ラナはこう言っているけど、そんなことあるのだろうか。

 お父さんもお母さんも使えないし、町に教わる人がいなくても出来たのに。



「そろそろ寝ますよ。明日も長いんですから」

「はーい」

 私は髪を乾かしてもらったあと、フカフカのベットで大きく大の字になった。


 長い一日がやっと終わる。



「ではお休みなさいませ」

「おやすみ、ラナ」


 お辞儀をして、ロウソクを消す彼女は何故か笑っているように見えた。それにしても、この世界は魔力が絶対なんだな。バスプラの人も魔力が使えないから困っていたし。



 そのとき、ふと私に考えが浮かんだ。


 皆が生きやすいようにするには魔力が必要だ。もし、誰でも魔力が使えるようになれば皆が幸せになれるかもしれない。


「よし、そのためにも今はこの生活を頑張るぞ。で学校に行ったら研究しよう」

 私はそう決意をして目をつぶった。




「……王子の目は間違っていないと思います。あの方に秘められた魔力の可能性、人柄も申し分ない。」

「だろう」

 王子はテラスで風に吹かれていた。


「しかし、私が婚約者をやめたという噂が広がっている以上、貴方の婚約者になりたい方は増えています。」


「だからと言って、今カラリアを出せば英雄だろうが庶民じゃないかと叩くかもしれない。」


「……今は見守るしかないですね。カラリア様は私にお任せください。」



 ラナは気まずそうな王子を見てはぁ。とまた、ため息をつく

「ラナ、悪いな」

「いえ、もう振り切っていますから。私にはカラリア様の世話をするかこの都市から出て行くしかありません」

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