お正月のパーティ
※この作品は しいな ここみ様主催の「冬のホラー企画」参加作品です。
「じゃぁ一体だれが……ここで?」
その場にいたみんなが一斉に顔色を失った。
ようやく慣れ始めた都会の生活から離れたくなくて、大学時代から住んでいるアパートにて正月も帰ることなく過ごすことを決めた。田舎から出てきて、そこそこの大学を卒後し、地元に帰らずにようやく入った会社にも慣れ始めた23歳の冬。町田純一こと俺は、少しばかりの休暇をゆっくりと過ごすべく、帰省ラッシュと闘う事を即時に諦め、住み慣れたアパートで独りこもることに決めた。
それまでは大学の同期やサークルの仲間と共に過ごす事が多くて、正月を独りで過ごすことなど無かったために、少し寂しいと思い始めていた。
そんな12月29日、22:00過ぎ。
ピンコーン
軽快な音と共にスマホに着信を知らせる音が鳴る。
「だれだろ?」
正月の休みに入ったという事で、部屋のベッドの上でゴロゴロしながら雑誌を読んでいた俺は、部屋のこたつの上に置きっぱなしのスマホを確認するために、のそのそとベッドから降りる。それと同時ぐらいに――。
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どこからか人の話すような小さな音が聞こえて来た。耳をすまさなくても分かるほどの音量。年末という事もあって、街の中も静かさが増し、更にアパート自体も他人の気配が少なくなっているので、普段は聞こえない音も耳に入る。
――下の人かな?
俺の住んでいるアパートは、2階建ての8戸が入れる構造になっているので、自分の下にも住んでいる人たちがいる。アパートの壁などから時折物音などが聞こえて来た事が有ったので、別段気にする事もなく、スマホを覗き込んだ。
『今一人か?』
大学の同期である磯村からメッセージが来ていた。素早く『そうだ』と返すと、更に返信が来た。
『正月は帰るのか?』
――何かあるのか?
小さなため息を一つして、『いや帰らない』と返信すると、そこからしばらく時間が経ってまた返信が来る。
『なら、正月遊びに行ってもいいか? 年越しみんなでしようぜ!!』
ここでようやく磯村が言いたいことが分かった。
磯村も実家は遠いところに有って、車で片道8時間、新幹線を使っても乗り継ぎなどで4~5時間はかかると言っていたので、正月は帰る事をせずに俺と同じく残ることにしたのだろう。でも磯村も彼女とかいないので、大学の同期でおそらく男連中と共に時間を過ごそうとしているのが、残念ながら彼女のいない俺にも理解できてしまった。
なので『分かった。いいぞ』と返信を返した。この日はこのほかに何事もなく時間が過ぎ、時計も夜中0時を回る頃、風呂に入った俺は寝るためにベッドにもぐりこんだ。
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またしても小さな話し声のようなものが聞こえてくる。
――まただ……まぁ正月が近いからな。下の人も誰かと騒いでいるんだろうし、仕方ないか。
そう思う事にして布団を頭から被り、気にしない様にしてこの日は眠った。
仕事の疲れが有ったのか、朝までぐっすりと眠れたので、起きたときには夜に聞いた話し声のようなものなどすっかり忘れてしまっていた。
明けて12月30日。
起きたとはいえ、この日は何もすることが無い。ただし次の日に磯村たちが来ることが分かっていた為、年越しの為にお酒や食べ物などを調達するために買い物に出かけることにした。
着替えを済ませて、近くのスーパーへと足を運ぶ。歩いても10分かからないところに大型のスーパーがある。中は正月も近い事から結構なお客さんが居て、買い物するのにも時間がかかった。少し休むために、店の外に有る自販機でコーヒーを買う。その場で飲みつつ一息入れていると、アパートで二つ隣りの部屋に住むおばさんと顔を合わせた。
「こんにちは」
「あら……。いらっしゃったんですね。お正月は実家には?」
「いえ。仕事の疲れが有ったので、今年も帰らない事にしました」
「そうなのね。あ、私達家族は今日の夜からいませんけど、何かあればすぐに大家さんに連絡してくださいね」
「そうなんですね。わかりましたありがとうございます」
とりとめのない世間話をする。それと少し気になったので聞いてみることにした。
「あの……」
「なに?」
「昨日ですけど、下の人うるさくなかったですか?」
「下の人……?」
「はい。下の人です」
おばさんは少し首を傾げて考える。
「変ね……。いえ、うるさくはなかったわよ?」
「そうなんですか、それならいいんです」
「まぁ、何かあればすぐ大家さんにね」
「はい」
おばさんはそう言い残すと、そのまま歩いて去って行った。
俺も飲みかけのコーヒーをグイっと飲み干して、大きく息を吐き、買いすぎて4つにもなった買い物袋を「よっ!!」と掛け声を掛けつつ手に持ち、スーパーを後にした。
そしてその日の夜。
次の日に磯村たちが来ることになっているので、何時ごろに来るのか、人数は何人なのかなどを確認するため、本人の磯村へ電話を入れた。
磯村も暇だったようで、そこから少しばかり長話になり、通話を切ったのは既に午前1時を半分以上周ったころだった。
それからシャワーを浴びるために風呂場に行き、まずは浴槽へ向けてシャワーを出す。少しの間水がお湯に変わるまでの間に、着替えを用意してまた風呂場へと戻るのだが、その時にも昨日と同じように話し声のようなものが聞こえた。
ただ、シャワーを浴びる事に気を取られ、そんな事が有った事さえ忘れて、浴び終わってすぐにベッドの上の布団へと潜り込んで、すぐに眠りに入ってしまう。
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――今日は少しうるさいな……。
かすかな記憶にもそんな事を思ったような気がする。
12月31日。
起きるともうお昼をとうに過ぎた時間だった。
磯村たちは午後三時には来ると言っていたので、急いで部屋を片付けたり、掃除機を掛けたりと忙しく動き回る。
少しばかり汗もかいてしまったので、一足先に買っておいた缶ビールを冷蔵庫から1本だけ取り出し、喉の奥へぐびぐびと流し込む。
ぷはぁ~!!
「くぅ~!! うまい!!」
一気に半分ほどを飲みほして、一息入れる。男しか来ないというので、そんなにきれいにしないでもいいかと、そのままビールを飲み干す方向にシフトチェンジして、コタツの一角へと腰を下ろした。
しばらくそのままぼぉ~として過ごす。
約束の3時を少し回ったところで、磯村と共にサークルの仲間たちも数人やってきて、それからすぐに宴会へと突入した。
やはり一人よりも大勢で過ごす時間は楽しい。しかもみんな気心の知れた奴ばかりというのも、その場の雰囲気を良くしてくれる。
結構なペースで俺が買ってきたものは消費していき、磯村たちもけっこうな量のお土産を手に来てくれたにもかかわらず、あっという間に残りわずかとなった。
「おい磯村」
「なんだ?」
「このままだと足りなくなるから、ちょっと買い出しに行ってくるよ」
「そうだな……じゃぁ俺も行くわ」
「そうか? 悪いな」
二人、重い腰を上げていそいそと上着を羽織り、部屋のドアを開けて外へと出る。
「さぶいな……」
「そうだな。時間も時間だしな……」
ぶるっと震えながら磯村がぼそっとこぼした言葉に、俺はスマホの時間表示を見ながら答えた。その時に見た時間は12時を少し回ったところ。
カツカツカツ
コンクリート製の階段を二人で降りていく。周囲の民家もぽつりぽつりと明かりがついているだけで、いつものように街頭の代わりになるような明るさは無い。
じゃりっ
1階に降りて何気なしにふっと後ろを振り返る。しかし買い物した時におばさんが言っていたように、俺の部屋以外に灯が付いている事は無い。それだけでいつもとは違う、とても静かで寂しい夜だと感じた。
数十分後ーー。
磯村と買い物を済ませ、アパートまで戻ってきた俺たち二人は、寒さから解放されるために部屋のドアを開けるなり、靴を乱暴に脱ぎ捨て、コタツへ向かって一直線に向かう。
「外は寒いぞ」
「明日は雪が降るかもな」
磯村と買い物してきた時の感想をこぼすが、残ったメンバーは返事をしない。気になったので顔を上げて確認する。
すると残ったメンバー皆が、眉間にしわを寄せながら、不機嫌そうな表情をしていた。
――あれ? 何か変なこと言ったかな?
俺たち二人の会話が何か怒らせるようなことをしたのかと戸惑う。
「なぁ純一……」
「どうした?」
その中で、サークル仲間だった一人、青島が声を掛けて来た。
「この部屋の下のやつうるさくないか?」
「下のやつ?」
そういう青島に同調するように、他のメンバーが頷く。
「確かにさぁ、俺達も盛り上がってるし、多少はうるさくしているとは思うよ? でもさぁ、その俺達の声を通り越しても聞こえるくらいに騒ぐってどうよ?」
「そんなにか? でもほら、今日は大晦日だしさ……」
そんな事を言って宥める俺。でも隣の磯村は何かを考えている様で、何も話をしない。
その話はそこで一旦終わり、また買ってきたものを消費する時間が始まる。
そして時計は周って新年を迎えた。
明けまして――などという体型文でみんなとお祝いすると、今度は俺にもしっかりとした会話しているような音が聞こえてくる。
「まぁ年明けしたし、祝いの言葉位は仕方ないだろ?」
俺の言葉にみんなが渋々納得した様な表情のまま、静かに乾杯をする。そのまま時間は深夜2時を回ろうかという時間まで、ひとしきり盛り上がりを見せ、そのままみんなが部屋の中で寝始めた。
その様子に俺も寝ようかと体を横にする。
お*ねぇ(o(=ぬぴ
ろpねゔAk!ぺIざ
ゃuがぼやきかVはh!!
床にそのまま寝転がったのがいけなかったのか、今度はしっかりと話声が耳に入り、気になって眠れなくなった。
それでも眠気は襲ってくる。我慢してそのまま眠ろうとするのだが、その話声はやむどころかどんどん大きくなってきた。
「あぁ~くそ!! うるさくて眠れねぇ!!」
俺より先に磯村が怒りの声とともに起きた。それに合わせるかのようにみんなが起き上がる。
「文句言ってやろうぜ!!」
「そうだな。いくら何でも騒ぎ過ぎだ!!」
それまでは大人しかった桐山と横谷も同調して怒りだす。
「行くぞ純一!!」
「そうだな……」
磯村に連れられる形で、部屋にいたみんなで下の階の住人に苦情を言う為、部屋から出て階段を下りていく。
そして俺の部屋の真下のあたる部屋の前まで来た時、その異変に気が付いた。
「あれ……?」
「おい……どうなってるんだ?」
その様子を見たみんなが口々に疑問の声を上げる。
それもそのはず、俺の下の部屋どころか、一階の部屋すべての電気が消えていて、誰かが中にいる様子も全く感じられなかったから。
「純一……」
磯村が俺の方へと視線を向ける。
「大家さんに確認してみてくれないか。もしかしたら苦情も伝えられるかもしれないし」
「わかった」
俺はスマホを取り出して、すぐに大家さんに電話する。大晦日明けという事で、大家さんはまだ起きていたらしく、すぐに出てくれて、年明けの挨拶を交わすと、すぐに今の現状を伝えた。
「――という事なんですが、連絡してもらえないですか?」
『……確認してもいいかね?』
「はい。なんでしょうか?」
『本当に下の階から聞こえてきたのかい?』
「えぇ間違いないと思います」
『そうか……』
そう言うと大家さんは黙ってしまう。
しばらくそのまま沈黙がつづいたが、次に大家さんから出てきた言葉で俺たちは混乱することになる。
『そうか……でもね、その部屋はもう6年前から誰も入ってないんだよ』
「え……?」
『とある女の子が入居して、半年くらいで荷物を出してからは誰も入っていないんだよ』
「どういうことですか?」
『すまんが、私達にはどうすることもできないよ』
申し訳なさそうに話す大家さん。その後は少し会話をしてから通話を切ったものの、俺も対処法を見つけ出せず、ただスマホを握り締めている事しかできなかった。
「どうした純一」
「なんて言ってた?」
皆が俺に詰め寄ってくる。
「実はな――」
大家さんからされた話を皆にした。
「じゃぁ一体だれが……ここで?」
その場にいたみんなが一斉に顔色を失った。
その後は気味が悪くなり、みんなで場所を移す事になった。
俺が今まで気づかなかったのは、大学生時代はあまりアパートにいる事もなかったし、社会人になってからは仕事で疲れてすぐに眠ってしまっていたからなのだろう。
俺も早々に引っ越そうと心に決めた。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
ここまで企画用に3作品書いたのですが、気付いたことが有ります。
自分がこういう話を書くと、ホラーというよりも怪談に近いのかな? という事ですね。
タグ的にはホラーなのでしょうけど、どちらかといえば……。
しかしなかなかない機会なので、執筆は楽しかったです!!
お付き合いいただき感謝です!!