カンデル盗賊団の危機
翌日、僕は朝からポーロと一緒に騎士団の訓練に向かっていた。
ポーロは僕以上にやる気満々だった。
「どんな訓練をやるんですかね?」
「ポーロは昨日からそればっかりだな」
「だって、元々俺はゴロツキあがりですから、それが騎士になれるなんて夢みたいなものですよ。もう一回顔を叩いてもらってもいいですか?」
「はぁ、わかったよ」
僕は思いっきりポーロの顔を殴ってやった。これで朝から10回目だ。
「いやー痛いのって幸せですね」
ポーロに変な癖が目覚めないことを祈るばかりだ。
騎士団の訓練場へ行くと、僕たちと同じようなボットム出身だとわかる連中がすでに6人いた。
「よく来たな。お前たちが最後だ」
そこにいたのは、先日僕たちの試験をしてくれた騎士団のメンバーだった。
僕の顔を見ると非常に嫌そうな顔をされた。
どうやら俺たちが一番最後だったらしい。あれだけの人数がいて合格が8人というのはだいぶ絞られたようだ。
「今日やってもらうのは、騎士団としての規律を身につけてもらう。規律は騎士団の基本だ。ボットムでは強ければいいだけだっただろうが、騎士団ではそうはいかない。騎士団は個の強さも必要だが、全体での強さも必要だからだ。決して甘く見ないように」
まだ半信半疑なのか、みんな様子見のように斜めに構えている。
「よし、それでは全員ランニングからだ」
僕たちは騎士団の訓練場をただひたすら走らされた。
何周走るのかも言われないまま、一人、また一人と脱落していき最後に僕一人が残ったが、あまりに僕が疲れないので途中でランニングは終わりになってしまった。
「普通は……ここで体力の違いを知るんだけどな。戦闘だけじゃなくて、体力も規格外なんだな」
「そうなんですか?」
「まぁいい。準備運動が終わったから規律訓練に入る。全員一列に並べ! ほらきびきび動け!」
すでに吐きそうになっている人もいたが、全員が一列に並ばされ、ひたすら基本行動をやらされた。
なんというか……ずっと教会の上から見てやっていた僕からすると誰かと一緒に訓練を受けられるだけでも楽しくて仕方がなかった。
それからしばらく、僕たちは徹底して基礎の規律の動きを教え込まれた。
「よし、いったん休憩だ」
ほとんどのメンバーがその場にへたり込んでしまった。
「ポーロ、大丈夫か?」
「大丈夫です。これくらいまだまだです」
そう言っているポーロの顔は顔面蒼白になっており、今にも死にそうな顔をしていた。
僕はまわりに気がつかれないように、ポーロに回復魔法をかけてやる。
これくらいの手助けはしてもいいだろう。
「テルさんありがとうございます」
「気にするな」
僕たちが休憩していると、モンテリオットがやってきた。
「なんだお前、またテルさんにボコボコにされにきたのか」
「やめろ、ポーロ」
「どうやら相当嫌われたようだな。先日はすまなかった。危うく俺は騎士団からクビになるところだった」
モンテリオットは僕に頭を下げてくれた。
こないだのプライドの高かった男と同一人物には見えなかった。
「頭をあげてください」
「すまない。少しここに座ってもいいか?」
「どうぞ」
モンテリオットは僕の横に腰掛けた。
「テルくんはどこでその動きを身につけたんだ?」
「僕は……母さんが元々騎士団の規律に詳しくてそれで教わりました」
「ボットムに元騎士がいるってことなのか?」
「元騎士なのかはわかりませんが、結構詳しいと思います」
「そうなのか。君の母さんの名前は聞いても?」
「母さんは……いつも僕に母さんとしか呼ばせないから名前はわからないな」
「そうだよな。ボットムじゃ名前なんて意味をなさない場合も多いか」
彼はゆっくりと腰をあげる。
僕はなぜか名前を教えてはいけないような気がした。
「そろそろ訓練を開始するぞ」
団長が全員に声をかけてくる。
なぜかあまり話をしたくなかったのでちょうどよかった。
「わかりました! テルくんありがとう」
「こちらこそ、どういたしまして」
僕らはまた訓練場に集められる。
「お前たちは、この訓練が終われば第三王子直属の騎士団として働いてもらうことになる。一番初めの任務としてボットム一と言われているカンデル盗賊団の討伐がある。それまで時間がないから、しっかりと学んでもらうぞ」
第三王子の目的がカンデル盗賊団の討伐?
カンデル盗賊団といえばラキがいるところだ。しかも、一時ポーロも所属していた。
僕とポーロは顔を見合わせる。
これはなんとかしないといけない。
僕は訓練が終わると、急いでラキの元へ向かった。
ポーロは元々自分が率いていた仲間の所にも伝えにいくということで訓練場をでたあと、一度別れることになった。