人の夢は笑うものじゃない。応援するものだと彼女は言った。
「やっと見つけたぜ。このクソ女。ボットムで生活したいなら俺らに手間賃を払うのが当たり前だって言っているだろ。さすがにこれだけの数がいれば、もうお前なんかにやられはしないかんな」
男たちはボットムにいるゴロツキらしかった。
ボットムの裏道などでは、勝手にそこを縄張りだと言って通行料をせしめようとする奴らがたまにいる。
彼らは相手を見て、いいがかりをつけてくるので、どうやらソレーヌさんに狙いを定めたらしい。でも……ゴロツキのうち何人かはすでに怪我をしているようで身体中に汚れた包帯を巻いていた。
「あの人たち、どうしたんですか?」
「ボットムの裏道を通ったら通行料とか要求されて、断ったら襲ってきたので返り討ちにしちゃいました」
彼女は楽しそうにそう言っていたが、あんな怪しい道を歩く人がいたことに驚きだ。
「ソレーヌさん僕が相手しますよ」
「テル、大丈夫なの? 私もまだ本調子じゃないわよ」
ノエルは僕を本気で心配してくれているようだったが、ラキの盗賊団と戦ったことで少しだけ自信がついた。
「僕はボットムから抜け出して魔法騎士になる男ですから。任せてください」
兵士相手じゃなければ、そう簡単には負けないはずだ。
それに……ここでノエルを戦わせるわけにはいかない。ノエルの剣技は弱っていたとしてもボットムでは美しすぎる。
僕が一歩前に踏み出すと、男たちがいきなり笑い出した。
「ブッハハハ……ダメだ! 腹が痛い! 俺たちボットム生まれはこの国で最下層の人間だ。それが魔法騎士になんてなれるわけがないだろ。夢は寝ている時に見るものなんだよ。夢は叶わないから夢っていうんだ。お前バカじゃねぇの。バカに生きてる価値なし」
「リーダーそれは自分たちも悲しいっすけど、でも笑えるっすね! この街に生まれた俺たちは、夢を見る資格なんて生まれた瞬間にはく奪されてますもんね」
男たちは僕のことを指さしながら大笑いしている。
だけど、それを見て一番怒ったのはソレーヌだった。
ソレーヌは先ほどまでのお淑やかな口調とは豹変し、ゴロツキたちに怒鳴るようにいった。
「おいっ、いいたいことはそれだけか?」
「あぁん?」
「お前ら、本当にクズだな。人の夢は笑うものじゃなくて応援するものだって習わなかったのか? そうやってお前らみたいな生きてる価値のないゴミが集団で人の夢を笑ってけなすから、自分は間違った選択をしたって、夢を諦めてしまう奴がでてくるんだよ。夢は叶えるために見るんだよ。もし、それで叶えられなかったとしても、その途中で出会った人や得た経験はそいつの生きる糧になるんだ。そして、また人は新しい夢を見るんだ。まぁお前らみたいなクズには一生理解できないだろうけどな」
「てめぇ、言わせておけば」
「お前にだってわからないだろ! ボットムの住人には夢を叶える自由どころか、見る自由もないんだよ!」
「それは違う。あんたらが、夢を見ないのも、夢を捨てるのも自由だ。でも、だからって他人の足を引っ張っていい理由にはならないんだよ。お前らは勝手に傷口の舐めあいでもしてろ。だけど自分の夢を語る奴を笑う奴は、私がボコボコにしてやるよ。かかってきな」
ソレーヌと盗賊たちが僕を無視して争い始めた。
まぁ元々僕が部外者ではあるんだけど。
シスターは腰に差していた二つの斧を両手で抜き、片方の斧を男に向かって投げつけた。
斧は回転しながら男の首にまっすぐ飛んでいくが、寸前のところでビックリした男が後ろに倒れたため、血の雨が降ることはなかった。
その男はそのまま頭を近くの机にぶつけて気絶してしまった。
斧はそのまま彼女の手へと戻ってくる。
「神の慈悲がわからない奴からかかってきな。今すぐ地獄へ送ってやるから」
先ほどまでの優しい話し方とは全然違ったソレーヌがそこにはいた。
豹変した彼女は、どちらが悪役なのかわからない笑みを浮かべていた。
ゴロツキA(斧怖い)
ゴロツキB(帰りたい)
ゴロツキC(シスター可愛い)
まとまりがまったくなかった。
★★★★★
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