迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ⑩
「……ミンナカラ、アリガトウ、ツタエル」
その日の晩、ドワーフ達が寝静まった後に洞窟の奥へ来た時……ゴブリンの特殊個体以外は絶命していた。いずれも安らかな顔立ちでまるで眠る様に。
「寿命……なの?」
「いや、これは……どうなってるんだ」
綺麗に並べられた5体のゴブリンを愛おしく撫でる彼女にレティシアは視線を合わせて、優しく問いかける。
「何があったのか、教えていただけませんか?」
「ミンナイキテル。ワタシイキラレナイ……ワタシヒトリ、アナタトイケル……アナタツヨイ。ワタシイツデモコロセル、ワタシオトナシクスル」
ぽろぽろと涙をこぼしながらレティシアに懇願する彼女はきっと昨夜も泣きはらしたのだろう、緑の肌にその跡がくっきりと残っていた。
「レティシアさん、夜ノ華さん。このゴブリンに服を。幸太郎、僕らは彼らを弔おう……」
「良いのかい?」
「ゴブリンは魔物だが。矜持をもってたんならそれに報いる位はしてやらないとな」
「ツンデレか?」
「かもね」
そんな二人にゴブリンの特殊個体は嗚咽を上げながら感謝の言葉を伝える。二人はゴブリンの亡骸を一匹づつ丁寧に抱き上げ、採石場の外まで運び始めた。レティシアと夜ノ華は特殊個体のお世話だ。何せお腹には子供がいるから足場の悪い洞窟内で転んでは大変だ。
「そういえば、貴女は名前はありますの?」
夜ノ華に適当な服を見繕ってもらっている間にレティシアは彼女に問う。なかったら適当に名前を付けるつもりだったのだが……
「バニ」
「……素敵な名前ですわね」
「バニは何歳なの?」
「ダレ?」
バニは夜ノ華たちとは初対面なのでキョトンとした顔で問いかける。少なくともレティシアの仲間だとはわかっているらしく敵意は無く、純粋に物珍しそうだった。
「ああ、あたしは夜ノ華だよ。レティの友達、オーケー?」
にっこりと笑顔を浮かべて夜ノ華がバニに手を差し出す。その手の意味を理解していないバニは首をかしげながら手と顔を交互に見比べた。
「ヤノカ、シロ……レティ、クロ」
「私金髪ですわよ?」
「サイショ、チデクロイ」
「ああ、なるほど……今は金色ですわよね」
ふぁさっと髪をなびかせるとレティシアの金髪が広がる。
「レティ、キン、バニ……アオ」
よくよく見ればバニの髪は汚れて肌の色に溶け込んでしまっていたのでわかりづらかったが、青い。ここから出たらまずは温めたお湯で綺麗に洗ってあげようとレティシアと夜ノ華が頷き合う。さりげなく夜ノ華がバニのお腹を見るとそろそろ人間でいえば8ヵ月、早々に落ち着いて出産ができる環境を整える必要があった。
「ここじゃよく見えませんけれども、どんな青色なんでしょうねバニさんの髪は」
「アオ、イッパイアル?」
「ええ、いっぱいありますのよ」
「ヒト、イッパイ?」
「ええ、たくさんの人がいますのよ」
「なんかレティ見てるとお母さんって感じ、戦うときはあーんな怖い顔なのに」
「私怖い顔しておりませんのよ!?」
「レティ、コワカッタ。イシ、イッパイトンデキタ」
バニの言葉にレティシアは口ごもる。確かに景気よく洞窟内に岩をバンバン投げ込んでいた。しかし、それにしてもバニは落ち着いている。同族がレティシアに殺されてしまった事は分かっているのに……これも種族の感覚の違いなのだろうかとレティシアは深く考えないことにした。掘り下げても何の得にもならない。
「あれが一番手っ取り早かったんですもの……ごめんなさいですわ」
「イイ、ゴブリンオソウ、オソワレルノモアタリマエ、レティツヨイ、ミンナ、ホコリ」
「正々堂々と戦うのが騎士の家系に生まれた者の義務ですわ。そういえばあの時洞窟に逃げたゴブリンの皆さんは……実はバニさんを護るために中を固めていたのですかしら? 認識を改めませんと……」
「チガウ、バニコロシテ、ニゲル」
「……岩を投げて正解でしたわね」
どこの世界も一枚板とは限らない、そういう事だ。ほんの少しだけ心が軽くなったレティシアだった。そして灰斗と幸太郎が戻らないまま、ありあわせの服をバニに着せる。幸い寒い所用にマントなどを揃えていたのが良かったのかそれほど困ることなくバニのゴブリンとしての特徴を隠すことに成功した。
マントにフードを縫い付けて目線まで隠すことができるように改造し、下着は夜ノ華の物を流用、レティシアのドレスのボタンをいくつか場所を変えて……何とか見れるようになった……と思うレティシアと夜ノ華。
「どうよこれならフードさえとらなければゴブリンだってバレなくない?」
「ですわね……バニさん、変な所はありますか?」
「アッタカイ、イイニオイ」
どうやら一旦引き返してもよさそうだと肩の力を抜くレティシア。ここでいきなり暴れたりでもしたらさすがに後味が悪いが……そんな気配はなさそうで安心した。夜ノ華も少し緊張していたのかほっとした表情でバニの頭を撫でて、荷物をまとめる。
「そういえば、灰斗さんと幸太郎はどこまで行ったのかしら?」
ふと、ゴブリンの亡骸を弔いに言った二人の事を夜ノ華が思い出す。いくら採石場の外まで行ったとは言え時間がかかりすぎではないだろうか? レティシアに視線を送るとキョトンとしている。何か異常がある訳ではないらしいが……驚くほど静かな洞窟は意識すると急に怖くなってきた。
「大方、見晴らしが良さそうな場所だとか変なこだわりを発揮されて時間がかかってるんじゃないんですの? 由利崎様も幸太郎様もなんか細かそうですし……性格的に」
「ユリザキ? コウタロウ?」
「眼鏡をかけた……ええと、こんなのをつけてらしたのが灰斗様、弓を持った方が幸太郎様。幸太郎様は夜ノ華の夫……番いの方ですわ」
「ツガイ、ワカル。バニ、ツガイ、ユミ、ウマイ」
「そうなんですね。幸太郎も弓上手いですよ」
しっかりと忘れ物が無いかを確認して、レティシアがバニの補佐をしながら洞窟を出ようとする。意外とバニはおしゃべりで、会話が途切れることは無い。夜ノ華もなんだかこの洞窟の雰囲気が苦手だったので助かっていた。
何か食べたいものはないかとか、お風呂に入ろうだとか話しながら洞窟の中ほどまで戻ってきた時。ばたばたと足音が……それもかなり焦っているのかすさまじい速さで迫ってきた。
「なんかあったのかな?」
「珍しいですわね? 灰斗様も居るのに」
――ぁぁぁぁああああああ!!
反響していてわかりにくいが幸太郎と灰斗の雄たけびだ。
バニは良くわからないが何かの緊張感を感じ取ったのか、素早くレティシアの陰に隠れる。
「なんなんですの?」
異常を感じ取ったレティシアが左手で夜ノ華を下がらせて、目を細めると……
「ひゃい!?」
大量の骸骨に追いかけられている二人が泣きながら走ってきたのだった。




