傷だらけのポーロと一瞬で決まった試合
「どうした? 次はどんなトリッキーな技を見せてくれるんだ?」
ポーロはそれには返答せずにゆっくりと距離をつめていく。
「やはり、真正面からの勝負には弱いようだな」
男が言うように、ポーロは騎士へ攻撃できずにいるようだった。
先に動いたのは騎士の方だった。
上段から構え、ボーロへと打ち込んでいく。
先ほどの騎士よりも格段に動きは良かった。
ポーロは先ほどの時と同じように一方的に木剣で殴られていく。
「ほらどうした? 先ほどまでの威勢はどこへいったんだ?」
徐々にポーロの動きが悪くなっていく。疲労にダメージが重なっているようだ。
「さっきのは偶然だったみたいだな」
騎士が大きく振りかぶる。
なんだ……まるでさっき見た光景と同じじゃ……騎士は剣を振り降ろさずに、いきなり大きく距離をとる。そこにポーロの剣が空を切った。
「ちっ……気づかれたか」
ポーロはわざと相手に打たせることでカウンターを狙っていたようだ。
「何度も同じ技は使わないんじゃなかったのか?」
「それは誘導。俺は嘘つきだからな。かかってきな」
そうは言ったが、ポーロはもう次の仕掛ける技がないのか、先ほどよりも高速で打ちこまれている。これじゃあただのサンドバッグじゃないか。
懸命にかわし、ガードし、上手くいなしていくが……やがてそれも間に合わなくなり、ポーロが思いっきりふっ飛ばされた。今ので左手があがらないのか、ぶらぶらと揺れている。
「ポーロもういいよ!」
「テルさん、まだ一撃もいれられていませんから」
「一撃入れる必要はない。無理しないで戻って来い」
ポーロは今までの防戦から一気に攻めの姿勢へと変えた。
離れた距離で攻撃を受けるより、相手に近づいた方が痛みはすくない。
「テルさんの役に立たないといけないんでね。少し無茶させてもらうよ」
「ポーロ止めろ!」
ポーロはゼロ距離に近づき、そのまま騎士を掴むと身体ごと巻き込み地面に叩きつけた。激しい音と共に倒れるが騎士の方はそれほどダメージがない。
むしろただ怒らせただけのようだ。
「くそ。ここまでか。テルさんすみません」
ポーロが上手く投げたと思ったが、一瞬のうちに身体を入れ替えると騎士がマウントをとり、ポーロの顔面に拳を叩きつけた。
「もういいだろ! 決着はついた!」
だが、騎士は殴るのと辞めなかった。ボーロが徐々に鮮血に染まる。
ダニエルの方を見たが、止める気はないらしい。
僕はポーロの側にかけよると、殴っている騎士の手をとめた。
「もう十分だ。僕が相手をしてやる」
「ただの臆病者かと思ったんだけど、少しは勇気があるじゃないか。安心しろ、すぐにこいつと同じ目にあわせてやるから」
今にもこの騎士を殴り飛ばしてやりたいという気持ちを抑え込み、ポーロを担ぎ上げ、試合の邪魔にならないところへ移動させる。
「テルさん……すみません。ちょっと調子に乗りすぎました」
「いや、十分だよ。僕をここまで怒らせることができたんだから。試合が終わるまで少し休んでて」
ポーロは僕にサムズアップしてくる。
「テルさんなら余裕ですよ。ボコボコにしてやってください」
僕も……少し恥ずかしかったがサムズアップでかえす。
「それじゃあ、志望動機を言ってさっさと始めるぞ」
「僕は王国一の魔法騎士になるために騎士団に志望しました」
先ほどまで、ポーロを応援していたボットムの人間たちが急に笑いだす。
「ハハハッ、魔法騎士だってよ」
「まじかよ。なんであんな奴のしたにさっきの奴いるんだ?」
「相当頭おかしいんだな」
「おいっあれってヘドル川のドブ男じゃないのか」
「本当だ。着ているものがきれいになってるけど、自称騎士のババアのとこのガキだ」
「魔法騎士になってなれるわけがない」
まわりにいる奴らがどっと笑う。
「あんなのは王国騎士団になんてなれるわけがない」
「あいつは一瞬でボコボコだな」
まわりからの僕への批判の声が増えるにつれて身体が少しずつ重くなっていく。
先ほどまでのポーロがやられた怒りよりも、自分が身の程知らずでここにいるのではないかという思いが僕の心を押しつぶしそうになる。
「テルさん! 顔をあげて! お前ら! 人の夢は笑うものじゃない! 応援するものだってしらねぇのか」
ポーロが大声で僕を励まし、満面の笑みでサムズアップしてくる。
その言葉はこの前ソレーヌに、ポーロが言われた言葉だった。
まったく……。
これだけみんなが批判をしてくる中で彼だけは僕を応援してくれている。
彼の姿を見た瞬間に僕の気持ちがふっと軽くなるのを感じた。
100の批判よりも、1つの応援が僕に勇気を与えてくれる。
あんなにボロボロになったっていうのに……声をだすのだって辛いはずだ。
「魔法騎士になりたいって言うのは簡単だけどな。どれだけ騎士団が訓練をしているのか知らないから言えるんだ。身の程をわからせてやる」
「よろしくお願いします」
僕は騎士団式の挨拶をしてその騎士とむきあう。
「礼節くらいは学んできたようだが、騎士への道はそう甘くないぞ。それでは始め!」
僕は今までにないくらい積極的に動いた。
ポーロのおかげで彼の動きの癖がなんとなくわかる。それに、この騎士は何度かノエルと戦っているのを見たことがある。
木剣と木剣がぶつかる瞬間、僕はそのままぶつかるように見せかけて力を抜き、身体を回転させながら、その騎士を蹴り倒した。
そのままの勢いで、首筋に木剣を突き付けた。
「これで終わりですね」
勝負は一瞬だった。広場が静寂に包まれる。
「待て、今のは本気じゃない」
騎士が俺に一生懸命言い訳をしてきたが、それを止めたのはダニエルだった。
「見苦しいぞ。もし真剣勝負だったらお前は死んでいる」
「でも……」
「でもじゃない。お前は下がれ」
「なっ……俺はまだやれる!」
「うるさい! これ以上恥をかかせるな」
「クソっ覚えておけよ」
彼はそのままブツブツいいながらも下がっていく。
「えっと君の名前は?」
「テルです」
「テルくん、なかなかの動きだったが、もしかしてまだやりたりないんじゃないか?」
「一人倒せば十分って話じゃないんですか?」
「騎士になりたいんだろ? まだやりたりないだろ? それに君は優しいからいいかもしれないけど、君の部下をボコボコにした仕返しだってしていないじゃないか」
ダニエルは僕にはいと言わせたいようだ。
正直、少し物足りなさも感じていた。
たしかに、ポーロがボコボコにされた借りも返せていない。
「ぜひ、全力をだせる人と戦わせて頂ければと思います」
「よく言った」
ダニエルは非常に嬉しそうにしていたが、このあとテルを戦わせると言わせたことを後悔することになる。