争い
「ギャーーーーー!!!!!」
「敵襲!!」
獣の声が聞こえた後、アルの言葉と共に弓や炎が飛び散っていく。
「お願い力を貸して」
魔力を木に流すと木はガサガサと動きながら獣達の行く手を阻み、一方で町を覆うように木が並んでいく。木に足止めされて動けなくなった獣に一斉に弓の雨が獣を襲う。
「キャ!!」
弓矢には数分前に魔力をこめているため、生きているように動き魔風獣を串刺しにしようと向かい襲っていく。
(可哀想だけどこの町を守るためにはこうするしかない)
休む暇もなく、たたみかけるように土に魔力を流すと獣の足を引きずりこんでいった。
「おい、カラリア! 前に出すぎるなよっ」
シグルは周りの大人たちから飛び出し剣を振り回し前にいる獣を投げ払った。
「あんたもよっ」
「うっせ。あと、あの犬は」
「町の皆を守ってもらっているの。効果が切れそうになったら飛んでくるわ」
そう言うと、シグルは嘘だろ?と言いたそうな顔をした。
「ったく。お人好しすぎるだろ。まぁ遠慮なく剣が振れるってことなら、できるだけ倒すしかない」
「えぇ。」
あとは上からの視界が必要か。
私は手に魔力を込め小さな丸の形を作っていく。
丸になった形から翼を出し頭のようなものを出すように形取っていく。より翼と目は大きく軽やかに飛び回るように。
「ピーっ」
手の平から命が宿るように声が出てくる。私が目を開くと鳥のような生物が毛繕いをしたあと翼を広げて高い声で鳴いていた。
「お願い、町の中に被害がないか見てほしい。あと他とは違う獣がいたら教えて。特殊変異があるかもだから」
「ぴっ」
生み出された鳥はすぐに手から離れていき空高く飛び上がる。
「特殊変異ってあれか。えーと」
「魔力をもとから持っている子が魔素を吸うと体内で魔素同士が反発しあうやつ。」
「あー噂によりゃ破裂するように姿は変わるし魔素がぐっちゃぐっちゃで対策がしにくいやつか」
「まー言葉は悪いけど大体あってる。珍しい存在らしいけど、もし出てきたら出来るだけ速く倒さないといけないしね」
シグルは剣を獣に差し込むと、後ろに大きく回転してもう一体の攻撃をかわし蹴りを喰らわせる。
「まぁ、あの鳥が上空から見てくれるならそいつがいない限りは片っ端に倒せば良いんだな」
「きゅ……ぎゃあ、ギャアアア」
シグルが安心しきっていると背後から一度倒した獣がまた牙を向けてきた。
「後ろ」
「あぁ、そうそう。確か魔力を発散するまで暴れるんだよな。」
「そうよっ。やっぱりそう簡単にはいかないものね」
私の手の平から繰り出す水流は獣達を巻き込み大きく後ろに後退させる。
やっぱり、まだまだ倒れてはくれない。
速く援軍が来てくれないと。このままじゃ弓の効果も切れるし、シグルも私だって助からない。
「っ……」
手の平で作り出すは箱のように囲まれたでっぱりがある生物だ。
「おい。あまり無茶すんな」
「別にまだいけるわよ」
「お願い。これを町に持って行ってほしい。で、この手紙を渡してちょうだい。」
箱のように囲まれた中に新しい矢と弓をいれる。
「ルルル」
ドシドシと踏みならす生物を見送り、また私はシグルの援護をする。
「くそっ、倒しても倒してもきりが無い!!」
「それでも、ここで止めないとっ!!!」
降ってくる矢と巻き上がる炎。
暴走する獣を少人数で止めるなんてっ。
――そのとき
「はいはい、じゃあ下がって下がって」
その声と共に小さな石のようなものが放り込まれ
バンっっ
大きな音をたてて獣が爆発する。
「うちのこと忘れてなーい?友達じゃん」
「げっ、実験馬鹿だ」
金色の髪をお団子にした少女は、ベルトについた薬品を月にかかげた。
「うちの研究は独学だからこそ花があるっ。このエルア様の実験材料が沢山あってうち嬉しい」
「こっちは必死なんだぞっ、ふざけんなら帰れって。あとで採集すりゃいいだろ」
「クロエ、危ないって」
この二ヒヒと笑う子はエルア。町一番の変わり者だと言われている。15歳で。
「いやー良い実験じゃん?ここで認めてもらえば一攫千金!! ガッポガッポ」
彼女はヒひっと笑うと、倒れた獣になにかを飲ませて頭をグチャグチャといじっている。
「クっンっ!!??」
可哀想に泣き叫ぶ獣を私達は遠くに見ながら戦いを続ける。
「こいつだけ生きてる世界が違うだろ」
「あれで一匹でも大人しくなってくれたらいいのよっ」
水流を円を描くように動かし、川に獣を突き落とす。
「ふふん。はい出来たわ、少年は時間稼ぎ。カラリア、これ飲んでみて」
「……うえ」
彼女から渡された瓶には、蒼い色の中で赤い色がクルクル回る液体だった。
「ふざけんなっ、カラリア殺したら終わりだぞ!?」
「これ飲んだら力が上がる。獣に取り巻く魔力に対抗するにはあいつらの魔力を利用しなきゃ。有害なやつは消したし、いざという時に私も試作品飲んできたから」
「きゃあ!!」
「くそっ、しぶといな」
シグルが必死に受けている。あーもう、やるしかない。
毎回、くっそ苦いの飲まされて実験される身になりなさいよっ。
「うっ……はい飲んだ。」
「じゃあもどるわよ。次は戦ってくれる子を」
シグルの背後からくる獣に反射的に標準を合わせる。
しかし
「グアッッッッッ」
「――っガは!!!」
魔力は出なく、視界にはシグルは反射できず獣に身体を引き裂かれてしまい倒れ込んでいた。
「すぐに回復をっ……っっっっなんで!!!」
血がどんどん流れていく。回復も水も使えないなんて、こんな事これまでになかった。
「なんでっ、なんでっ」
体内の魔素がコントロールできなくなっていく。このままじゃ!!
「ワンッッッ」
「ワンコロっ」
ワンコロは私の状態に気づいたように、私の元には来ずに襲いかかってくる獣を水の塊になりながらも噛みついた。
「もういいから」
「ワン……ワ!!」
ワンコロの巨体な身体でも、獣に噛みつかれ溶けていく。
「ワン!」
ベチャ
「…………ぁ、ぁぁ」
元気な声と共に地面にはただの水たまりしか残らない。
「カラリア、も……いい。お前だけでも」
「嘘だ。魔力が上がるって本に…少年死ぬのか。」
「ふざけないでっ、こんなところで失ってたまるものか!!!」
この町を私達で守るんだ。
大事な人のために。もちろんシグルも一緒に。皆で生き残るって決めたんだ。
手を天に向けて全力で手の平に力を入れる。ここにある魔素を全部使って、制御も加減も出来なくて良い。魔力が使えたら、そこからまた作れば良い。
「まだ、終わってない!! はぁああああああああああ!!!」
「「カラリア……」」
魔素が身体に入っていく。
引っかかるように魔素の塊が出来ていることに気づき、押し上げるように動かしていく。
「ありったけの魔力を全部あげるんだから助けなさいっ!!!! まだ、終われないのよっっっ」
塊は魔力へと変換されると、パアアアアアアと蒼く光る大きな魔力が指先にできあがった。
そのまま大きくなり勝手に空へと上がっていく。
(待ってまだ形を作ってない。これを使えばっっ……勝てるのにっ)
「失敗だ。こんな時に」
空高く飛んだ魔力は消えていく。ここでもし使えてたら。
私は倒れ込むように手をついた。やっぱり、あんなよく分からないもの飲まなきゃ
「いや、カラリア上を見てみなさい」
「え?――っ!?」
上空を見上げると息をのむような神々しい光を放ちながら水をまとった細長い獣が水しぶきと共に舞い降りていた。
「――っ!! ぁた、助けて!! お願いっ」
「キシャアアアアアアアアアアア!!!!」
大きな巨体の獣は私に応えるように地面にたたきつけながら獣を駆逐していく。舞い降りた鱗はシグルの身体に当たると、スッと傷と共に消えていった。
「あれ生きてる。お前、こんなこと出来たのか?」
「ううん。魔力が出ないと思ったらいつの間にかあんなものが」
「いやーまさか魔力をあげただけでこんな化け物が出来てしまうとは」
細長い化け物はどんどん前へ前へと牙を向き、噛みついた獣は光を放ちながら消えていく。
まるで踊るかのように舞う姿に私達や町の人達は息をのむしか出来なかった。
「……あれはこの国を作ったと伝われる竜。皆の者、急いで向かうぞ。」
「隣国にこんな力があったとは」
遠くから男達は呟きながら見とれていた。




