衝撃の12剣舞
「それじゃあ剣を構えて」
「はい」
翌日、僕は魔法の練習のあと、今度はノエルに剣を見てもらっていた。
母さんが魔法もいいけど、せっかくならノエルに剣を見てもらいないさいって言ってきたからだ。
憧れていたノエルに剣を見てもらえるというだけでドキドキしてしまう。
「ゴロツキとの戦いも見ていたけど、テルの剣はとても美しい剣ね。王国騎士団よりも上手いかもしれないわ」
「剣は母さんが教えてくれたり、あとはここから騎士団の動きを見て覚えたので。少しは動けると思うよ」
「ふっ見ていただけですべてを学べるなら騎士団はずっと見学をしていればいいだけになりますからね。いくらテルでもそれは甘いわよ」
剣をとるノエルの力はまだ戻ってはいなかった。
今も手に力が入らないらしいが、それでも僕くらいならきっと余裕だろう。
胸を借りるつもりで本気でいかないと、失礼になる。
「よろしくお願いします」
「えぇ最初から全力でいいわよ」
僕は盗賊たちと戦った時と違い、本気でノエルに勝負を挑む。
今回は木剣なので、怪我をする危険もかなり少ない。
ノエルはまだ本調子じゃないので、やけに動きがゆっくり見える。
なるほど、わざと僕に隙を見せているのだ。
そこをきちんと攻撃できるのか僕を試しているってことだろう。
僕はわざとノエルの隙を見つけては一つ一つ丁寧に寸止めで潰していく。
脇腹、鳩尾、脛、首、ノエルの反応スピードも段々とあがっていく。
ペースをあげてくれたようだ。だけど……少しものたりない。
よし、少し強めに……僕が木剣に力を込めると、そのままノエルの木剣を弾いてしまった。
「すみません。まだ本調子じゃないのに」
「いや、私のことはいいわ。それよりも……その剣捌き本当に見ていただけなの?」
「うん。もちろん、母さんとカムロンと訓練はしていたよ。あとは本当に毎朝ここで見ながら訓練をしていただけだよ」
「見ていただけでこの動きが……基本となる騎士3剣舞はできるようね」
ノエルは何か考えているようだった。
でも、どの3つだろう?
「騎士3剣舞ってどの3つ? 僕が見たことあるのは全部で12個くらいあるよ」
ノエルがいきなり頭を抱えだす。
「ちょ……と待ってくれ。12剣舞だって? それは3剣舞をマスターした者が1つずつ次の剣舞を教えてもらい、最終的に12剣舞をマスターするんだぞ。いったいどこで?」
僕は王国騎士団がいつも訓練をしていた中庭を指さす。
「ぐわー! なんてこと。私たちが守ってきた王国のよき伝統が!」
ノエルは相当ショックだったのか。両手、両膝をつき落ち込んでいる。
なんて声をかけたらいいのかわからないけど……なんかごめんなさい。
「あっでも、ほら、ノエルも言っていた通り完璧に剣舞ができるわけじゃないだろうし、基本の3剣舞だけでも直接教えてもらえると嬉しいな」
「そうですね。確かにテルの言う通りです。いくらテルが見て覚えたからといっても限界はありますからね。神は細部に宿るものって言葉もありますし。私がテルの剣舞を最高のものにしてあげるわ。では第一の剣舞からやってみてください」
「騎士団がやっている順番でいいってこと?」
「そうね」
僕は王国騎士団が一番最初にやっている剣舞から披露していく。
一つ目の剣舞が終わっても、ノエルからは何も言われなかった。どうしたんだろう。顔が引きつっているように見えるけど、これは続けてやれってことかな?
僕はそのまま二つ目の剣舞も披露する。ノエルが真剣に僕の剣舞を見てくれている。
なるほど、全部の剣舞が終わってからまとめてダメなところを指摘してくれるスタイルだな。
僕はそのまま6剣舞を披露するが、ノエルから終わりの声はかからなかった。
そうか。下手糞でもいいから12剣舞を見てから判断するってことなんだろう。
僕は徐々にスピードを上げ12剣舞すべてを披露し終わった。
1技1技本気で取り組んだから、もう汗びっしょりだった。
「ノエルどうだった?」
「うん。私から教えることはないわ」
「えっ? なんで?」
「だって……」
「テル、あんまりノエルをいじめてやるな。ノエルは今、剣も使えなければテルに剣舞も教えてやれる身体じゃないんだからな」
ノエルがもう何とでも言えばいいのかわからないといった諦めた顔をしている中で、やってきたのはカムロンと母さんだった。
「カムロン、忙しいのにここに来てて大丈夫なの? 時間があるなら勝負しようよ」
「勝負はまた今度な。今俺の方も少し落ち着いてはきているけど、まだ少し忙しいんだ。ただ、いい情報があったから、これだけはテルに伝えておこうと思ってな」
カムロンが手に持っていたのは、一枚の紙だった。
そこにはこう書かれていた。
『第三王子直属の騎士団募集。ボットムよ。今こそ力を示せ』
ボットムに騎士団の募集があるなんて天変地異の前触れなのかと思ってしまう。
いったい何が起こったのだろう。