二日酔いの人々
「テルさん……お水を……」
「俺にも……お願いします」
「テル……もうダメ」
「うっ……テルがいっぱいに見える……幸せ」
翌日、母さんを除いてお酒を飲んでいたメンバーは完全に二日酔いになっていた。
「まったく、あれくらいで二日酔いだなんて……」
逆に普段まったく飲まないのに、酔わない母さんが強すぎるんだと思う。
カムロンは日が昇る前に調べたいことがあるからと帰っていき、午後一でまた戻ってきた。
昨日のマジック鳩の言っていたことが気になっていたらしい。
ラキは未だに酔っているのか、僕がたくさんいるとさらに、喜びながら酒を飲んでいる。
「今日一日はダメだな……」
ノエルたちを見たカムロンは頭に手を置き、首をゆっくりと振る。
「大事な話?」
「あぁノエルがなんではめられたのかがわかった。だけど……」
午後になってもノエルは復活には程遠いようだった。
「仕方がないな」
僕はソレーヌから教わった毒消しの魔法で全員からお酒を抜いてあげる。
「テル……もう普通に魔法が使えるのか?」
「うん。簡単な聖魔法だけだけどね」
一瞬、カムロンの眉間に皺が寄っていたような気がしたが、きっと僕の見間違いだろう。
「すごいな! さすが俺の弟なだけはある」
「カムロンはこういう時ばっかり」
僕はカムロンを見ながら笑みを浮かべた。このやり取りも何回しただろうか。
「カムロン、悪かった。それで私がはめられた理由というのは何なんだ?」
「本当だよ。自分が騎士団から追われているっていう自覚がないんだから」
「面目ない。まさかあの名酒をこんなところで飲めるとは……もう死んでもいいと昨日は思ったけど、まだ飲み足りないからそう簡単には死ねないな」
「楽しそうでなによりだ。それよりも……ノエルは王国騎士団の他に魔法を使える騎士団を創設させたかったのか?」
「なぜそれを? まだ計画段階とはいえ、表にはでていない情報のはずよ」
カムロンは両手を上げて落ち着けとアピールする。
「今は非常事態だけどな。口の軽い従者っていうのはどこにでもいるんだよ」
「あなた本当にどうやって情報を得てきているの?」
「そりゃ……可愛い女の子を口説いてだよ。俺はモテモテだからな」
「はぁ、まともに聞いた私がバカだったみたいね。それで、なんで魔法騎士団と私の追放がどうかかわってくるの?」
「ガフィルは騎士団が魔法を使うことを恐れている。自分の既得権益を守りたいんだ。だから、それを作ろうとしていたノエルを追い出し、騎士団の地位を下げようとしたんだ」
「そんな理由で王様を……?」
「あぁ、王様はノエルが作ろうとしていた魔法騎士団の設立に積極的だったからな。正直、ガフィルは自分の地位が守られるなら、どんなことでもする。しかも、次の踏み絵のためにノエルを狩るために騎士団を導入しているって話だ。そこで見つけてきた奴、一番ガフィルに忠実な奴を騎士団長にするつもりらしい」
「なんとも……悲しいものだな。あれだけ私が頑張ってきたものは、こんなにも簡単に崩れ去るんだからな」
「そうでもないみたいだぞ。騎士団の一部ではノエルを助けるために探しているメンバーもいるらしいからな。ただ、昨日ソレーヌのところにも連絡が来たように、ガフィルはこのボットムを近いうちにすべて捜索するという話だ」
「私も、うかうかしてはいられないな。どこかへ身を隠すしかないわね」
「ノエルさん、大丈夫ですよ。ここなら王国騎士団も手はだせませんから」
「それでも、ここにいることでみんなに迷惑がかかるでしょ」
「なんだよ、ノエル姉さん昨日あれだけバカ騒ぎした仲じゃないかよ」
「そうですよ。それに私のバーサク状態になったら王国騎士団にだって負けませんよ」
「私の盗賊団だって、逃がすお手伝いはできますよ」
「私も家の修理をしてもらうまで、ノエルを逃がしませんからね。それまでは私が守ってあげますよ」
「僕だって騎士になってノエルを守るよ」
「みんな……ありがとう」
全員がノエルを取り囲み、応援する。
みんなこの国に反旗を翻すと大変なことになるのに、誰も逃げようとはしなかった。
ノエルの頬から一筋の涙がこぼれる。
「ノエルは一人じゃない。俺たちがいるんだからなんとでもなる」
「ありがとう、カムロン」
いつのまにかプラスも僕の肩の上で任せろと胸をトンと叩いた。
「それにしても、カムロンさんの情報網には驚きますね。昨日の今日でこれだけの情報を集めてくるなんて」
「まぁね。どんなところにでも繋がりがあれば集められない情報はないよ」
「カムロンさんもボットム出身なんですよね?」
「フフフ……知りたいかい? でも男は秘密があるから色気がでるってもんだろ?」
「いや、ちょっとわかんないです」
「わかんねぇのかよ。だからボットムの連中は嫌なんだよ」
みんなの笑い声が聖堂の中に響きわたった。
僕たちはずっと一緒だ。