再度襲って来たゴロツキが味方にしていたのは、僕の味方だった。
「まったく懲りずによく来たわね」
「ガハハ、もう、負けるわけにはいかないのだ」
ソレーヌが斧を抜き両手に構える。
「今度こそ地獄へ送って欲しいみたいね」
「ぐっ……これだけの人数を見ても……大人しく金を払えば見逃してやると言ってるのに」
「あんたたちこそ、今謝れば許してやるわよ」
男は数を集めてやってきて、脅してきたがソレーヌは負けていなかった。
プラスだけは僕の肩にどこから持ってきたのか割れた木の実を食べながら楽しそうにしている。
いまいち緊張感にかける。
昨日やられた盗賊たちここまで来たが及び腰になっているようだった。
口では騒いでいるが、前面にはなかなかでてこない。
「いいんだな! 本当に! 後悔しても遅いからな。姉さん。それではやっちまってください」
「まったく……気が乗らないけど……あんたらみたいなの仲間にしても意味がないんだけどねぇ」
そこに現れたのはラキだった。
彼女は非常にけだるそうに頭をかきながら、僕たちがよく見える場所までやってきた。
「ラキ!」
「テルじゃないか!」
先ほどまでめんどくさそうだった顔が、ぱぁっと笑顔になり僕に手を振ってくる。
「金を払わなかったっていうのはテルの仲間のことなの?」
「僕もよくわからないんですけど……昨日も襲われて」
「ハハハッ! テルをこのバカ共が襲ったっていうのか。おい」
ラキが頭を一瞬右手で自分の頭を抱え、なにかを考えるような仕草をしたが、すぐにそのまま部下の前に手をだす。
「へい頭」
ラキは部下から剣を受け取ると、昨日襲って来た盗賊の首に突き付ける。
「姉……さん? これはどういうことで?」
「気が変わった。お前らを仲間にしない。カンデル盗賊団は今からテルの味方だ。今すぐここで殺されるか、帰って殺されるか、好きな方を選びな」
「姉さん、話が違うじゃねぇか。俺たちはあんたらの下につくって」
「あぁ……そんな話もあったが争う相手が悪かったな。テルは私の命の恩人なんだ。だから、テルの敵は私の敵だ。さぁポーロどうするんだい?」
「お前ら全員武器を捨てろ」
盗賊の頭はポーロというらしい。彼は持っていた剣をそのまま地面へと投げ捨てる。
「ポーロの兄貴!」
「諦めろ。この街じゃ強いものが一番だ。俺たちにしてはよく生き延びてきたもんだよ。狙った相手が悪かった。ラキの姉さん、こいつらは俺の命令に従っただけなんだ。だからこのまま面倒みてやってくれねぇか」
「面倒? なんでテルを襲った連中を私が面倒なんて見る必要があるんだい?」
「こいつらは俺の命令に従っただけだ。だから、足らないかもしれないけど、俺の命で勘弁してくれ」
「あぁーめんどくさいな。だけど、弾除けくらいにはしてやるか。仕方がないからあんたの命で清算してやるよ。潔くて何よりだ」
ラキが剣を頭上高くへ剣を振りかざす。
それは僕に見せていたラキの姿とは違う、ボットムのラキだった。
「ちょっと待ってラキ! その人殺すの?」
僕たちの問題だったはずが、いつの間にかラキが無抵抗なポーロを殺すって話になっている。
教会は人の罪を許すところだ。こんなところで人を殺していいわけがない。
「もちろんだろ? こいつらは私の命の恩人のテルの命を狙ったんだ。命を狙うってことは殺される覚悟があるってことだろ? 盗賊団全員殺さないだけ優しいじゃないか」
ラキは本当に心からそう思っているようだった。
キョトンと何かおかしなことを言っているのといった顔で僕を見てくる。
「ラキ、その人を殺さないであげて」
「テル……テルはいい意味でこのボットムに馴染んでいないから知らないかもしれないけど、この街で一度舐められたら生きていけないんだよ。こいつは道端で自分たちがボコボコにされて、追いかけて回収するつもりが失敗したんだ。その上、恥を忍んで私のところにきた。その時点でこいつが生きていくには力づくで金を回収するか、あとは死ぬしか選択肢がないんだ。ボットムの街は何度も失敗に寛容な街ではないんだ」
この街では命の価値が軽いとは思っていたけど、それは僕の想像以上だった。
街はずれに住んでいなければ、僕は生きていくことができなかったかもしれない。
「そのお金っていくらなの?」
「10ルルンだ」
「ソレーヌって……10ルルンで命まで狙われたの?」
今まで静かにしていたポーロはもう諦めたかのようにゆっくりと話始めた。
「そうだ。この街では何より舐められないことが大切になる。ボットムの連中は10ルルンなら払ってくれる奴も多いし、そもそも払いたくない奴はわざわざ歩かないからな。でも俺たちはたった10ルルン回収できないどころか、俺らは昨日お前らにボコボコにされたせいで評判はがた落ちだ。もうここで生きていくには強いところの庇護に入るしかないんだ」
ゴロツキを容認なんてできるわけないけど……。
「なんでそんな理不尽な理由で払わなきゃいけないの? しかも自分より弱いやつらにさ」
ソレーヌはもうバーサク状態に入っているのか、言葉がだいぶ乱暴になってる。
10ルルンくらいで助けられるなら……。
「ノエルお金……」
「いいわよ。貸しにしておいてあげる」
ノエルがカッコよく腕を組んで立っていたが、しぶしぶといった感じで財布から10ルルン硬貨を取り出すと指で弾いて渡してきた。
動きに無駄がなくていいんだけど……。
「ありがとうノエル。貸しっていうのは僕の家を直してから言ってね」
「グッヌ……」
ノエルが一瞬で目をそらした。恥ずかしかったのか少し顔が赤くなっている。
「この10ルルンあれば、この人は死ななくていいってことでしょ?」
「そうね」
僕は彼に10ルルンを渡す。
「できれば、手間賃なんかとらずに普通に働いて生活してくださいね」
僕がポーロにお金を渡すと、ポーロは泣きながら頭を地面にこすりつけた。
これで一件落着。
かと思っていたが、そう簡単にはいかなかった。