祈りを捧げるシスター
翌日、僕は朝日と共に起きた。
あまりよく寝れはしなかったが、どうもベットがかわり緊張しているらしい。
まわりを見ると母さんも、ノエルもまだ寝ている。
僕はゆっくりと部屋からでる。
塔に上って身体を動かそうとも思ったが、昨日、見たステンドグラスを思い出した。
朝日の中で見たらもっと、輝いて見えるに違いない。
今まで芸術的なことはまったくわからないけど、なぜか心惹かれている自分がいた。
僕が階段を途中まで下りると、1階から人の気配があった。
なにを言っているのかはわからないが、女性の声が聞こえる。
母さんも、ノエルも二階にいたから、僕たち以外にも誰かいるようだ。
僕はいつでも短剣を抜けるように準備をしながら、階段の陰に隠れながら聖堂を確認すると、ちょうどステンドグラスの前で一人のシスターが両膝を折り、祈りを捧げていた。
ここで教会の関係者と会うなんて今まで一度もなかった。
「テル、追って?」
いつの間にお起きてきたのか、ノエルが気配なく背後から僕に静かに声をかけてきた。
「わからないけど……ノエルは剣を振れるようになったの?」
「昨日よりはマシってところかな。本調子の3割くらいって感じかしら」
ノエルは浮かない顔をしている。
まだまだ本調子ではないようだ。
彼女を戦わせるわけにはいかない。
格好や立ち振る舞いからすると教会のシスターのようにも見えるが……油断はできない。
ボットムでは、牧師の恰好をした盗賊も現れるとのことだ。
油断は命取りになる。
「僕が先に様子を見に行ってきます」
「なにを言っているの。もし危険な相手だったらどうするつもり?」
「大丈夫です」
僕たちがコソコソと話をしているうちに、運悪くシスターが僕たちに気づいてしまった。
どのみち、僕らはいきなり攻撃するわけにはいかない。
いくら敵かどうかわからなくても、先に攻撃するわけにはいかないのだ。
バレてしまったら、今さら隠れたところで仕方がない。
でも、できれば騒がれず、問題にせず、穏便に過ごせるならそうしたい。
「あなたたち……もしかして……?」
「申し訳ありません。ここには誰も住んでいない廃教会だと思っていたので……」
いきなりシスターの顔がパァっと明るくなる。
「ここを掃除してくれた人ですよね。もしかして起こしてしまいましたか? 全然寝泊まりして頂いてかまいませんよ」
「はいっ?」
「えっ?」
シスターは目を輝かせている。敵意はないように見えるが……。
彼女は僕たち駆け寄ってきて、いきなり僕の手を握ると上下に激しく振る。
「私救済の森教会、理事の孫ソレーヌっていいます。とある事情で昨日からここの管理を任されたんだけど、汚れはひどいし、道具はないしで、昨日は街中に泊まって道具を集めに行ってたんです」
「それは大変でしたね」
「本当に大変でした。そして今日の朝気分も憂鬱に教会にやってくると……まぁなんてことでしょう。このピカピカになった教会。もうはや聖女様の導きとしか思えません。本当にありがとうございます」
「いえ、そんなたいしたことはしてませんよ」
「ここに派遣された時には、気分も落ちてこの世の終わりかと思いましたが、やっぱり世界は捨てたものじゃないですね」
僕たちはまだ警戒をしているが、彼女は僕たちをまるで警戒していないことに、不安になってくる。素で行動しているのか? それとも何かの策略なのか? なんとも読めない。
だが……シスターの腰には彼女には全然似合わない2本の斧が差してあるのが見える。
小ぶりだが、その斧には無数の傷があり少なくともただの護身用のものではないようだ。
使い込まれた斧は彼女の柔らかな空気とは違い、異質なものに見えた。
「本当に! ほら、私って自分でいうのもなんだけど可愛いから変なゴロツキには絡まれるし途中で泣きそうでしたわ」
「本当にソレーヌさん可愛いですからね。でもこの街は悪い人……ばかりですね」
ボットムでの知り合いの顔を思い出したが盗賊のリーダーとか、朝から石を投げつけてくる悪ガキ兄弟とか、ほとんどロクな人がいなかった。
「えっと……お名前は?」
「僕はテルです。こちらが、僕の姉のノエルです」
「どうも初めまして」
僕はあえて姉として紹介した。どこまで噂が広まっているとは思わないが、どこから情報が漏れるかわからない。ノエルも僕の意図をくんでくれたのか、軽く頷く。
「よろしくお願いします。テルさんとお姉さん? のノエルさん。お二人ともごめんなさい。あって早々ですが、ちょっとトラブルに巻き込んでしまいそうです。はぁ、女の子にしつこいと嫌われちゃうと思うんだけどな」
一瞬、僕にはシスターが何を言い出したのかわからなかったが、ノエルが剣を抜いた瞬間、教会の扉が蹴破られ男たちがなだれ込んできた。
今度は確認しなくてもわかる。どうやら敵意を持ったお客さんがきたようだ。
ソレーヌ(神様お掃除してくださりありがとうございます。ついでに、ご飯を作ってくれて、皿洗いもしてくれて、それから、それから贅沢もさせてくれる人を私の元に連れてきてください)
そう願った瞬間、テルたちがあらわれた。
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