勝ち誇る狂気に勝る希望
「いったぁ……最後の最後まで、姉貴生きてる?」
「老体にこれは堪えるのう……」
がらり、と瓦礫を押しのけてキズナと洞爺が起き上がる。
建物が崩れ始めた時は焦ったが、この程度でどうにかなる洞爺ではなかった。瓦礫を斬り飛ばし隣にいたキズナを庇い抜いたのだ。
「ぷはっ! 死ぬかと思った……クワイエット。起き上がって良いわよ」
「すまん、助かった。夜音、大丈夫か?」
「おも、い……」
クワイエットはとっさに夜音を庇い、覆いかぶさったが瓦礫の直撃コースにいた。
しかし、間一髪で牡丹が瓦礫を殴って砕く。
「良いわ、それより洞爺さん!! キズナ! 手を貸して!! エキドナが不味いわ!!」
何が起きたのか牡丹は良く認識できなかったが、崩れていく建物の瓦礫の隙間にエキドナの腕だけが舞っていたのを見てしまった。
「今行く!」
「私の右4メートルの辺りよ! 掘って!!」
言うが早いか牡丹が素手で瓦礫を掘り返し始める。
そこへ……
突風が吹きすさび、砂ぼこりが蹴散らされた。
そこには夜間だからと音を立てずに飛んできた邪竜族のレン、そしてその背で健やかに寝息を立てる文香が居る。
「牡丹どいて!」
牡丹の声はちゃんとレンに届いており、即座にその爪で瓦礫の表面を撫でてどかす。
埋もれているエキドナがどこにいるかわからない以上爪を突き入れたらそのままさしてしまうことも考えられた。
それでも人の手で掘るよりは早い。
「姉貴! 返事しろ!! いつものしぶとさはどうした!!」
がらがらと山が崩されていく中、白い何かがレンの目に留まる。
「見つけた、ごめんよエキドナ」
花を摘むようにそっと瓦礫の隙間から除く白い腕をつまみ、ゆっくりと引き上げる。
だが……軽い。
「!……夜音、クワイエット! 回復魔術師か魔法薬を!!」
「すまん、今ので残りの二瓶が割れた……」
「じゃあ、運ぶしかないか……」
「待って、姉貴は……」
レンがかぶりを振る、そして摘まんだそれをキズナの前に出す。
「これは……手か」
洞爺がそれを見て声を震わせる。
「そんな……エキドナ」
牡丹も両手で口を押えた。その声は今にも泣きだしそうなほどだった。
その意味を夜音もクワイエットも理解できない訳ではない、何があったのかは正確な所はわからないけどあのちょんぱが塵になった後、あの黒い石が爆発した。
それによってこの大惨事が引き起こされた。
「あの爆発の間近にいたんじゃ……」
「死なないっ! 姉貴があの程度でどうにかなるわけねぇ!! 姉貴は! 姉貴は……」
たったったった、と二対の足音が近づいてくる。
もちろんレンの姿を見て、それでも臆さず近寄ってくるのはあの二人。弥生と真司だ。
「キズナ、落ち着いて……真司! お願い!」
「任せて! レン、僕が全力で回復魔法をありったけの魔力でかけ続ける! 構わず掘り返して!!」
「わ、わかったよ!」
弥生はすぐに状況を理解して最善を尽くす。
まだ間に合うから、と自分自身に言い聞かせて。
――???――
薄暗い石室の中で青年は上機嫌だった。
「うひひ、この瞬間が一番楽しいよねぇ。勝ったと思ってるところに仕込む罠って最高だねぇ」
角をあれほど失うのは痛手ではあるが、その甲斐はある。
だからこそ暴走させて爆発させた。
「でも、あれくらい性能が良い機体はちょっと惜しかったかな……スペアにしたら少し楽しかったかも」
ちょうどICレコーダーに偽装した通信モジュールもあったので盗み聞きをしていた。
あのエキドナの妹の叫びは秀逸で思わず録音してしまう。
「ま、次はあの子かな。ぜひ本体で会いたいからしばらくはゆーーーっくり休もうかな、じゃあまたねぇ」
ぱちんと指を弾いて通信を切る青年。
そのまま暗闇は静寂を取り戻し、一切光が入らない石室はそのまま時を止める。
悪意の熟成を進めるために……
―― 瓦礫の真上、エキドナさんを偲ぶ会 ――
「ぷっは! 息吸う必要ないけど娑婆の空気はうまいねぇ!」
ずぽん、と首を瓦礫から発掘されたエキドナさんは薄汚れたまんまだが元気である。
「姉貴なんなんだよあの茶番。見ろよ、洞爺や牡丹が吹き出しそうでひやひゃしたぜ?」
「ん? ああ、こっちを盗聴してたからさぁ。逆手にとっておねーさんは死んだことにしようかなぁって」
そう、エキドナは無傷ではないものの特に死にそうなほどではなかった。
あの爆発を抑え込んで茶番を仕込むくらいの事はできる。
「しかし、肝は冷えたぞ……」
「そうね、あの光は魔法?」
「そうそう、前に真司が牢屋に面会に来てくれた時に渡してくれてたのさ。防御用の魔法を刻んだ魔法具……超高級品だよね。加熱するだけで発動とか機械の僕にピッタリさ」
「エキドナ姉、あれ一つで家買えるんだって」
「……どうやって買ったの?」
「文香に聞いて……僕は知らない方を選んだ」
実はどこかの監理官殿が噛んでいるのでそのうち知る事になる。
「とりあえず、この場を離れないか? いい加減弥生一人で対応させるのがかわいそうになってきた」
今度こそベルトリア共和国での戦いは終わりを告げた。
完全解決ではないが誰一人欠けてないのだから勝利、弥生はそう言う。
それでいいと思う全員だった……。
「ねえ、そういえば一人足りなくない?」
今回の下準備MVPの夜音さんが気づく。
「あ! フィン姉!!」




