第三王子は最低な奴だという話だった。
「嘘でしょ?」
「第三王子が騎士団募集を開始するらしく、テルにもチャンスがあるみたいだから知らせにきたんだ」
「テルは文字まで読めるの⁉」
「母さんが教えてくれたからね」
「なんでもできるのね。それにしても第三王子が騎士団を募集? しかも、ボットムから? テル、こんなことを言うのはあれなんだけど、止めた方がいいわよ。第三王子は引きこもりで腰抜けのクソ野郎って話よ。母親が追放された時でも何もしなかったらしい。かなり薄情な奴らしいわよ。こんな奴の下についたら確実に使い潰されるわ」
「テル、ノエルはこう言っているが、ボットムの人間が騎士になれる可能性なんてほとんどない。このチャンスをどうするかは自分で決めればいい。俺はただ情報があったからもってきただけだからな」
ノエルもカムロンの言葉もありがたい。だけど……自分の道は自分で決めたい。
「僕は……参加したい!」
「いいのテル? 第三王子は性格最悪で、城の奥に引きこもったまま誰も見たことがない割に悪名だけは城内に流れてくるような奴ですよ。あんなのの配下になるくらいなら死んだ方がいいと言っている騎士団の人間は沢山いるわ」
「そんなにヤバい奴なのか?」
「間違いないわ。城で働いているメイドたちがそう言っていたから。第三王子の母親は聖女様で非常に美しく、聡明な方だったと聞いているわ。優しくお淑やかで、その洗練された動きはまるで天女のようだったそうよ。他の王子様とは母親が違うらしいのも原因みたいだけどね」
「聖女様が天女ですか……」
母さんがなぜそこに反応したのかわからないが、なぜか二人のやり取りを面白ろそうに笑顔で見ている。聖女様か……一度でいいから見てみたいものだけど……。
「お母様は聖女様にお会いしたことないと思いますが、もう、それは、それは素晴らしいお方とのことです。聖女様のお話は私の師匠にあたる方が、いつもおしゃっていましたから間違いありません」
「フフフッ」
母さんはなぜか楽しそうに笑っていた。
「それに引き換え、第三王子は本当にダメダメ。他の王子のおまけみたいなもの。お母様は素敵なのに。今回もどうせ思い付きで言っているに違いないわよ。あんな引きこもり絶対に性格が悪いに違いないわ。聖女様の子だっていうのに、まわりの期待に応えられなかったのね」
「それでも、僕はやるよ」
「まぁそこまでの決意ならいいと思うけど……」
「ちなみにその第三王子の悪口を言っていたメイドは誰のメイドなんだ?」
「たしか……魔法副大臣のところのメイドから聞いたと言っていたわ。目もあわせられなければ、あいさつもできないって。人の上に立つ器ではないわね」
「なるほどね。ノエルの言いたいことはわかるけど、また聞きで人の悪口は言わない方がいいと思うぞ」
「それはそうなんだけど……私は許せないのよ。聖女様を助けようとしなかったあの王子が。他の王子とは母親が違うといってもなんとかできたはずなのに。それのせいで私の師匠とも会えなくなってしまったし」
「それには別の理由があったのかもしれないだろ」
「自分の母親を助けられない理由ってなによ!」
僕は段々とヒートアップしてきた二人を止めるために、話題を変えることにした。
二人にはそんな関係ない人たちのことで揉めてほしくない。
「これカムロンは受けないの?」
カムロンはなぜか少しずつイライラしているようだった。
「俺はそんなクソ王子の元につくつもりはない。でも、テルは騎士団に入りたいならどんな手段でも使うべきだ」
「そうだね。募集はいつなの?」
「明日だ」
「ずいぶん急な……だから思い付きで動く王子は……」
ノエルは第三王子のことが嫌いなのか、ずっと悪口を言っている。
「ノエルが第三王子と直接何があったかはしらないが、あまり人のことを悪くいうのは良くないぞ」
「私は別に何があったわけではないですけど、他の王子が自分の騎士団を持ちこの国を支えているのに、ずっと引きこもって何もしない王子が気に入らないだけです」
ノエルは相当第三王子のことが嫌いらしい。
このままでは、本当にカムロンと喧嘩になりかねない。
「ノエル、僕にはわからないけど……その王子様にも何か理由があったのかもしれないよ。ノエルだって騎士団団長だったのに今は無実の罪のここにいるわけだし……」
「たしかに……それを言われると……そうなんだけど……」
ノエルもきっとストレスがたまっているに違いない。
「ん? テル、下に沢山のお客さんが来たみたいよ」
母さんがそう言うと、プラスがいつの間にか僕の肩に乗り手を叩いて喜んでいる。
「沢山のお客さん? それって……」
ノエルの方を見るが首を横に振る。
「昨日遊びにきたソレーヌさんの友人みたいよ」
「母さん……それって昨日のゴロツキ? 来たの知っていたの? 寝ていたかと思ったのに」
「あの人たちくらいなら余裕だったでしょ? でも今日は少し厄介かもね……なかなかの腕を持った人がやってきているわ」
「母さんはここにいて、ちょっと下へ行ってくるよ」
「気を付けていってらっしゃい。あっカムロンは少しお話があるから。残ってもらえる?」
「こんな時に? 俺も手を貸すよ」
「大丈夫よ。腕が立つとは言ってもテルに任せておけば問題ないわ」
僕と、ノエル、ソレーヌは急いで下におり、教会の外に出た。
さすがに、そう何度もドアを蹴り破られては困る。
僕たちが外にでると、昨日の男が話しかけてきた。
「昨日は世話になったな。お前らのせいで俺はボットムで一番嫌いな奴に頭を下げることになっちまったよ。だけど、それ以上に舐められたまま終わったら、俺はここで生きてはいけない」
昨日の盗賊たちがその数を3倍にして教会を取り囲んでいた。