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迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ④

「どう思う?」

「どうって……見たまんまよね」

「寂れているねぇ」

「開拓初期の私の領地みたいですわ……今は立派ですけれども」


 ドワーフの集落、先日まできっと各家から煙突の煙が立ち上り。金槌で金属を鍛える音が響く活気のある村と町の中間、そんなイメージだったのだが……


「単なる寄り合い……所?」

「本当にここが聞いていた場所か?」


 表を歩いているのはみんな子供と女性ばかり。身長はイメージとは違いみんな夜ノ華ほどの背丈はある。肌も日に焼けたのか褐色の物が多いが……表情が暗い。


「あっ……」


 ツタで作った籠を抱えた少女が夜ノ華たちの前で転ぶ。とっさに幸太郎が手を伸ばし少女を助け、灰斗が足のつま先で絶妙なバランス感覚を披露し籠を優しく地面に降ろす。

 

「大丈夫かい?」


 幸太郎は少女をゆっくりと立たせてあげて、優しく声をかけた。


 ――こくん


 少女は何が起きたのかよく分かっておらず。戸惑いながらも助けられたことに少したってから気づく。その様子はどこかぼんやりしていて幸太郎に不安をもたらした。


「ちょっといいかしら?」


 夜ノ華が幸太郎の肩越しに彼女の顔を覗く、その顔色はお世辞にも血色が良いとは言えなく唇もカサカサだ。この症状は夜ノ華に心当たりがある。


「貴女、お腹空いてない?」


 にんまりと笑顔を浮かべて夜ノ華が少女に問う。

 

「え……?」


 戸惑う少女の顔が夜ノ華への応えであった。


「幸太郎、キッチン用意して。レティ、あなたの作った保存用のお肉全部使うわよ。灰斗さんは追加で香辛料とか集められるだけ集めて。さあやるわよ! 出張キッチン」


 手のひらを叩き、夜ノ華が号令を飛ばす。

 こうなった夜ノ華に迷いはない、まずはお腹いっぱい食べてから……それが日下部家のルールなのだ。


「はいよ」

「わかりましたわ」

「やれやれ、肉も追加で調達かな。幸太郎、弓を貸してくれないかい。刀だけじゃ間に合わなさそうだ」


 三人ともそんな夜ノ華の考えに否などあるはずもない。

 調理は夜ノ華に任せてそれぞれ最善の行動をとり始める。そんな彼らを初めて集落のドワーフは視界に入れて興味深そうに眺める者、胡乱げな瞳で訝しむ者、排斥の意味を込めて睨む者、様々だった。



 ――二時間後



「おいしい!! おじちゃん、お代わり!!」


 周囲の大人と思われるドワーフの制止を振り切って先ほどの少女が食べ切った。

 それは穀物を水分を多めに炊いて、保存食にと作った干し肉の塩分だけで味付けした……いわゆる雑炊である。日本人だとお米が真っ先に思い浮かぶのだが穀物であれば可能だ。

 

「はい、まだまだあるからゆっくり食べてね」


 元々長旅を見越して備蓄はしっかり持っていたし、この集落で馬車を作って乗せればと幸太郎と灰斗がかなり多めに購入していたのが幸いした。足りなくなればまた一つ前の村に戻ればいいのだからと夜ノ華も次々作っていく。

 お腹に優しい薄味の雑炊から少し濃いめの味付けのスープ、狭い集落は瞬く間に食欲を刺激する美味しそうな匂いが満たされていった。それなのに……


「……警戒されてますね」

「そうですわね」


 灰斗が言う様に幸太郎が助けた少女を皮切りにして何人かの子供はおずおずと雑炊やスープを貰いに来てくれるのだが大人、その中でも女性陣の視線が夜ノ華たちに注がれる。好意的ではなく明確な敵意として。男性陣は欲しいけど……と表情が物語るのだがそんな女性陣の姿を見て頑として動かない。


「幸太郎だよね?」

「正確には弓ではないかと」


 理由は分からないが本人よりも存在感がある西洋弓(ストライカー)が原因だとレティシアが分析する。さて、どうしたものかと夜ノ華に相談しようとしていたら。夜ノ華の様子もおかしかった。

 だんだん目尻が吊り上がり、口元に八重歯がのぞいており……まあ、簡単に言えば怒っている。


「なんでですの?」


 ころころと表情と感情が変わる夜ノ華は見ていて楽しいが、怒るときもわかりやすく。普段おっとりしているレティシアにはその切り替わりの速さについていけない時があった。それを見て灰斗は苦笑を浮かべる。


「あれは僕でもわかります。レティシアさん馴染みがないと思いますけど……僕ら日本人はもったいない精神と言うか……お残しは許しません。みたいな感覚なので」

「ああ、なるほど。戦場でそういうお方いましたわ……じゃあ次は」

「ええ、多分」


 わかりやすい夜ノ華の行動は幸太郎にもとっくに察しがついていて、さりげなくお代わりを求めてきた子供たちをささーっと遠ざけた。どうせ次は夜ノ華お得意の『アレ』が来る、と。

 夫である幸太郎、夜ノ華の感情を理解したレティシアと灰斗は両手で耳を塞いだ。


「おなか空いたならちゃんと食べなさい!! 物欲しそうにしてる全員おなか一杯になるまで私作り続けるからねっ!! 良い大人が意地張ってんじゃないわよ!! さあ順番にならべぇぇぇ!!」


 器に中身をよそって、空っぽになった鍋を振り上げ。夜ノ華は手甲から鉄の爪を伸ばして怒鳴り声をあげる。その声は彼女の細身のどこから出てるのか不思議なほど、大気をびりびりと震わせドワーフたちが震えあがるほどの気迫があった。


「でないと後悔するわよ」


 座り切った眼差しと両手にある物から、ドワーフの何人かが気づく。

 アレだ。学校の教室で黒板を……


 ――ギィィィィィィ!!


 引っ搔いたのだ。


「「「「ぎゃああああああ!?」」」」


 背筋に上る不快な寒気と二の腕にびっしりと鳥肌が立つ。その悪魔の音から逃れたのは幸太郎の真似をしてきゃっきゃと耳を塞いでいたドワーフの子供たちと幸太郎たちだけ。

 力いっぱい夜ノ華が鍋を引っ掻いた音は集落の建物の中にいた人にまで届いてそこらじゅうで悲鳴が聞こえる。目と耳が良いドワーフにとっては音響兵器そのものだ。


「ご飯食べる?」


 鍋を引っ掻くのをやめて夜ノ華はにこにことドワーフの皆さんに問いかける。

 二撃目の準備をする夜ノ華にドワーフたちは無条件で頷き、理路整然に炊き出しに並び始めた。


「何この新手の脅し……」

「やってる事は親切そのものなんですけれども……私たちなんか悪者見たいですわね」

「でもまあ、食わないと倒れそうだしなぁ……」


 実際空腹に悩まされていたドワーフたちは一口食べると、先ほどの悪魔的所業(結局三回繰り返された)を行った人が作ったのか!? と目を見開いてその優しい味に舌鼓を打ったのだ。決してお玉を構える夜ノ華が怖かったわけではない。はず。きっと。多分……


「ちょっと! 幸太郎!! 食材追加速く!!」

「はい! ただいま!!」


 ひたすらご飯を作り続ける夜ノ華と幸太郎。


「なんか新婚時代を思い出しますわぁ」

「旦那さん、レティシアさんの尻に敷かれてそうですね……いい友人になれそうだな、と」


 くるりと踵を返してタバコを吸いにその場を離れる灰斗。その背中に白いひげを蓄えたドワーフが声をかけてくるのはほんの数分後だった。


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