クソ王子と元王国騎士団
「アラルコス様、よろしいんですか?」
「何がだソレーヌ?」
そこはお城の3階バルコニーだった。そこからは訓練をしている兵士たちの姿がよく見える。テルがガフィルを倒してから数日がたっていた。
「まだ、本当の弟さんだって伝えてないんですよね?」
「仕方がないだろ。ソレーヌがちゃんと引き留めといてくれれば、弟を巻き込まずにすんだのに」
「あれは仕方がりませんわ。不可抗力です」
「俺がアステルの本当の兄だと名乗ったところでメリットはないよ。本当はもっと助けてやりたいけどな。まだこの城の中には敵が多いし。遠すぎない距離で手を貸してやるのが一番だ」
「あらら、素直じゃないんだから。目から沢山のお水が流れ落ちていますよ」
「これはあれだ……ほら、お前ならわざわざ言わなくてもわかるだろ?」
「そうですね。花粉とかですかね? 涙なんて似合わないキャラですからね」
「うるせぇ」
アラルコスは袖で涙を拭くと、それを見たソレーヌからため息をつかれる。
「はぁ、アラルコス様、ボットムに遊びに行くのはいいですけど、王子としての動き方忘れないでくださいよ」
「仕方がないだろ。あの街で品よくなんてしていたら浮いて仕方がないんだから」
「それにしても……テルさん大丈夫ですかね?」
「いや、あれはダメだろ」
そこからは中庭でアステルが訓練をしているのがよく見える。
そこの横には金髪の幼い少女とアサプラスの妖精が二人仲良く座って訓練をぼっーと眺めていた。
「まさかエドキナを仲間にしちゃうなんてね」
「本当に頭が痛い。エドキナなんてこの世界の悪の親玉みたいなものだぞ。幸いにも誰もあの姿を見たことがないからいいようなものの、情報が漏れたら……俺も終わりだ。あれ、でもその時は俺たち兄弟でここからでていけばいいのか?」
「だいぶお疲れのようですので、伝えておきますが、エドキナを仲間にしたっていうだけで死刑はまのがれないでしょうね。エドキナと同じ魔力というだけで処刑しようとした国ですから」
「だよな。上手くテルの聖魔法でエドキナの闇魔法中和してくれればいいんだけど……」
「そこに期待するしかないですね」
「本当に頭が痛いよ」
アステルは楽しそうに剣を振っているのが見える。
「そういえば、もう一つの問題はどうした?」
「あぁあれでしたらもうすぐ来るはずですよ。そろそろ私は帰らせてもらいますね。彼女たちに今はまだこの関係がバレないようにしないといけませんから。私はただのバーサク娘ですので」
「あぁわかった。今後ともアステルの監視と手助けをしてやってくれ」
「アラルコス様の仰せのままに」
ソレーヌはもう一度深く頭をさげると、そのまま部屋をでていった。
――テルのこれからのことを考えるとアラルコスは頭が痛かった。
それでも、徐々に弟を自分の近くに置けるようになってきたことが嬉しくてしかたがないが。
今はまだ騎士団としてだが、いずれは弟として正式に復帰させたい。
願わくば過保護に成長させてやりたいが、そうは言っていられないだろう。でも、今は楽しい後処理からだ――
入り口の扉を優しくノックする音が聞こえてきた。
「はいれ」
「失礼します。元王国騎士団長ノエルただ今参りました」
「楽にしていいぞ」
「ありがとうございます。本日はいったいどのような要件でしょうか?」
「そんなに硬くならなくていいよ。ほら、僕はただの性格が悪い第三王子の引きこもりだからさ」
「覚えてらっしゃったんですね……あれは……噂と言いますか、人の言葉は真に受けてはいけないと身をもって経験しました」
「いや、いいんだよ。俺は性格最悪なクソ王子って言われたことで呼び出したわけじゃないんだ。もう王国の騎士を辞めた君とは主従関係もない。だから気楽にっていいたいんだけど、それとは別でこれを覚えているかな?」
「なんでしょうか?」
机の上にだされた1枚の羊皮紙にノルンはどこかで見た覚えがあったが、そこには3000万ルルンの借用書と書かれていた。
カムロンから借りたお金は30万ルルンだったはずだ。
「これはどういうことでしょうか? 30万ルルンをお借りしたので一応60万ルルンを返却するつもりだったんですが?」
「ほらここを良く見てみろ」
アラルコスが指差したところには、借用した30万ルルン3000万ルルンにして返金致しますと書かれている。
「いっ……いったいどういうことでしょうか?」
「まぁこういう契約をする奴もいるから気をつけろってことだな。そういえば今は王国騎士団を辞めてテルの家に居候しているんだろ? いい就職先があるんだけどどうだ? 俺はノエルにみんなの前でボロクソに言われたことを根に持ってなんかいないから安心して欲しい」
「はっ……嵌めましたね! このクソ王子!」
「今日だけはその言葉を誉め言葉として受け取っておくよ。ようこそ、クソ王子騎士団へ。元騎士団長様」
「イヤー!」
お城の中からノエルの叫び声が聞こえたような気がしたが、騎士団の人たちも今ごろはゆっくりしているころだとうと思い誰も気にしなかった。
ノエルの気苦労はまだまだこれからだ。
僕たちの冒険は……まだまだ終わらない。