嘘のような本当の話。悪い奴ほどいい服を着て近寄ってくる
僕は川に入り、少しだけ土汚れなどを落とす。
効果があるのかは謎だけど、それどもまるっきり洗っていかないよりはマシだろう。
いくら兄貴と呼べと言っているカムロンでも、僕みたいな汚い弟なんて仲間に紹介したくないはずだ。
さっと汚れを落としてから、優月のうさぎ亭へと急いで向かう。
ボットムの中でも僕が歩くことで周りからはすごく嫌そうな顔をされるが、今日は僕はそれを気にしなかった。
いつもなら、できるだけ街中を歩いたりはしない。
僕がカムロンのいるところに行かないのもこれが理由だ。
底辺の街ボットムの中でも最底辺の僕は、歩くだけでトラブルに巻き込まれることがあるのだ。
できるだけ、僕を刺すように見てくる目を見ずに歩いていく。
目線をあわせたらどんな因縁をつけられるかわからない。
普段はこんな街中までこないのでドキドキしてしまう。
街中はかなり危険だと思っていたが、騎士団が歩き回っているせいか、街全体が不気味な静けさに包まれている。僕をいじめる人たちも、騒ぎをおこして騎士団に絡まれたくはないのだろう。
街中に来ることは少なかったが、優月のウサギ亭はすぐにわかった。
店の横にはまだ昼間だというのに大男が酒の瓶を抱えて寝ており、あきらかにボットムの中でも異常な空気をかもしだしている。
本当にあそこの盗賊団のリーダーだというのだろうか。
でも、あそこ以外では若い頭領がいる盗賊団を聞いたことがない。
しかもこの辺りでは一番大きいのは間違いなくカンデル盗賊団だ。
とりあえず思い切って行ってみるしかない。
「すみません」
小声でゆっくりと扉を開けたつもりだったが、店内にいた屈強な男たちが一斉に僕の方を見てくる。このまま扉を閉じで帰ってしまいたい気持ちにかられるが、そういうわけにもいかない。
入り口横にはスキンヘッドの男がおり僕を睨みつけてくる。
もうこの視線だけで怖い。
さっそく来たことを後悔している。
やっぱり大人しくカムロンが来るのを待っていた方が良かっただろうか。
全員の視線がいたい。
早く終わらせて帰らなければ。
「すみません、盗賊団のリーダーにお会いしたいんですけど」
僕は半ばやけくそ気味に入口で大きな声を張り上げる。
「あぁ? なんだお前? ここがどこだかわかっていっているのか?」
すぐ近くにいた男が怖い顔で睨みつけながら絡んでくる。
「もちろんです。カンデル盗賊団ですよね?」
「クッククク……ハハハッ!」
僕を中心に笑い声が段々と広がっていく。
「コイツ……知っていてリーダーにあわせろだってよ。よし俺が案内してやろう。坊主こっちへ来い」
その人は笑顔が優しく、すらっとした顔立ちで他の男たちとは少し違っていた。
「ありがとうございます」
僕がその男に無防備に近寄ると、男は思いっきり僕の腹を蹴りあげた。
「悪い、つい蹴りやすい位置に腹があったからよ。お前みたいなガキにうちのリーダーが会うわけないだろ」
僕はそのまま入口の所にいたスキンヘッドのところまで吹き飛ばされた。
とっさに腕でガードしたけど、油断していために大人の蹴りをまともにくらってしまった。
少し両手が痺れている。
母さんの教えが頭の中によぎる。
『いいかい。王国騎士団の奴らは基本的に規律を重んじるから比較的行動が読みやすい。だけど、盗賊とかの場合、あいつらは生き残るために生活をしている。だから、決してどんなにいい人に見えても油断しちゃダメだよ。悪い奴ほどいい服を着て近寄ってくるからね』
僕もここに住んで10年……無償で人に優しくしてくれる人なんていないことを忘れていたわけじゃないけど……間違いなく一瞬気を許していた。
「こいつここで殺してもいいかな?」
「あっ? いきなり来てリーダーにあわせろなんて殺してもいいだろ。でも騎士団が外を歩き回っているからな。さっさとやって捨ててこい。こんなに細くちゃ売れもしない」
「ヘイっ」
スキンヘッドの男が僕の顔面に向かって、ゆっくり殴りかかってきた。
室内でテルが蹴られているその頃。
入り口で寝ていた大男「むにゃ、むにゃ……★5さん付き合わないとか言わないで」
好きな人に振られる夢を見ていた。
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