迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ⑧
「あらあらまあまあ……これは一体、どういう状況なのかしら?」
ゴブリンたちが護るのは一匹のゴブリンだった。どう見ても他のゴブリンたちと一線を画し、その大きさはレティシアよりも背が高そうな女性。肌の色とその特徴的な瞳の色からゴブリンなのは間違いないのだが……身ごもっている。
「言葉は分かりますの?」
背の低い普通のゴブリンには無かった知性の光と言うか……明確な意思のようなものを感じ取り。レティシアは念のため言葉をかけてみる。
「ワカ……ル」
「……困りましたわ。魔物は交流ができないと聞いておりましたので……申し訳ございません。名乗り遅れましたが私、レティシア・マイスターと申しましてマイスター家当主、グレイブ・マイスターの妻でございます。この先にあるドワーフの依頼を受けてあなた方を根絶やしに来ましたわ」
レティシアは一切包み隠さずそのゴブリンに名乗りと目的を告げた。いかに意思疎通ができようとも彼女の目的はドワーフの集落を困らせる魔物の駆除だ。その前提は変わらない。
「ネ……ダヤシ?」
大分疲弊しているのかおなかの大きなゴブリンは息を荒げながらレティシアの言葉を理解しようとする。そこをレティシアは丁寧に補足した。
「あなた方を殺しに来ましたわ。これならわかりますか?」
「ワカル……ゴブリン、マモノ。ニンゲン、オソウ、ゴブリン、オソワレル」
「……いよいよ困りましたわぁ。ちゃんと理解できてますわ。どうなさいましょうか? この状況……夜ノ華はきっと助けようとしますでしょうし、由利崎様……『実に遺憾ですがいかんですねぇ、救えません。あはは』とか笑えもしないジョークを言うでしょうし、幸太郎様はこういう時は当てになりませんし……」
「コロサ……ナイ?」
「いえ、まあ……あなたはともかくそちらの5匹の皆さんは救えませんが」
おそらくではあるが何か特別な事情を抱えたゴブリンの個体、レティシアはそう結論付けるがここで全員を討伐しない理由はもう一つ、別にあった。
「ナラ……ワタシモ、コロシ、テ」
「……良いのですの?」
「ゴブリン、イッパイオソッタ。オソワレル、アタリマエ」
「うーーん、どうなさいましょうか。その意気は買いますし、そうしたいのですが。私例外が一つだけありまして……戦えない人は殺せませんの。そちらの5匹の皆さんは私に武器を向けて戦う意思がおありでしたのでこのまま倒すのですが、貴方だけは今の所攻撃されていませんわ。ついでに言えば貴方はただのゴブリンじゃございませんわよね?」
レティシアの信念として攻撃をしてこなかった者、けしかけない者を絶対に殺さない。それは魔物であっても例外は無かった。それに、群れに毛色が違う者が居た場合何かしらのトリガーを持っている事が多い。群れの長を退治すると統率が取れずに散り散りに逃走する等、今回は逃げてくれればいいのだが逆のパターンもあり得る。
「ワタシ、ゴブリン」
「……困りましたわねぇ。アリスちゃん……貴女ならどうしますの? お母さんは頭が痛いですわ」
その様子を護衛のゴブリン達は神妙に見守る。
言葉は分からずともレティシアが問答無用に自分たちが護る特別な存在を殺そうとはしていない事は分かった。
「コノコ、オサ。イチゾク、ミチビク」
「うーん……」
レティシアは腕を組んで天を仰ぐ、と言っても石の壁しか映らないのだが。
「質問を変えますわ。あなた達、なんでここに来たんですの?」
「……ワタシ、ノロイ、コノコウム、マモッテシヌ」
「呪い、鈍いじゃありませんわよね……追われてますの?」
「イチゾク、ワタシ、コロス。ミンナ、ワタシ、カゾク」
そう言ってそのゴブリンは護衛のゴブリン達を見回す。恐らくそういう事なのだろう、ゴブリンの種としては忌み嫌われるが血の繋がった兄弟が彼女を護った。
「あなた以外は……連れていけませんわ。ドワーフの皆様にもなんと説明したらよいのかわかりませんもの」
「カゾク、ココデシヌ。ワタシ、イキル……カゾクマタフエル」
「あなた達はそれでいいんですの?」
レティシアは5匹のゴブリンに声をかける。その言葉を特殊なゴブリンが翻訳して伝えた。
「カゾク、イキノビテフエル。カゾクソノタメニシヌ。ソレデイイ」
「なるほど……種としての生存が優先ですのね貴方達。人を襲う気はあるんですの?」
「ムリ、ゴブリンアトスコシシカイキレナイ」
「ええと、寿命が短い。と言う事ですの?」
「ジュミョウ?」
どうにももどかしい、これは一度集落に戻って聞いてみた方が良いのかもしれない。誰か一人くらいゴブリンの寿命などを知っている人が居るはずだ。それにレティシアがこれだけ駆逐した後でまた同じ数に増えるにはそれなりの時間がいるだろう。
そう考えてレティシアは決断する。
「一旦あなた達は私の管理下に置きますわ。逃げないでくださいね?」
どうしたものかと思いつつ、手持ちの水と携帯食を置いて洞窟を引き介したのだった。




