寂しい夜は松屋に限る~CV早見沙織~
残業を終え、家の最寄り駅に着いたのは0時ごろ。
明日も朝早くから仕事があるという憂鬱な気持ちを抱えながら、帰る前に『松屋』へと立ち寄った。
「今日もお疲れさま、よくがんばったね」
店内へ入ると、俺の脳内に透き通った女性の声が再生される。
声優はもちろん早見沙織だ。
今日は何を食べようかなと注文用のタッチパネルの前でうなっていると、再び沙織の声が再生される。
「今日は新メニューを食べるのはどうかしら?」
新メニューはご飯大盛りが無料だから、せっかくなら大盛りで食べたいんだ。でも今たくさん食べると明日の朝がきつくなるし。
「もう、けちくさいんだから」
全く、沙織はいつもうるさい。
でも、沙織に勧められて気になったので、結局新メニューの『カットステーキのハッシュドビーフ』をいただくことに。
注文して少し経つと、ご飯が運ばれてくる。
手を合わせて食べようとしたその時、スマホのバイブが鳴った。
「また、仕事の連絡?」
まあな…、とため息をこぼす。
ここのところ、スマホに何か連絡が来るたびにストレスを感じてしまう。
「ほら、今はそれより食べて。冷めちゃうでしょ?ほらほら」
沙織に急かされて、カットステーキを口に運ぶ。
やわらかい肉が口の中でとろける。暖かい食べ物が心の中も満たしていった。
「ふふふ、美味しいでしょ?」
お前が作ったんじゃないだろ。
そんな軽口をたたきあっているうちにあっという間に完食してしまった。
ご飯の量は普通にしたのだが、思ったよりも量が多かったみたいだ。大盛にしなくて正解だった。
さて、明日も朝早いし、そろそろ店を出なくては。
「あら、もう行ってしまうの?」
明日も早いからな。ありがとう、美味かったよ
またくる、と心の中で告げて店を出る。
少しして振り返ると、満面の笑顔で送り出してくれる美少女の顔が見えた気がした。
「明日もがんばれ」
そう励まされた気がして、明日への活力がわいてくる。
よし、明日も頑張るぞ。
憂鬱な気持ちはいつの間にかなくなっていた。
寂しい夜はいつも「松屋」へやってくる。
そこではいつも沙織が俺のことを待っていて、励ましてくれるから。
この声がある限り、俺はどんな現実にも負けはしない。