ガフィルとの戦い 決着
「お前は……ただの貧民街のガキが……なぜ拘束を解くことができる¡?」
「まだ気が付かないのか? ガフィル10年前を思い出せ。テルは……お前が殺し損ねた男だよ」
「嘘だ。そんなわけあるわけない。だってあいつの柔らかいあの肉の感触。過去一番に最高だった。今思い出すだけでも、興奮してくる。はぁ、はぁ、はぁ……あぁ……なんて輝きだ。美しい……」
ガフィルの闇の手に僕は自分の魔力を流し込んでいくと、魔力が浸食していき、黒い手は光の羽となって空中に消えていく。
自分の魔法が消されているのにもかかわらず、ガフィルは光の羽を夢中になって眺めていた。
「あぁ、これがエドキナを封印した魔力なのか。なんてキレイな光なんだ。もっと早くにこの光に出会っていたら……これが……身体の動きといいノエルの目指していた騎士か……まるで聖賢者の騎士……」
そのまま、光の羽は優しくガフィルまで包み込み、彼はそのまま力なくへたり込んでしまった。力が入らないのが顔をうつむき何かブツブツと言っている。
「ガフィルお前には今までの悪事をすべて話してもらう。楽に死ねると思うなよ」
「フフフッ楽にか……元々楽に死ねるなど思っていないわ。お前たちはあの光を見て思わなかったのか」
「キレイな光にお前の心も洗われたとでも言うのか?」
「違う。そうじゃない。なんでわからないかな。あんな純粋な光を見たら私のどす黒いもので汚したくなってしまうじゃないか」
うつむいていたガフィルが顔をあげると、もう目の焦点があっていなかった。彼は腰からナイフを抜き、そのまま自分の腕に突き刺した。
鮮血が地面に飛び散ると、ガフィルを中心に多層の魔法陣が浮かび上がっていく。
「テル、カムロン離れて! この魔法陣は……闇の魔女エドキナを召喚をする魔法陣? もしかして……自分の命と引き換えに?」
ノエルの声で僕たちが距離をとると、ガフィルの姿がどんどん骸骨へと変わっていき、骨格が女性のものへと変わっていく。
「ダメだ。召喚させちゃいけない。エドキナの封印が破られる」
ノエルとカムロンが斬りかかるが、ガフィルの身体は実体がそこにないかのように空を切った。
「エドキナさぁまー俺の願いを叶えてください。俺の思い通りにならない世界なら亡ぼしてくださいーあの光をどす黒く汚してくだしゃい」
ガフィルの身体から水分がどんどん抜けていくように萎んでいったかと思うと、身体が作り替えられ美しい女性へと変わっていく。
僕も彼女に斬りかかろうとするが、彼女の微笑みを見た瞬間に身体が止まる。
目があっただけで、彼女が悪い人ではないのではないか。
そう思ってしまった自分がいた。
彼女は僕を見つめたまま手を振ると、カムロンとノエルが飛ばされ、壁に打ち付けられる。
僕が動かなきゃダメだ。
「あなた……私と同じ匂いがするわ。世界に絶望したのね。大丈夫よ。私が立派な闇の魔術師に育ててあげる。さぁ手をだして」
彼女が僕の方に手を伸ばしてくる。
なぜだろう……手を取らないといけないような……。
「さぁ……大丈夫よ。安心して手を伸ばせばすべてあなたの望む物が手に入るわ」
「やめろテル!」
僕は彼女の手をゆっくりと握る。
きっと僕は笑っていたと思う。
「そうよ。それで……!? うわぁぁぁぁぁぁぁ! なんなのあなた? この世界の絶望を知ったんじゃないの?」
「僕は……この世界の汚さも、ひどさも知ったよ。でも、この世界は絶望だけじゃない。世界には幸せだって希望もあるんだよ」
「手を放せ! 私は幸せなんて知らない。私はずっと孤独だったし、誰も助けてくれなかった。お前をこっちに引っ張るつもりだったのに、なんで私が引っ張られなきゃいけないんだ」
彼女の手から彼女の記憶が流れ込んできた。彼女が周りからどれだけ期待され、そしてまわりにどれだけいいように使われ、裏切られたのか。
それは悲しみのレクイエムのような悲痛な叫びだった。
「辛かったね。大丈夫だよ。もう君をいじめる人は誰もいない」
「今さら……優しくされたところで……」
僕は優しく彼女を抱きしめる。
「せっかく……封印から解放されたのに……またあそこに封印されるのは嫌……誰も私に気づいてくれない」
「大丈夫だよ」
僕が彼女の頭をなでると、彼女は僕の左手のひし形の傷の中に吸い込まれ、青い宝石へと変わってしまった。彼女のいたところには干からびたガフィルだったものが転がっていた。
「テル……エドキナはどうなったんだ?」
「静かに眠りについたよ。今まで悪い大人に利用されすぎたんだ」
「それでカムロン、今回のことがいったいどういうことか、説明して欲しいんだけど」
「まさかお前がここに来るとは予想外だったよ。テル、実は……危ない!」
ガフィルが自分の身体を闇の手で無理やり動かす。
「お前のせいで、エドキナは消え、俺の夢は終わった。でもな……道ずれにすることくらいはできるんだ」
もう、ガフィルの身体は限界を迎えていた。
魔力のコントロールさてつかないのか、必要以上に大きな闇の手がそこにいる全員を包み込んだ。
だけど、もうやらせない。僕がみんなを助けるんだ。
僕の身体から光が溢れてくると闇の手はどんどん光の羽となって消えていく。
あと少しという最後の最後で、ガフィルの闇の手が僕の身体に入り込んでいった。
「やっぱり……キレイ……だ。一緒に……行こう」
最後の力を振り絞ったガフィルは笑みを浮かべたまま動かなくなった。
「テル、やっとこれで終わったな」
「ありがとうテル」
「ダメだ……離れて!」
ガフィルの最後の一撃のせいで、僕の身体の中から魔力が溢れ出てくる。使い慣れていない力の均衡は簡単に崩れてしまった。
ガフィルの目的は僕たちを闇の魔力で包むことではなかった。最後に僕の身体から魔力を暴走させることが目的だったのだ。
僕の身体から魔力が爆発的にでていくのを感じる。
「アステル!」
「テル!」
二人が僕の名前を呼ぶ声が聞こえ、そこで僕の意識は途絶えた。