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本当はすごい妖精アサプラス

「ここからだと、騎士団の訓練とか全部見られるから、よくここで騎士団の動きを真似していたりしていたんだ」


「これが敵国のスパイとかに見つかっていたら、戦術を盗まれたり大変なことになっていたわね」

「ノエルはいつも、騎士団の立場での考え方なんだね」

 僕たちは、それからしばらく塔の上で話をしていた。

 少しノエルと仲良くなれた気がする。


「そうだ、この辺りの教会といえばお風呂が常備されていると思うんだけど、見つけた?」

「お風呂は……見てないと思うな。でも、入ってない部屋もあるから探してみる?」


 僕たちは塔から下りて、1階の部屋を探索するとお風呂はすぐに見つかった。

 横の井戸から水をひっぱってきていたようだが、井戸水も汚れてしまっている。


 きっと昔はあそこの水もきれいだったに違いない。

 だけど、今はここをお風呂と言っていいか、わからないくらい荒れていた。


 そもそもノエルが言わなければ僕はお風呂を見たことなかったので、初めてみたのでわからなかったけど。


「これはヒドイね」

「でも、ノエルが教えてくれたクリーンの魔法があるからあっという間だよ」


 僕はノエルの前で、お風呂をどんどんきれいにしていく。

 ヘドロのようなものも一瞬で消えていった。


「えっ……ここまでできるの……なんで?」

 ノエルがなにかブツブツ言っていたけど、お風呂に相当驚いたようだ。


 実は僕も初めてのお風呂だから少し興奮している。

 お風呂なんてお金持ちの家にしかない。しかもこんな透明で透き通ったお水のお風呂に入れる日がこようとは……今から楽しみだ。


「こんなんでいいかな?」

 目の前のお風呂は、最初見た状態からは想像もできないような、新品同様になっていた。


 井戸水からも水もいれて、湯舟には透き通った水が溜められている。


「テル……すごいな……あれは……なに? 妖精?」

 ノエルが指差した先には小さくて可愛い妖精が水の上に立っていた。

 その妖精はゆっくりと僕の方へ頭をさげてくる。


「妖精さん可愛いですね。僕初めて見ました」

「多分……アサプラスっていう水の妖精だと思う。きれいな水でしか見ることができないって。今のこの国ではある意味おとぎ話の一つよ」


 アサプラスはそのまま水の上で華麗に踊ったかと思うと、今度は僕のまわりを飛び出した。彼女が飛ぶたびに、彼女のまわりの水しぶきが飛び、少し冷たいがすごく心がやすらぐ。


 そのまま彼女は僕の肩に止まると、僕の頬に優しくキスをした。

「うわぁ」


 彼女も僕が驚いたことにビックリしていたが、フフフと笑い、段々と姿を煙のように変え腕輪に変化してしまった。


「これは……?」

「テルが水の妖精に気に入られたってことだよ。別に害はないし、契約なしで仲間になる妖精はそんなに強くないから気にしなくても大丈夫。だけど……妖精に愛される才能もあるんだね」


 ノエルは不思議なものでも見るような目で僕をみてくるが、僕だって妖精から愛される男だったなんて知らなかった。

「これどうしたらいいの?」

「腕につけて持ち歩いていればいいよ。嫌ならそのうちどこかへ消えていくし、居心地がよければ、なにかあった時に助けてくれるわ」

「そうなのか……よろしくね! 名前は……何がいいだろう。アサプラスだから、プラスでいいかな?」


 腕輪がブルブルと震える。きっと喜んでいるに違いない。

「よろしくね、プラス」

 

 プラスはまたプルプルと震えている。僕の言葉がわかるようだ。

「助けてくれるって、精霊ってなにができるの?」


「その精霊の持っている特性によっても違うし、ランクによって違うわ。でも、大精霊と契約できれば天候を操ったりすることもできるそうよ。精霊と契約できる人の数は少ないけど、まったくいないわけではないわね」

「そうなのか。プラスはなにができるんだい?」


 プラスは腕輪から元の妖精の姿に戻ると、今度は大きな鏡に変化した。

「すごい大きな鏡ね。こんなにハッキリと写っているの初めて見たわ」

「僕も初めて。この鏡がプラスの能力なの?」

 僕が鏡を見ていると、段々と僕の姿が見たことない人へと姿を変えていく。


「なにこれ、私の姿が全然違う人になってる」

「僕の姿も」

 そこには今まで見たことがない人の姿が写っていた。

 鏡の中の人を別人に写せる能力らしい。


「全然水関係ない能力じゃない」

 なんとも言えない空気に僕は笑い出してしまった。


「これも水魔法にはいるのかわからないけど、すごいね」

 プラスは次から次へと僕たちの映し出せる姿を変えていった。


「騎士団の宴会とかに面白いだろうね」

「ありがとう。プラスもう大丈夫だよ」

 プラスがまた可愛い妖精の姿に戻り、自分から僕の腕に戻って腕輪になってしまった。

 なんて可愛い奴なんだ


「妖精によって使える魔法は変わるみたいだけど、こんな魔法は初めて見たわ」

「僕も初めてた。それにしても……この腕輪、蒼がとてもきれい」

 そこには透き通るような空色の腕輪があった。

 人生で初めて、こんなに美しいものを身につけた。

 今日はいいことばかりだ。


 それから、僕たちは一人ずつお風呂に入り夕食を食べ、少しゆっくりした。

 橋の下のように隙間風のない部屋は、少し不思議な感じで初めての場所だったこともあるけど、なかなか眠りにつくことができなかった。


 こんな生活がいつまでも続いてくれればいいのに。

 僕は目を瞑ったまま静かにそう祈っていた。

プラス(水♪、水♪、水♪)

深夜の教会で妖精が一人、月明かりの下涙を流しながら踊っていた。

これは月だけが見ていた誰も知らない物語。


★★★★★

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