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こんなアンドロイドは萌えだ


八女田綾芽 23歳。社会人2年目。


現在時刻は金曜日の19時23分。

何をしたかと問われればハッキリこれをしてたとは言えないけれど、何かをした残業。

……なぜ、サービスなのに我々は残って仕事をしてしまうのか。


あー、お腹減った。

豆腐とか味噌とかいつかの私が味噌汁にしてくれるとか思って買ったけど、一向に使わない。

だって冷凍食品で済ませてしまうから。

疲れてるのに食欲はあるんだから不思議。

無かったら痩せれるのに。


仕事から開放されたはずなのに、疲れすぎて必要最低限のことしかできない。…辛い。

社会人って皆こんななの?皆ドMだ。

これが1年働いた私の結論。


私はフラフラの足でやっとこさ辿り着いた玄関のドアを鍵を使って開いた。


「ただいまぁぁぁあああ〜〜」


一人暮らしだというのに、未だに誰もいない部屋にただいまと言ってしまう。私の可愛いところ出ちゃってんなぁ〜〜。


でも、今日は違った。


「おかえりなさい、綾芽さん」


………?

玄関の扉を開いたら、そこにはイケメンがいた。




イケメン。

イケてるメンズ。

定義は人それぞれだけど、私は爽やか系が好き。


そして目の前には身長170cmくらいで短髪、清潔感のある黒髪ストレート。顔立ちは中性的で目はちょっとツリ目だけど、目付きが悪いとかじゃなくて、キリッとしててかっこいいと思える感じ。肌は陶器のように白い、細身な、まさに私の定義するイケメンにどストライクなイケメンがそこにはいた。


「あ、えっと……自分、部屋間違えました…?」

「間違えてないですよ、綾芽さん。」

「じゃあ、お兄さんが部屋間違えました?」

「いえ、僕が用事があるのは八女田彩芽さんなので合っていますよ。」


ひゃははははははははははははははは

顔も良いけど、声もいい……

心地良い低音ボイス……!!!!!


「って、違う違う!!」

「?」

「お兄さん、なんで私の部屋に!?それになんで名前知ってるんですか!?」


稀に見るイケメンに思わず、いろいろ省きそうになっちゃったけどイカン!!

ここ!!私の部屋!!なのに部屋にイケメン!!

名前も知っている!!イコールどゆこと!?


「綾芽さんが申し込まれた際に、本人情報として登録していましたので。」


…申し込んだ?


「申し込み……?」

「はいっ」


…………

…………あれか?

気づかないうちにレンタル彼氏とか申し込んだか?いくら恋愛経験なくて恋に恋する23歳だからってそんなことしちゃう?


アニメや漫画のような展開に理解が追いつかず、フリーズしていると、それが分かったのか、それとも分からずなのかイケメンは言った。


「初めまして、ロイドコーポレーションから来ましたアンドロイドです。試験運用のモニターになっていただきありがとうございます。」

「………詐欺です?」

「いいえ、違います。」


イケメンはにっこり否定した。

いやいやいやいや、アンドロイドて。さすがに設定盛りすぎでは?少女漫画でも有り得ない展開になりつつあるよ?異世界転生レベルに設定盛ってない??このスラスラ喋って、ニコニコ爽やかな笑顔を向けてる私のどタイプのイケメンがアンドロイドなんてことある?やっぱり詐欺です?


「詐欺じゃないですよ。八女田綾芽さん。先週の金曜日、23時47分に【癒し系家庭用アンドロイドのモニター申し込み】をご自身で申し込まれていますよ。」

「……そんな怪しいの申し込むわけ……!!」


ネットリテラシーはあるほうだ!!とは思いつつも、ここまで具体的に言われるとちょっとだけ自信がなかったりして。

先週の金曜日…。飲んで帰った日…。そういえば気が大きくなって、何か思い切った決断をした気が…。


私は慌ててメールボックスを開いて、先週の金曜日のメールを探した。

【ロイドコーポレーション モニター受け付けました。】


……玄関にいるイケメンと目が合った。

「ね?ありました?」

「…あ、アリマシタ…」


何これコワイ!

……夢であって欲しかった…!!


玄関前で頭を抱えている私を見兼ねてか「とりあえず中入りませんか?もう春とはいえ、まだ夜は寒いですし」とイケメンは言った。

「ア、ハイ」

私の家のはずなのに、私はイケメンに促されて家に入った。




リビングで自称アンドロイドのイケメンと机越しに向き合って座ってから思う。

知らない男性と2人きりになってしまった…と。

この23年間、男性とほぼ関わりが無い華のない人生を送ってきて危機管理能力が低下していたけど、これは普通に考えれば良くないのでは?


「そんなに緊張しないでください…って言っても僕は男ですし、知り合いでもないですから怖いですよね。すみません。」


イケメンは困った顔をしながら笑った。

うーーーーーん、100点。かわいい。

状況が状況なのに、顔の良さで全てOKにしちゃいそう。私はここまでミーハーだったのか。

それとも久しぶりの男性+めちゃ好みだからもうなんか人間としての本能ってやつ?


……じゃなくて!!!!


「……えっと、話を要約すると、私が申し込んだのがアナタというこですか?」

「はい、そうです。どうですか?大分思い出してきましたか?」

イケメンはこちらを見ながら優しくそう言った。首を傾げて目を見てくる技術は圧巻だ。くそぉ、顔がいい。とりあえずお金払う?って気持ちにさせてきおる。


「しょ、正直まだ理解というか、納得ができてないところはありますけど、私が酔った勢いで申し込んだってことは分かりました。ご迷惑かけて申し訳ないんですけど、これってクーリングオフできます?」


自分で申し込んだし、どタイプのイメケンが目の前にいるから正直惜しいとは思いつつも、やっぱり詐欺で今後莫大なお金を請求されるかも…という恐怖の方がしっかり勝る。偉い。


「おお!決断が早いですね!!即決できることは素晴らしいことです!!でも折角だから話を聞いてから考えてもらえませんか?」


必殺 イケメンお願いのポーズ!!!!!!


「うっ、イケメンを最大限に活かしたお願いモードやめてくださいよ」

「使えるものは最大限に使うって決めてるんです」


イケメンのドヤ顔、可愛いな。


「仕方ありません、私もよく分からないままは嫌なので話だけは聞きます。でも話だけですよ!」

「わっ、ほんとですか!?ありがとうございます〜!!」


ぱぁぁっと嬉しそうに笑う顔はアンドロイドと言うよりかは犬に近いように感じる。


「まぁ、内容的には先程伝えた通りなんですが、僕が所属している会社、ロイドコーポレーションでは仕事や人間関係など様々な経緯で疲れている皆さんを癒すアンドロイドを造っています。」

「……癒すとは?」

「まぁ、用途は人によって様々ですが、例えば家事を代わりにやるとか、独り身の人だと家族になって欲しい、もっというなら恋人やちょっと刺激的なことを癒しとして求めている人もいますね。」

「刺激的なこと!?ありなんですか!?」

倫理的に!!!!!

「お触りは基本なしです。言葉までは一応OKです。」

「アッ、ソウナンデスネ」

ちょっと良いなと思ったことはここだけの秘密にしよう。思わず、ちょっとすけべな気持ちが前に出てしまった。


「まぁアンドロイドの種類によりけりですが。今回綾芽さんが選択してくださったのは家族プランのモニターです。」

「家族…プラン…」

「恋人、家族、友達と様々なプランがありましたが、綾芽さんは家族、ちなみに兄を希望されていましたよ。」

「兄…」

「兄フェチですか?」

「兄フェチなんて聞いたこともない単語ですね!!」


ニコニコしながら意外とバサバサ言ってくるイケメンアンドロイド。


「別にフェチとかブラコンとかじゃなくて…、兄がいたらいいなぁ〜とちょっと思ったことがあるだけですけど!?」

「理想の兄像とかあるんですか?」

「理想…そうだなぁ…。一緒にいて楽しいとか…?」

「それって彼氏なのでは?」

「……クーリングオフで」

「あーあーあー、仲良くしましょう」


イケメンアンドロイドは困った顔をしながら両手を横に振った。

アンドロイドにしては感情豊かすぎない?というか、ものの数分で割と素が出過ぎじゃない?見た目も人すぎるし、本当は人なのでは?


「内容は理解しました。でも、そもそも貴方がアンドロイドって証拠はあるんですか!?」

「ありますよ。ほらここ。首のとこ見てください。」


イケメンアンドロイドは椅子を立ち、後ろを向いて自身の首の後ろを手で2回タップした。

すると首元が扉のように開き、そこに電池が。


「なっ!」

まじもんでアンドロイドかよ!!!!!


「単一電池2本で大体2週間は活動できます。コスパいいんですよ。僕。」

「この時代にケーブルじゃなくて電池。」

「ケーブルだと生々しいよねって制作側のこだわりです!」

「制作側って時点で生々しいわ!!!」

「アハハ、確かに」


……このイケメンアンドロイドのこれは素なのか、既に兄モードなのだろうか。見た感じ私より1つから2つくらい歳上そうなのに天然というか、ちょっと抜けてる感じがあまりにも私の癖すぎて既に萌え。顔も性格も声も最高とか、こんな上手い話があるわけないし、もしかしたら夢?夢ならもう少し見てたいっていうのはワガママ?


「でも首に電池って、なんか急所って感じますね。」

「大切なものは急所に。これこそ人間って感じするじゃないですか。」

「…なるほど?」

急所だから大切なのでは?


「という感じで僕の説明は簡単にはこんな感じなんですけれど、どうでしょう?詳しくは契約書とか説明書とかもありますし、最初は怪しいと思うのも分かります。でも僕、綾芽さんのお役に立てるように頑張りますので、クーリングオフはどうか!!!」


イケメンアンドロイドは拝むように頼んだ。

頼み倒した。無論悪い気はしない。


しかしイケメンアンドロイド、ここまで頼み倒すということは、このままクーリングオフされたら電源切られちゃうとか、処分されちゃうとかあるんだろうか。だからこんなに必死なのだろうか。


「このままクーリングオフされると、また事務仕事に逆戻りです〜。パソコンはもう打ちたくないんだ〜。」

「…………( ˙-˙ )」

「アンドロイドだからパソコンできるとか大間違いにもほどある〜。タイピングとか絶望〜。僕はタイピングよりも家事の適性の方が高いんだよ〜〜。」

「……タイピング……( ˙-˙ )」

「はっ、思わず素が……!!えーっとあの、その、お兄ちゃん機械系は弱いけど、家事は得意だぞぉ!!」


イケメンアンドロイドなのにパソコンが…、タイピングが苦手で泣き喚いてる……。

クーリングオフされたらデスクでヒィヒィ言いながらタイピング……。

えーーーーー、何それ可哀想で可愛い〜〜

ていうか想像したら……

なんかおじいちゃんみたいで……


「ふす……っ」

「ふす……?」

「はははははは!!アンドロイドなのに機械系弱いって、アンドロイドなのに…!!」


「そ、そんなに笑わなくたって…!アンドロイドにだって得意不得意はあるよ…」


イケメンアンドロイドはちょっと困ったような照れくさい様な顔をした。可愛い100点。

さっきからずっと100点。

兄というか、今のシチュは勉強できるけどネクタイは結べないみたいななんかそんな感じ(?)


その後、私は萌え過ぎてなのかツボすぎてなのか笑いが止まらなくなり、5分ほど笑い倒した。

隣からクレームきちゃう。


「ふーっ、笑った笑った」

「笑いすぎです」

「ごめんなさい、久しぶりに面白くて。」

「むー」

え、可愛い。むーとかホントにいう人類いるの??かわいい、マジ無理〜〜

私じゃなくてアナタが身の危険感じた方がいいレベルで萌えです。


「あの、貴方名前はなんて言うんですか?」

「名前?それは契約者の方に付けてもらうことになっています。」

「つまり名前はないってことです?」

「吾輩はアンドロイドである!!名前はまだない!!!!」

「……なるほど」

「あ。スルーされた」


ちょっと残念な男の子っぽいところも刺さるからもう私は詐欺でもなんでもこのアンドロイドを手にするしかないと実は思っている。

あとは相手の出方次第…!!


「アンドロイドさん。1番大事なことなんだけど、ちなみに貴方のお値段は如何程です?」

「モニター募集なので、モニターの間、つまり3ヶ月は無料です。3ヶ月経過すると継続か終了か選んで頂く形になりますね!」

「ふーーん。分かりました。」


3ヶ月イケメンと無料でいれる…かぁ。

多少お金を後から請求されても貯金もあるしなぁ…。オタクとは目の前にあるものを手にして満足したい生物なんだよな…。

ここで私は決意を固めた。


「じゃあ、アンドロイドさん私、モニターになりたいんですけど、大丈夫そうです?」

「え、クーリングオフではなく!?」

「クーリングオフの方が良かったですか?」

「いやいやいや、とんでもない!!

モニターになって頂き、ありがとうございます!!これから3ヶ月、よろしくお願いします!!」


彼は笑顔で私にそう告げた。


こんな感じで、ひょんなこと…というか私の危機管理能力の無さから、私と彼の3ヶ月の生活が始まった。



「そういえば、綾芽さんが帰ってくるまで時間があったので、勝手に使ってしまって申し訳ないんですが、家にある物で夕飯を作ってみました。」

イケメンアンドロイドはキッチンからお皿と汁椀を持ってきた。

「おお!!これは焼きおにぎりとお味噌汁」

さっきからいい匂いするなぁと思ってたけど、まさか我が家からしていたとは!!


「美味しく食べてもらえると良いんですけど…」

イケメンはちょっと不安げな顔をしていた。

「美味くても萌え、不味くても萌えですよ。」

「……萌え?」

アンドロイドには萌えの概念がないようダ!


「いただきます。ん!!おいひぃ!」

焼きおにぎりは醤油ベースで、中には醤油とマヨで和えられた鰹節が入っている。

味噌汁は豆腐と家にあった乾燥わかめだけなのに美味しくて、凄く安心出来る。

「久しぶりに家でまともなご飯食べた…。ほんとうま……ぁ。」


冷食も弁当も美味しいけれど、どこか味気ない。

久しぶりの人が作ったご飯に手が止まらない。


「食べてもらえて良かったです。即興で作ったのであまり自信なかったんです。ホッとしました。」

「めちゃくちゃ美味しい。毎日食べたい。」

「そう言って貰えると作りがいがあるなぁ。」

なぜだか嬉しそうに笑うイケメンアンドロイド。

メリットがあるのは私なのでは?


「綾芽さん、明日は何食べたいですか?」

「明日!?明日も作ってもらえるの?」

「兄さんに任せなさい!」

あ、そうだ。兄なんだっけ?

兄っぽくなくて可愛い〜。


「じゃあ、オムライスとかどうかな!?」

「了解!!」


…………なんだか変な感じ。

いまさっき会った(アンドロイド)に料理作ってもらえて、明日の約束までして。

こうやって誰かと話しながら食事するのも久しぶりだ。なんか…。こういうのも悪くないかも。


「あ、お風呂も沸かしたのでどうぞ」

「有能すぎ……」


悪くないどころか最高かも。




〜おまけ〜

「そういえば、どうやって私の部屋に入ったの?」

「大家さんに兄ですって言ったら開けて貰えました」

「えぇー、セキュリティ……」


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