試験開始!
――試験当日
「では改めて自己紹介を。私の名は、ライバ・ハルトと申します。今回はよろしくお願いします」
それぞれ挨拶を交わし、私達は目的地が3カ所書かれた紙を貰った。
「3カ所回って満点だ。学生同士で争うことは禁止。なにかあれば他の班とも協力して対象しても構わない。もし何かあれば各自持たせた笛をふくこと。分かったな。」
先生の説明が終わり私達は樹海へ足を運んだ。樹海という事あって魔風獣もいると先生に言われたからか、皆警戒していた。
「ウェルといいましたか。貴方は何が出来るんですか」
「大体は出来る」
「えーと、具体的には」
「……」
それだけを言ってウェルはただ私についてくる。王子はペースを崩されながらも笑っていた。
「なにかあったら力を貸す。それだけだ。」
「では頼みますよ」
王子はそう言いながら私達の前にでる。
「魔風獣です」
「魔風獣!? 本当にいるなんて……」
「大丈夫ですスピリ。私が守ります」
魔風獣は私達が視界に入った途端に、噛み付こうと襲いかかる。
『グゥっっ!!』
ガッ
王子は獣を引きつけるように動き牙に対して剣で攻撃を塞ぐ。
「ワンコロっ」
「ワン!!」
私は咄嗟にワンコロを創り出し、横から回り込むように獣に噛みついた。
「ギャウ!!!」
「やりましたか?」
「まだですっ」
王子が怯んだ獣を捉え光りを放った剣を突き刺した。私は獣の背後を取り水流とワンコロで連携する。
「キュウ……」
「まだか」
少し弱っているがまだ動く。あと一撃さえ与えられたらいいのに。王子は構え直し私も警戒する。
「――まってくれ」
ウェルはそんな私達の前へ出て、その獣の元へ向かっていく。
「なにしてるのっ」
「少し待ってくれ」
ウェルはその獣に触れた。獣は牙を向け威嚇していたが、次第に大人しくなり頭を擦り付けた。
「「……え?」」
「キャウ~」
「そうか災難だったな。これで大丈夫だ。」
彼が付けている指輪に、魔風獣の魔力が入っていくように見える。私達はその様子をただ見るしか出来なかった。
「なにしたの?」
「魔風獣は魔素が狂った獣だ。だから魔素を取り出した」
んー?
「この指輪は彼らを狂わせる魔素を食い尽くす」
「なんか凄いものって事ですかね?」
「なるほど!」
「とりあえず助かりました。では先に行きましょう」
その後も連携とウェルのおかげで2つ目の場所を通り順調に進んでいった。
ズサッ
片足が地面に埋まりこんだ。そういえば、今回罠を先生達が設置しているって言ってたな。
「ひっ」
「カラッ」
「……っ大丈夫か」
王子より先に、罠にかかった私をウェルが引き上げる。
「よ、良かったです。カラリア嬢」
王子は少しムッとしたような表情をして前を歩いていった。
「これで3カ所全て回りましたね。」
「思ったより上手く出来ました」
「……」
「やはりこのグループで良かったです。」
初めてのグループ活動もなんとか上手くいった。少し頼りすぎたかもしれないけど。
でも、これで最初の試験は四人みんなで満点だ。
――そのとき
「助けてくれっ!!」
誰かの声が森に聞こえた。
「行きましょう。なにかあってはいけません」
「そうですね、行って懲らしめてやりましょう!」
「2人共、怪我にはきをつけてくださいね」
「……」
私達が向かうと魔風獣に襲われているベル達の姿があった。仲間達が倒れる中、ベルだけが立っている。が、足が震え剣で身体を支えている状態だ。
「ガアアアアアア!!!!!!」
「なんだよこいつ、倒したのにっ」
這いずるように動く獣はベルに飽きたのか、私達に向かって這いずり私に向かって何かを吐いた。
「危ない」
王子はその方向を見極めて剣を振るった。剣に着いた液体を振る。
「スピリ嬢は彼らの回復を。カラリア嬢は私の援護をして頂ければ。ウェルは攻撃が皆さんにあたらないように見ていてください。」
「了解です」
「わかった。」
ウェルの指輪は魔風獣の動きが止まれば対処できるので、様子を伺いながらベル達の前に立った。
王子はできるだけベル達に当たらない距離まで獣を連れていき、剣に力をこめる。
「我が剣よ。道を示せっ」
光をみた獣の動きが鈍くなる。今だ。
「お願い、あの獣を止めて」
地面に手をつくと獣の足元を沈め動きを止めた。
「ウェル、今です!」
「分かった」
ウェルは走りだしベチャベチャの獣をつかみに行った。
「落ち着け」
「ギギッギギ」
魔素は指輪に入っていく。
「……辛かったな。」
暫くすると獣は可愛らしい姿になっていた。
「キュー!」
「変なところに行くんじゃ無いぞ」
可愛らしい鳴き声を出すと、ウェルに感謝を示すように消えていった。
「なんだお前ら、くそっ」
「ベル。」
スピリは、他のみんなと武器を全快にして休ませていたがベルだけは言うことを聞かずに立ち上がった。
「お前がいたらっ」
「先生が言っていました。相性がいい方を選ぶように。そして、命令などをして無理なことを押しつけてはいけないと。」
「この授業では、学校で基本となる力の連帯感を主にしているのです。それぞれの得意なことを把握し、協力して活かす。その事さえ出来て挑めば簡単にできるのです。貴方はそれが出来なかった。」
「そうだよっ、おれ回復苦手だし……」
「私も戦うのは出来ないって言ったのに。」
ベルと同じ班の人が声をだす。
「うるせぇ!」
……。
「ベル様お言葉ですが、貴族関係なく今は協力するべきだと思います。同じグループなのですから連携するべきです。」
「あぁ!? この庶民風情が!!!!」
ベルは怒りくるいながら剣を向けてきた。
――間に合わないっ
ギッ
「……カラリアッ!!」
目を開けると、ベルの剣をウェルは爪で受けていた。
「なんだよおまっ」
「……」
ベルは威圧に怯え剣を落とす。顔はみえないけど、ウェルは怒っているのが伝わった。
「カラリア嬢になにをしているんだっ」
「っ!!」
王子はベルの胸ぐらを掴み木に押し付ける。
「ま、待ってください。」
「庶民ならと手を出すような貴族などいるか!! 民を守れないような人間が将来を生きていけると思うな、民の信用があっての貴族だと何回言えば分かる。今すぐにでも先生に報告するからな」
「それはっ」
ベルの目は泳いでいる。このままいけば本当に王子は突き出すだろう。でも、それでは私が言葉を出した事に恨みをかってしまうかもしれない。それで学校を辞めるのはモヤモヤする。
彼だって学校でやりたい事があるはずだ。ちゃんと接する時間はこれからなんだし。
「あの! ライバ王子、1つ提案があります」
「なんだ」
――そして、試験が終了した。
「よし、今回はほとんどが合格だ。駄目だった奴は後で補修だ。わかったな」
「「はい」」
「では、明日からは通常の授業が始まる。渡した紙には学ぶ部屋が書いているから確認しろ」
確か、科目ごとに違うグループに別れて学ぶんだよね。
「一番下は学びたい授業の希望調査だ。期限前に出すように」
学校の授業が終わり、私達の班は満足そうに帰った。
「それにしてもカラリア嬢は優しいのですね。」
「合格したら許すようにするとは。最後は協力して出来たようでなによりです」
「……よくやった」
ベルも反省したようにグループに頭を下げているのが遠くから見える。
「えへへ。ありがとうございます。でも次は口をむやみに出すのはやめますね」
「別にいいんですよ。ここは関係ありませんから」
王子はそう言うと笑顔で帰っていく。
「ウェル様。あの時、助けて頂きありがとうございました。」
「……身体が動いただけだ。今日は楽しかった。感謝する」
ウェルもスタスタと帰っていき、スピリと帰っていく。
「今日は災難でしたね」
「流石に疲れました。」
クスッと笑いながら、スピリは小さな箱を渡してくれた。
「これは?」
「マドレーヌというものです。もし良ければ」
「もちろん頂きます!!」
私はすぐに箱を開けて食べ始めた。
「ん、美味しいっ!!」
「良かったです」
スピリは私の顔についたお菓子のかけらを払いながら嬉しそうにしていた。
「あ、あのカラリア様」
「なんでしょうか?」
「私のことはスピリと呼んでくださいませんか」
彼女は頬を赤らめてうつむいている。
「ピンチな時に呼んでくれて嬉しかったので。あと崩して話していいですよ、窮屈そうですし」
スピリには見透かされてしまったか。
「では、お言葉に甘えてスピリ。よろしくね。私もカラリアでいいわよ」
「いえ、私はカラリア様と呼ぶ方が慣れてしまったので」
「じゃあそのままで。」
私は久しぶりに自然の言葉を使いながら、スピリと道を歩いていく。
「私の敬語って窮屈そう?」
「はい少し」
「えー」
私達はフフッとわらいながら別れをすました。今日は色々あったけど、すごく楽しかったな。
ラナに会いにいくと何故か眉をひそめながら待っていた。
「遠くからみてましたけど、歩きながら食べるのはマナー違反です。」
「はい。すみません」
長い説教が始まってしまう。私はサッとマドレーヌを渡し機嫌をとった。
「……おいしいですね」
「でしょ!?」
ラナも気に入ったようだ。でも、どこの料理なんだろう?聞いた事もないしラナも分からないらしい。
城に戻ると、ライバ王子はなぜか私の部屋の前で待っていた
「カラリア、あのウェルという方とはどういう関係なのですか?」
「ただの同級生ですよ。一昨日会いましたし。」
どことなく焦っているような?
「私の関係は内緒ですけど、だからってあまり他の方とベタベタしないでください」
「してないですよ? もしかしたら、ここの人は触るのもダメだったりします?」
バスプラは男女関係なく肩を組んで笑ってたけど、ほかの街の人の価値観は違うかもしれない。私が尋ねると王子はパッと顔を赤らめた。
「大丈夫ですが……私には、そう見えてしまって。でも、彼は貴方のことを気に入っているようなので気をつけてください」
「ウェル様は私のことを気に入っているんですか?」
「鈍感すぎません?」
王子は頭を抱えていた。ウェルは良い人なんだけどなあ。
「カラリアは私の婚約者です! それだけは忘れないでください。」
「はい。もちろんです」
私の言葉を聞き終えると、安心したように胸をなでおろしていた。
「……あと、ベルの件ですがご迷惑をかけました。彼の子孫は窮屈な田舎から抜け出して少しづつ成り上がった貴族なので、変に田舎の人を見下すのがわるいくせです。」
「大丈夫ですよ。しっかり合格していましたし、もう大丈夫だと思います」
「そうですね。本当にありがとうございましたカラリア」
彼は静かにうなづいた。




