騎士団募集試験。えっもう終わりですか?
翌日、騎士団の募集試験はボットムの広場で行われた。
僕はポーロと二人で広場へ来ていた。
ノエルは逃亡中だし、ソレーヌは教会の片付けをしている。
母さんは……ヒヤヒヤしちゃうからって家で待っているって言っていた。
「テルさん、ドキドキしますね」
「ポーロもわざわざ来なくても良かったのに」
「なにをおっしゃるんですか。俺の人生はテルさんに捧げたんですから。テルさんと一緒に騎士になりますよ」
ポーロはそんなことを言ってくれているが、そもそも僕も受かるとは限らない。
というか、騎士団の試験がそんなに簡単なわけはない。
「それじゃ始めるから集まれ」
今回の試験には王国騎士団が駆り出されていたが、騎士団の人間からはまったくやる気がみられなかった。
屋上から見ていた騎士団と同じとは思えないほど、だらしなく、動きに精細さにかけていた。
その中で一番偉そうな男が広場にいる全員に声をかける。
「俺は第二王子の騎士団を任されているダニエルだ。本日は第三王子の騎士団募集に、これだけの人間が集まってくれて感謝をする。それじゃあ、一人ずつ志望動機を言ってから騎士団のメンバーと試合をしてもらう。どうせ勝てないのはわかっているが、この中から数名でも素質がある奴がいてくれればいいと思っている。じゃあ誰からでもいい。やりたい奴」
ダニエルが声をかけると、そこにいたほぼ全員が手をあげた。
これはボットムから這い上がる唯一のチャンスだ。
ここを逃したら、もう二度とないだろう。
きっとみんなもそれを理解しているようだった。
「おい、おい。本当にこいつら全員やるのか?」
「隊長、仕方がないですよ。珍しく第三王子がやる気になったんですから」
「はぁ、無能な上司がやる気をだして、張り切った時ほど迷惑なものはないな」
「まとめてやるのはダメなんですよね?」
「あぁ、一人一人、志望動機を聞いてやる気があるのを探して来いってよ」
「無作為に選んでいけばいいんじゃないですか?」
「余計なことをいうな。第三王子の上にいる人間を忘れるな」
「失礼しました」
「余計なこと言ってないでさっさと始めろ」
「承知しました。それじゃあめんどくさいから一列に並べ」
普段人の言うことを聞かないボットムの人間が揉めながら一列に並んでいく。
僕も……と思った時には、どんどん後ろに追いやられていた。
途中でポーロが僕の服を引っ張って列に入れてくれる。
「テルさん、強いんですからこういう時も積極的にいった方がいいですよ」
「ありがとう。助かった」
「いえ、これくらいおやすい御用ですよ」
前の方に何人いるかわからないが、僕は相当後ろまで来ているため前の方で戦っている姿はまったく見えなかった。
ただ、広場の方から一人ずつ志望動機を連続で叫ぶ声が聞こえてくる。
「ポーロ、みんな志望動機言うの早くない?」
「あぁ、あれなら多分一瞬で決着がついているんだと思いますよ。騎士団の連中はさっさとこれを終わらせたいでしょうから」
「これって騎士団の採用試験じゃないの?」
「ただし、力がある奴に限るってことですよ。ほら、イケメンに限るっていうのと同じです。それにしても騎士団容赦ないですね」
ポーロが見つめる先では腕を抑えながら歩いている人がいる。
骨折はしていないと思うけど、参加する側にもかなりリスクがあるようだ。
ボットムで怪我をしたら、その日の食事に困る人もでてくる。
あまりに参加する代償が大きすぎないか。
前に進むにつれて、だんだんと人の流れが早くなっていく。
騎士団の容赦のない攻撃を目の当たりにした人たちがどんどん列から抜け出していった。
時には撤退する勇気も必要だ。
それからあっという間に僕たちの番になった。
「テルさん、俺からいかせてもらいますね。俺の戦いを見て少しでも参考にしてください」
「ポーロ気を付けて」
ポーロは僕にサムズアップすると騎士団の前へ進み出た。
「テルさんの下僕、ポーロだ。騎士団の試験に興味はないがテルさんが進む道、命をかけて露払いさせて頂く」
「はぁ、御託はいいからささっとかかってこい。一発で終わらせてやる。そこに落ちている木剣を拾え」
ポーロは足元に落ちていた木剣をそのまま騎士の方へ脚で蹴りつける。
騎士は予想外の攻撃に身体を大きくそらした。
「温室育ちじゃこういうの慣れていないんだろ?」
ポーロはすぐに騎士との距離をつめ、頭を持ってそのまま地面に叩きつける。
派手な音と共に騎士が大きくうめき声をあげた。
「疲れているみたいだから交代させた方がいいんじゃないか?」
ポーロを中心に拍手と大歓声があがる。
「いいぞ!」
「やれ! ボットムの力を見せてやれ」
「そのまま殺してしまえ!」
だが、倒された男はそのまま跳ね起き、何事もなかったかのように木剣を構えた。
ポーロも蹴り飛ばした木剣を拾い上げる。
先ほどの団長が試験官に声をかける。
「ボットムの奴ら相手に油断していると給料減らすぞ」
「少しは花を持たせてやらないと、盛り上がらないじゃないですか」
「盛り上げる必要はない。すぐに負けを認めさせやれ」
「わかりましたよ」
今度は先に騎士の方から動いた。先ほどまでの手を抜いていた動きとは全然違っている。
「すぐにとは言われてもねぇ。俺としても偶然でも地面に倒されたとあっては、腹の虫がおさまらないんだよね」
「そんな怖いこと言わずに、仲良くやりましょうよ」
騎士の動きにはついていけていないのか、ポーロは木剣で叩かれまくっているが……うまい具合に顔や急所は避けている。
「もう終わりかい騎士さん? そういえば一発で終わらせてやるとか言ってたけど? 騎士さんの一発ちゃずいぶんあるんだな」
「うるさい! お前の安い挑発になんてのりはしない」
「ダメか。まぁ言い返せないから仕方がないよな。第二王子の騎士団っていうのも大したことないらしい」
騎士の顔から余裕の表情がなくなる。
「俺のことを馬鹿にするのはいい。だが、騎士として私の部隊が舐められるわけにはいかない」
騎士は小技で巧みにポーロを翻弄し、ポーロの木剣が弾かれたところで、大きく振りかぶり、叩きつけるように振り降ろした。
「これで終わりだ!」
バッキと何かが折れる音と共に……騎士がその場に崩れ落ちた。
「あれま、やりすぎちまった」
「ポーロ大丈夫なのか?」
「すみません。疲れさせて引き継ぐはずが、弱すぎて倒しちゃいました」
騎士は完全にのびている。
「ちょっと待て! 面白そうだな。次は俺とやろうぜ」
団長の横に控えていた騎士が名乗りをあげる。
「なんで? 何人勝ち抜きすればいいだい?」
「いや、お前の目的はそいつの露払いなんだろ? いいのか? お前が倒したせいで俺がやるはめになったぞ。別に勝ち抜かなくても力を見せればいいだけだが、お前の主人は疲れていない俺とやることになるんだぞ。俺はわざわざお前のために言ってやってるんだぜ?」
「ポーロやらなくていいよ」
ポーロはもう十分戦った。別に僕の付き添いなんだからこれ以上やる必要はない。
「テルさんにやらなくていいって言われても、そっちの騎士さんの言う通りですよ。少しはお役に立たないと」
ボットムの広場は今まで沈んでいた空気から一気に盛り上がり歓声があがる。
ポーロはゴロツキたちを率いていただけのことはあるようだ。
「今度は剣を蹴りつけてこないのか?」
「俺たちは常に生き残るために必死なんだ。だからあんたらと違ってルールに縛られもしないし、同じ方法を何回も使ったりはしないんだ」
「かかってこい」
「望むところだ」
広場にいる全員が見つめる中ポーロの第二戦が始まった。