ラキの策略
優月のうさぎ亭は今日も荒れくれ者たちが沢山おり、入る時に緊張した。
「こんにちはー」
「なんだこのクソガキ、ここはお前のようなガキがくるようなところじゃねぇんだよ」
新しく入った人だろうか、今まで見たことがない人にいきなり絡まれた。
またラキは勢力を拡大したらしい。
僕はその人をできるだけ怒らせないように、スルーして奥へ行こうとすると、いきなり殴りかかってきた。
他の人たちはニヤニヤと笑っている。
多分わかっていて彼らを無視をしているようだった。
だいぶ性格が悪い。
「ラキに会いにきただけなんだけど、毎回これをやらないといけないのかな?」
僕は彼の腕を持つと、そのまま地面にひねり伏せた。
「なんだてめぇ! この俺を誰だと思っていやがるんだ。お前らやっちまえ!」
「本気で言っているの? 今日はもう手加減しないよ」
前にも同じ光景を見た。デジャブだ。
ただ、元々いたメンバーはさすがに手をだしてこない。へらへら笑っているのにはイラつくが。
前回よりも数は多いがもうさばけない人数ではなかった。僕はそのまま彼の腕をへし折り、襲いかかってきたメンバーを一人ずつ地面に沈めていく。
ボットムで怪我をするということは、本当に命取りになりかねない。
だけど、さすがに僕も意味もなく狙われるなら、身体に教えこむしかない。
これは、今後ここに来る人の安全のためでもある。
本当に、話し合いができるようになってもらいたいと思う。
それにしても、せっかくカンデル盗賊団の危機を教えにきたのになんて日だ。
僕が全員をしばき終わると、2階の部屋からラキが現れた。
「あら、テルじゃないか。ちょうどいいところに来たよ。新人が少し生意気だからしめてもらおうかと思っていたんだよ」
「ラキ……新人っていうのはこの人たちのこと?」
「あらーまさかそんな……私のお客のテルを襲うなんて命知らずな連中だこと」
「わざと襲わせたよね?」
「ん? なんのことかしら。テルに疑われるなんてショックだわー」
「はぁ、こういうのは本当にやめてください」
「いいじゃない。訓練よ。騎士になったらいつ襲われるかわからないんだから。ゴロツキ相手にならしておくのも大事よ」
どうやら本当に確信犯だったらしい。
部下の指導に僕を使うのはやめて欲しいものだ。
「ラキ……今回のことはいったんおいておいて、ちょっと大事な話があるんだ」
「そう。じゃあ上に上がってきて。お前たち、私の客を確認もせずに襲った新人たちに指導してやりな」
「わかりやした」
今までニヤニヤ見ていただけの、ラキの部下たちが一気に動き出し、僕を襲って来た者たちを店の奥へと連れていった。
もっと優しくしてやればよかったが、誰でもかまわず襲ってはいけないとこれで学んで欲しいと思う。
僕は2階のラキの部屋に案内された。
「いやーテル、手を煩わせて悪かったね」
「本当に次からはやめてください」
「もちろんよ。覚えていたら次からはやめるわよ」
絶対にやめる気がないやつだ。もう言わなくていいだろうという気持ちにもなってくる。
まぁ。でもそもそも人が入ってきて無作為に襲う方もそれはそれでどうかしている。
「はぁ、せっかく情報持ってきたのにそんな態度ならやめますね」
「テル、冗談よ。ふてくされた顔も素敵だけど、ご機嫌なおして」
ラキは僕にこんなことを言ってくるけど、わざと襲わせたり行動が読めない。
僕が助けたことに感謝はしてくれているようだけど……。
とりあえず、せっかく来たので報告だけしておく。
「はぁ、今日騎士団の訓練があってそこで第三王が騎士団を作った理由を聞いたんだ」
「あれだろ? 第三王子がカンデル海賊団を潰すって話でしょ?」
「もう知っていたの?」
「えぇもちろんよ。私にも優秀な情報屋がいるのよ。情報は命だからね」
「それで大丈夫なの?」
「わざわざ心配してきれくれるなんてテルは優しいわね。でも、心配ご無用よ。詳しくは話せないんだけど……私も強い後ろ盾を得たから」
「そうなの? まぁまた情報があれば持ってくるけど、とにかく気を付けて」
僕はそれだけ伝えると席を立つ。
「もう帰るの? もう少しいたらいいじゃない。ご飯でもご馳走するわよ」
「さすがに訓練の初日で僕も疲れたから帰るよ。またゆっくりできる時にくるから。まぁ気を付けてね」
「心配してくれてありがとう」
ラキは僕に微笑みながら、ゆっくりと手を振った。
僕が優月のうさぎ亭をでて教会へ帰ろうとすると、遠くにカムロンの姿が見える。
「おーい」
カムロンに声をかけるが、カムロンは僕に気が付かなかったのか、そのまま裏路地へと消えていった。少し驚かしてやるか。
僕がカムロンの後を追いかけると、どうやら誰かと待ち合わせをしているようだった。
カムロンが人目を避けるように裏路地の中に立っている。
僕はでて行くかどうか悩んでいると、そこに屈強な一人の男がやってきた。
歩き方や動き方が騎士の訓練を受けたように見える。
その男にカムロンは1本の剣を渡した。
あの剣は……たしかノエルの剣だ。なぜあんな騎士のような商人でもない男にノエルの剣を渡しているのだろうか?
あまりはっきりとは聞こえてこないが、何か物騒な会話が聞こえてきた。
「準備は……たのか?」
「これ……終わりです。教会も片付……頃でしょう」
なにか嫌な予感がする。
どういうことだろう。
僕はカムロンに声をかけずに急いで教会へと戻った。
何も起こっていなければいいけど。
だけど、僕の悪い予感が当たってしまうことになった。