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「い……た……い……」股間にあたった木剣が……。

 僕は騎士団の人がやる訓練を3分の1の時間で終わらせ家に帰る。

 母さんの朝食を作ってあげなければいけない。


 家の近くまできて、辺りを見回すとすでにドダとダドの姿はなくなっていた。あの二人は自分の仕事よりも嫌がらせを優先させることがあり油断はできないが、今日は大丈夫そうだった。

 廃屋の我が家まで帰ると家の中から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「ハハハ、もう嫌だわ! カムロンさんったら」

「ただいま」

「なんだ遅かったな。また悪ガキにいじめられたのか?」

「いや、まぁ……食料探してたいらドブ川に落ちちゃってさ」


 僕は母さんにバレないように小さな嘘をつく。胸に小さな痛みが走るが、これも段々と慣れてきた。

 そこにいたのは自称この国で一番大きな盗賊団のリーダーをしているカムロンだった。


 なぜ自称かと言うと、ボットムには自称で話を盛る人が沢山いる。

なんならうちの母だってそうだった。


 カムロンは僕と同い年くらいで着ている服も特別いい服ではなかった。良く言って街の中のおぼっちゃまっていう感じだ。


 このまわりが敵だらけのボットムの中でカムロンだけは僕たちの味方だった。

 最初の出会いは……本当に最悪なものだったけど。


 カムロンとの出会いは、母が怪我をする前のことだった。あの時はなぜかカムロンが今とは見違うような綺麗な服を着てボットムの中を一人で歩いていた。


 僕たちがカムロンを見つけたのはきっと運が良かったからだ。

 ボットムの中をあの身なりで歩いていたら、誘拐されるか、追いはぎにあうか、ヘドル川に沈められていてもおかしくなかった。


 そんなカムロンを見て母は声をかけた。

「初めまして、どこかの高貴な方かとお見受け致します。ここの街は非常に危険な街でお一人でお歩きになられるには適さない場所になります。私に街までお送りさせて頂けないでしょうか?」


 そう言うと母はカムロンの前で、騎士団がするような片腕を胸の前に持ってきて頭を下げる敬礼をした。


 あの頃の母の動きのすごさを僕はわかっていなかったが、とても洗練された動きだったように思う。


「おっ俺はそんな立派な家の子供じゃないぞ。あっえっと、そうだ。盗賊団のリーダーなんだ。だからこんな立派な服を着ている」

「そうだったんですね。それは知りませんでした。さぞ有名な盗賊団のリーダーなのですね。ただ、盗賊団のリーダーであればこそ、こんなところをお一人で歩かれていては、きっとお命を狙われることもあるかと思います。私たちを一時的な護衛として雇って頂けませんか?」


「そうだな。いいだろう。そこのお前も家来にしてやるぞ」

「いや、僕は辞めておきます」

「なんだ家来では不服なのか? なら特別に友達にしてやるぞ」

「えっ……こんな派手な友達やだ」

「なっ……わかった。俺の弟にしてやる。俺の兄弟になれるなんて幸せなことだぞ」

「ごめん。こんなダサい兄貴は無理」


 その時のカムロンの固まった表情は今思い出しても笑えてくる。

 それから、母はカムロンを街の中心まで連れていった。


 僕は先に家に帰っているようにと言われ、そして……その帰りに母は視力を失い、家からあまりでなくなった。

 あの日、母が送って行ったはずのカムロンが母を担いで家にやってきた。カムロンはボットムでは見かけることすらない、貴重な回復薬を母に飲ませて助けてくれた。


 だけど、母の目は治ることはなく、身体が回復してからも家の外に出歩くことは少なくなった。母は気配でなんとなくわかると、目が見えなくても歩くことはできるが家からでなくなったのは別の理由があるのだろう。


 でも、僕はその詳しい理由を教えてもらうことはなかった。

 ただ、わかったことは僕たち親子はこのボットムからでてはいけないということだった。


 街から戻って来た母さんは今までと違い、急に過保護になった。

 きっと目立つことで命の危険が増すのだ。


「テル、食事はしたのか?」

「あっいや、鎧ネズミ捕まえたんだけど川に流しちゃってさ」

「そんなことだろうと思ったから、先日、ドルモラの森で捕まえた極楽鳥を持ってきてやったぞ」


 カムロンの足元には極楽鳥が大きな麻袋が転がっている。少なくとも5匹くらいは入っていそうな大きさだ。


「いつもありがとう」

「なに、可愛い弟のためだからな」

「あっ別に極楽鳥はもらって置くけど、弟にはならないんで」

「そんなこと言うなよ。一度でいいから兄貴カッコいいって言ってくれてもいいんだぞ?」


 カムロンは僕の肩に無理に手をまわしてくるが、僕はその手を掴んでゆっくりと離す。カムロンは最初会った時に比べて堂々としてきていたが、段々と距離が近くて若干めんどくさい。

「この子ったら本当は嬉しいくせに、いつも恥ずかしがってしまって、ごめんなさいね」


「いいんですよ。俺はこいつの兄貴だと思っているんで。弟は兄貴にわがままを言うのが仕事みたいなところありますからね。いずれは俺の部下として仕事してもらいますから」


「弟じゃなくて部下になっているじゃん。僕は、外で極楽鳥料理をしてくるよ」

 僕はそのまま袋を持って外にでると、小さなため息をつく。カムロンは別に悪くないのだが、なぜか素直に兄貴と呼ぶことはできなかった。


 あの日のことを二人は僕に話してはくれないが、それが僕には溝になっていて少し寂しくて、悔しくて悲しいような複雑な気持ちに今でもなってしまう。


 僕はそのまま外にある釜土に発火石を入れ、ヘドル川から水を汲みお湯を沸かす。

 汚れがひどいけど今さら気にもならない。


 極楽鳥はすでに羽がむしられた状態で、あとは解体して料理するだけになっていた。

 いつもカムロンは丁寧にした処理をした肉などを差し入れしてくれる。 


 カムロンが処理をしているとは思えないので、本当に処理できる部下などがいるのかもしれない。


 カムロンは僕を自称の盗賊団に入れたいと何度も勧誘をしてくれている。

 僕はめんどくさくて断っているが、最近はもう入らないのを前提で聞いてきている気がする。それがもうお決まりのやり取りだ。


「このままここで母親と一緒にいるよりは仲間を作った方がいいに決まっている。お前は俺ほどじゃないけど才能があるからな」


 なんてことを言ってくれるが、僕は誰かを襲ったり、人から物を奪うなんてことはできそうにもなかった。こんな底辺で暮らしているのに、奪うくらいなら奪われるくらいの方がいいと思ってしまう。


 なんとも悲しい気弱な性格だと思う。

それに……カムロンが最初にこの家に来た頃、魚の釣り方も知らなければ、何かを作ることもできなかった。


「俺は盗賊団のリーダーだから、魚の釣り方なんて知らなくても生活できるんだよ。俺にはこんな魚を釣ることよりも、いずれはこの国を変えるという大きな野望を持っているんだ。だけど、まだ俺には力がない。だからテルのような優秀な人材を集めているんだ」

 と言った次の日には「魚釣り最高だな」と言って剣を釣り竿に持ち変えるくらい楽しい奴なのは間違いないが、リーダーや兄と呼ぶには頼りない。


 ただ、いつもふざけてはいるけど、剣の腕前はかなりあるほうだと思う。母さんに剣を教えてもらった僕もそれなりに自信はあるが、カムロンは僕と同じくらい強い。


 僕は人を傷つけたことはないけど、模擬戦なら自信があった。

 でも、カムロンも母さん程ではないが、洗練された動きは同じくらいの怖さがある。


 いつも考えてしまうんだ。

 もし、この世界に身分がなかったり、僕がボットム生まれじゃなかったら王国を守る騎士になれたんじゃないかった。


 叶わぬ夢……望むだけ無駄なのはわかっているけど。


「そろそろできたか?」

「あっ、とりあえず焼きはもう少しかな。煮込んでいる方はもう少し時間が必要かも」

「そうか。それじゃあ今日もやろうぜ」

「カムロン……負けても泣くなよ」

「そっくりそのまま返してやるよ」


 カムロンが僕に刃の無くなった鉄の剣を1本渡してくる。僕はそれを受け取ると距離をとる。防具はお互いにつけていない。


 今日はもう一度身体を動かしているので、いつもより身体が軽い。

 お互い無言のまま距離を詰める。今日は一瞬で勝負を決めてやる。カムロンが上段から切りかかってきた。セオリーなら打ち合うか後ろに避けるかが正解だ。


 でも、それを……身体のすぐ側に剣を通らせ、そのまま力でカムロンの股間へ剣が当たるように誘導してやる。もちろん、潰れないように加減は……あれ、カムロン力つけすぎだろ……。


「いっ……た……い……」

 カクッと音でもしそうな勢いで頭が落ちてしまった。


 目の前で白目をむいて倒れているカムロンは。もう色々な意味で兄さんと呼んでやることは叶わないかもしれないが、あまりに不憫だからカムロン姉さんと呼んであげようかな?

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