対面
婚約を求めらた私は、王都セルディアに向かう。
でも、王様に王子は話していなかった。今から説得をしにいくらしい。
――セルディア――
「わぁ……」
この町に入った途端、私の知っている町とは全くの別物だということを思い知った。
都市中に人があふれかえり綺麗なドレスや花飾りをつけた女の人に紳士的な男の人が歩いている。
これがセルディアの人間か。
真ん中には学校の校舎がそびえ立ち、そこに向かう道には見た事のない食べ物などがあふれている。本でみた絵画というものも売られているようだ。
そして、窓に見えるは大きな城が待ち構えていた。
「ついたよ、カラリア。」
手を引かれて降りると、城を取り囲むような緑にあふれた庭が広がっていた。
庭なのにバスプラと同じくらいの広さに見えてしまう。
「案内がてらに、ここに降ろしてもらいました。庭の中で迷子になったら困りますので。」
「綺麗な庭ですね。」
「はい、毎日手入れをしていますから」
王子に花の名前や青の花を道しるべにすれば迷わないと教わりながら歩いていく。
「ここが私達のお城です。カラリア準備はいいですか?」
「っはい」
ここで頑張らないと、バスプラの評判にも繋がるんだから。
王子は門番の兵士に向かって手をあげると、扉が音を立てながら開いた。
「お父様、連れてきました」
「……本当に連れてくるとは。」
奥には豪華な椅子に座った男がいた。
この人がこの国の王様。絶対に失礼がないようにしないと。
「お初にお目にかかります国王さま。バスプラの町から来たカラリア・ガベットと申します。」
私は片膝を立てて頭を低くした。
「そんなにかしこまるな。それにしても、私の息子が申し訳ない」
「いえ、そんな事はありません。」
「ライバ」
「お父様、私は彼女こそふさわしいと思っているのです。」
王様は困ったように、ひげを触っている。
「確かに、最近は後継者争いが増えているし私達に近づいてくる者は皆、地位のことしか考えていない。だがな……私達に立場というものが」
「本来婚約者に見立てた者は魔力に愛されない方でした。そんな時で出会った彼女は町を救った英雄だ。その英雄を名をしらない者はいないでしょう。その英雄の功績を称え婚約者に選んでも問題はない」
どうしよう。二人でバチバチしてるんだけど。
「だが……」
「不満なら彼女の魔力を見ればいい。カラリア」
「はひっ」
突然振られたせいで、私は急に立ち上がった。
「えっと、少し水を飛ばすかもしれませんがやります。」
魔素を魔力に変換させ、手の平に水を生み出し高い所から低いところまで水を持っていく。
「こい、ワンコロ」
「――ワンッ」
ワンコロは私を同じくらいの大きさになり、城内を走り回る。
王様は目を丸くしながらその様子を見ていた。
「創造だけでなく動けるとは……まるで命が宿るように見える。それに、無詠唱でこんな魔力を」
「こらっワンコロ。走り回ってはいけません。」
ワンコロを慌てて止めて王様にお辞儀した。
「お父さん、彼女は魔力の増加さえ出来ればあの竜すらも作り出せます。」
「竜だと……英雄とは聞いたがこんな能力があるとは」
「お父さん、彼女の力さえ見れば誰もが目を引きつけて喜び、反対するものはいないでしょう。」
「……」
王様はコクッと頷くと、
「分かった。お前達の婚約を認めよう。ただし、ある一定の期間のみだ。最終的な判断はカラリア・ガベットが1年を学校で過ごした後に決める」
「それで構いません。」
「ありがとうございます。」
まずは認めてもらえたようだ。でも、まだ決まったわけじゃない。
「カラリア。醜い親子げんかに巻き込んですまなかった。今日から君は私達の家族だ、まずは皆に挨拶する機会を作ろう。」
「ありがとうございます。」
「王族は礼儀やら衣装に目を配らないといけない。生きづらくなるかも知れないし分からない事も沢山だろう。もしなにかあれば誰にでも相談するといい。私も時間があるときなら話しを聞こう。」
「お気遣いありがとうございます。」
「では、行きましょうカラリア。」
その後、王子に呼ばれ私はついていく。
「やはり父も認めてくれましたね。」
「はい。まだ実感がないですのですけど」
「大丈夫ですよ。すぐに慣れますから。」
話している途中にも沢山の召使いが歩いてくる。私の顔を物珍しそうに見ていることに王子は気づかないまま部屋へとたどり着いた。
「今日からここが貴方の部屋です。ご自由にお使いください」
「わぁ」
案内された部屋は、20人ほど入っても息苦しくないような広大なスペースだった。
「私だけですか?」
「もちろんです。あとでカラリア専用の召使いを呼んできますから、先にそこにある棚から好きな服を選んでいてください。」
「……はい。」
王子が出ていった後、服をみようと開けると華やかしい服が並んでいた。
「すごいな、本当に婚約したんだ私。」
そう呟きながらがら、花を散りばめた青いドレスを手に取った。
コンコン
「あっはい!」
返事をすると、王子が人を連れて入ってきた。
「カラリア、連れてきましたよ。今日から貴方のお世話を担当してくれる人です。」
「ラナ・パルデです。ラナとお呼びください。」
王子の隣で頭を下げたのは、黒と白の服を纏い、金髪を三つ編みにして目元がクッキリとしている同じ身長くらいの女性だった。
「彼女は小さい頃から貴族としての教育を受けているし、魔力には恵まれなかったが学が長けている。是非頼ってくれ。」
「よろしくお願い致します。」
「こちらこそ。」
お辞儀をしていると王子は微笑ましそうにドレスを見ていた。
「もう選びましたか。うん、貴方にピッタリですね。ラナ、着付けをお願いします。」
「はい。」
「では、私はこれで失礼します。カラリア、夜には城内の皆さんに挨拶があります。それまでに必要な事をラナから教わってください。」
扉が閉まる音がすると、すぐにラナは私の持ったドレスを取った。
「では、時間もないし速く着替えましょう。」
そう言うと、私の服を脱がしドレスに着替えさせてくれた。
チャックが後ろにあるって不便だな。
「靴はこれで合いますね。あとは花飾りですが……これがいいですね。」
ラナはあっという間に私の髪を結び花を飾っていく。鏡に写る私の姿は別人のようにみえてしまう。
「はい。これで見た目は完璧ですね」
「ありがとうございます。」
ラナは一瞬、目を逸らすような表情をしたが、ため息をつくように私の顔をみる。
「まだ終わっていませんよ。貴方のような方は言葉遣いもご飯を食べるマナーもなっていない事が多いので、1から教えます。しっかり覚えてください。」
「うっ……」
そのあと、森を走り回っていた私には縁が全くないマナーというものを散々叩きこまれた。本の真似はできるけど、流石に容量が違いすぎる。
「違います、自分のことはわたくしと言うのです。まずは挨拶から。ごきげんよう、はい」
「ご、ごきげんよう」
こんばんは。じゃないみたい。
その後も、散々呪文を聞かされた。
「今言った言葉を覚えてください。その後、仕草に食事のマナーの他、まだまだあります」
「…………」
太陽が沈むまで窮屈な勉強は延々と続いていった。靴を脱いで裸でもいいから走りたい。




