さっきまで争っていたのにもう宴会って切り替え早いのはいいことだよね?
「さぁ今日は最高の気分だ。どんどん食べて飲んでくれ。私が全部奢ってやる」
優月のうさぎ亭の中はあっという間に宴会のようになっていた。
外では騎士団が動き回っているというのに、こんな宴会をしていて大丈夫なのだろうか。
「あんたすごい魔法使いなんだね。あっ自己紹介がまだだったね。私はカンデル盗賊団の頭領のラキだ。若い時、廃墟になってたエドキナの研究所に忍び込んだら、自動反応する呪いが発動しちまってさ。左目が呪われちまったんだよ。他の呪術使いに封印はしてもらったんだけど、一カ月に数日はどうしても月の魔力との関係で封印が弱くなる日があるんだ。それが今日だったって話なのよ。ほらちゃんと飲んでるか?」
彼女は最初の印象とは違ってかなりフレンドリーな感じで絡んできた。この距離感に対して僕はどうしたらいいのかイマイチわからない。
母さん以外の女性と絡んだこともなければ、友達も少ないのだから仕方がない。
でも、今日の拳で語り合うコミュニケーションの方がやりやすい。
普段橋の下で一方的に石を投げられていた僕からすると、こうやってご飯を振舞われるのはかなり難易度が高い。
よく知らないおじさんたち相手に立ち回れたと自分を良くできたと褒めてやりたい。
僕はテーブルのしたで拳をギュッと握る。頑張った僕、偉いぞ!
だが、もうひと頑張りしないと。カムロンの情報を集めなきゃいけない。
「ラキさん初めまして。僕の名前はテルです。今、カムロンっていう盗賊を探しているんですが知りませんか?」
「あぁ、せっかく私を助けてくれたあんたの役に立ちたいんだけどね。残念だけど私は聞いたことないね。少なくともこっち側の街にいる盗賊団のリーダーではないね。多分……あんた担がれたんだよ。この街には嘘つきが沢山いるからね」
「そりゃ違いねぇ」
「嘘つき盗賊団なら何百ってあるからな」
どうやら本当にこの街には自称盗賊団が沢山いるらしい。
でも、カムロンくらい強ければもう少し有名になっていてもよさそうだけど……あまり、ここでゆっくりもしていられない。
「ハハハ……たしかにそうかもしれません。あの、僕そろそろ戻らないといけないので帰りますね」
「なんだもう帰るのかい? あんたの探し人はどんな奴なんだい。私の方でも探しといてやるよ」
「いや、できれば今日会いたかったんですが、無理なら大丈夫です」
「そうかい? それならいいけど……何かあれば声をかけな。手伝ってやるかな」
「ありがとうございます」
いくら助けてくれると言われても、騎士の彼女のことを話すわけにはいかない。
僕はそのまま店をでるとボットムの中でも裏道を歩きながら、これからのことを考える。
いったいカムロンはどこにいるのだろうか。
もう少し探してみて……ダメなら彼女が目覚めるまで待ってみるしかない。
ある日のラキ
「私は盗賊団のリーダーよ!」
「あっあっ、私は盗賊団の頭のラキよ!」
部屋で練習している声は部下たちに筒抜けだった。
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