エピローグ おみやげをどうぞ
「お義母様、おみやげです!」
新婚旅行から帰り、お義母様の休日に合わせてまたまたお宅訪問しました。
イルディズさんも一緒にって思っていたのに、なんでかお義母様とイルディズさんってお休みが全然合わないんですよね、残念。
炎竜の鱗はイルディズさんがすでに持って行ったので、今日は食べ物関係です。
甘いものがお好きでないとのことでしたので、黒卵とかお漬物とか山菜の瓶詰とか干物とか、ババくさいけど確実に美味しい食品たちです。
「ありがとう」
お義母様はにっこりと笑って受け取ってくれました。
お義母様の手に渡るだけでババくさ食品は輝き出します。不可思議。
いつもわたしにだけ出して下さる野趣あふれる薬草茶(原料は教えてもらえません)を頂きながら、お土産話に花を咲かせます。
鉄道は怖かったとか、山はやっぱりいいとか、浴衣が可愛かったとか、温泉がすごく気持ちよかったとか、そんな他愛のない話。
お義母様はニコニコと頷きながら聞いてくれて、一通り話し終わると、
「それで? イルディズから話は聞けたかい?」
「あー……、ええと……」
わたしは、たはは、とごまかし笑い。
あー、そういえばそんなきっかけの旅行だったんですよねぇ。楽しくて忘れてました。
「なんだ、聞いてないのか。行かせた甲斐がなかったな」
お義母様も呆れ顔。
わたしは少しだけ考えて、
「うーん……、でも、いいんです。
よくわかりませんけど、スッキリしたみたいでしたし。
もう夜もうなされてもいないですし、心配することはなくなったんで……うん、OKです。
何だったのか話したくなったら話してほしいなあとは思いますけど……でも、今じゃなくてもいいかなって」
そういうことにしました。
それがいいなって思いました。
「そうかい?」
わたしを優しく見つめる瞳はどこかイルディズさんに似ていて、親子は似るものなんだなあとうれしくなります。
「ええ。まだまだずーっと一緒にいますからね、わたしたち」
わたしは自信を持って言い切ります。
全然、焦ることなんてないんです。
なんでもない日々に少しずつ、彼のことを知っていけばいいんです。
わたしのことも知ってもらいたいんです。
季節のめぐりの中で、日々の営みの中で、心を通わせながら。
それはきっと、すごく幸せなことだから。
とってもとっても、楽しみなことだから。
「そうか」
お義母様は小さく笑って、紅茶を一口。
初夏の風が優しくレースのカーテンを揺らす、
そんな、なんにも特別じゃないいつもの昼下がり。
(END)
お読みいただき、ありがとうございました!