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かごめかごめ

 ――かぁごめかごめ


 その日は何故か少し肌寒かった。お城全体が……隣接する議員会館が。

 日中はそうでもなかったのだが、これから暑い火の月(なつ)に差し迫ろうかというときにしては不自然なほどだった。どこが変かと言われるとそれは誰も答えられない、なにせ不死族である従業員や使用人もこのうすら寒い不気味な雰囲気に翻弄されていたのだから。


「ひいぃ!?」


 ベルトリア共和国の議員会館に勤めて早十年。

 スカラリーメイド(厨房の下働き)から今では立派なキッチンメイドとして一生懸命働いていたのだが彼女は初めてメイドを辞めたいと思っていた。


「な、何なのよこの声」


 キッチンメイドのお仕事は主に調理場のシェフの補助としてソースを作ったり、翌日の仕込みのお手伝いをする。その他には厨房の清掃などが毎日のお仕事だ。

 しかしこの日は朝から変なことが起きていた。


「カラトリーセットのフォークだけ見つからないし……デザートの数も合わなかったし」


 歌うような、それでいて物悲しい響きを聞く度に異変がある。

 しかもそれは聞こえる者と聞こえない者が居て、彼女はかなりはっきりとその声を捉えることができていた。


「なんでジェフはあの声が聞こえないのよ……」


 指先を震わせながらそのメイドはグラスを磨く。

 いつもなら彼女の一番好きな時間帯で翌日に朝日を浴びて輝くグラスの列を作るのが日課だった。

 偶に不死族の夜勤メイドも顔を出し、疲れた仕事終わりに愚痴を聞いてもらうこともある。


「今日に限ってフレンダも来ないし」


 ――かたっ


「ひゃっ!?」


 背後から響いた音に思わず声が出ちゃうメイド。

 こういう時こそ不死族の同僚が精神安定剤なのに彼氏とデートだとお休みしている。

 明かり用のランプの灯がゆらゆらと不気味に揺らめき闇を揺らしていた。


「な、何なのよもう……あ、足りないフォーク?」


 それは探していたフォークで明かりに照らされてきらりと光る。

 これ見よがしに調理台のど真ん中に鎮座していた。


「なんでここに、まあいいや早く片付けて今日は帰ろう。グラスは……一日くらいいいか」


 もういろいろと考えず自宅でお気に入りのぬいぐるみと共にベッドにもぐりこもう。

 彼女は深く考えないことにして最速でこの場を去る事を優先した。だから……あえて無視してしまった。


 ――籠の中の鳥はぁ……いついつ出やる


「これを片付けてお終い」


 かしゃん!


「ひぃ!! なんで勝手にフォークが」


 からん……


 調理台にあるフォークはメイドの手を逃れるように彼女の背後へと転がっていった。

 もちろんそこには風など吹いておらず不死族の通行人もいない。動くはずがない物は動かないのだ。


 ――夜明けの晩にぃつーるつる滑った


「…………か、帰ろう」


 なんか声も近づいてきて、さっきよりもはっきりと『歌』の様に聞こえる。


「あれ?」


 ふと、メイドは気が付いた。

 そういえば今日は静かだ、と。


「掃除してる人も居ないわ……」


 いつもならまだ日が暮れたばかりで忙しなく廊下の掃除や翌日の準備で動き回る使用人たちが……見当たらない。


「まさか気味が悪いからってみんなサボった?」


 ――鍋の鍋の底抜け 底抜いてたもれ


「じゃ、じゃあいいよね? 明日少し早めに来ればいいんだし」


 ――スッ


「!?」


 厨房に振り返ったメイドの視界の端を何かが通る。


「なに、か。動いた?」


 議員会館には動物を入れることはできない。

 間違えて野良猫が入り込む事があるが……その(たぐい)なのだろうか?


「まだ誰か残っているの?」


 もしかしたら自分と同じで怖い目にあっていて……そう考えたら見捨てて置けない。

 メイドは勇気を振り絞って震える足を『何か』のほうへと向ける。


「一緒に……帰らない?」

「本当?」


 可愛らしい声がメイドの問いかけに答えた。


「うん」


 明確な回答にメイドは一気に安心感が勝る。


「ねえ……」


 メイドはランタンを声の方へ向けて、その姿を確認しようとした。


「あれ? どこに?」

「後ろの正面よ……」

「……そん、な」


 しかし、答えはメイドの背後から……耳元へとはっきりと届く。

 奇しくもそれは……


「だぁれ?」


 先ほどから響く歌の声だった。


「!?!!!?!?!??」


 ――パタン


「……一丁上がりと。まだまだイケるわね私も」


 肩をこわばらせて硬直したまま気絶した哀れなメイドは床で白目をむいている。

 まあ、原因は白い着物に身を包む黒髪の幼女……座敷童の家鳴夜音その人だった。


「んじゃこの子も地下室へとご案内~」


 夜音はぱちんと指を鳴らすとそこに白髪で赤い着物の幼女が現れる。


「よろしくね私」

「任された私」


 よいしょと気絶したメイドを担いで闇に消えた赤い夜音さん。


「分体は便利よね……夜音だけに、なんちゃって」


 ぱたぱたと草履の音を響かせて遠ざかるもう一人の夜音を見送って、白い夜音は次のターゲットを探しに向かうのだった。


「かーごめかーごーめー」


 朝から夜音がやってることは単純明快で、座敷童のルーティンワーク。

 

「いたずらはやっぱ楽しいわね。童心に帰った気分だわ、ネトゲも面白いんだけどやっぱりアナログにはかなわないわぁ」


 ぱったぱったと上機嫌な足音の先に恐怖を振りまく座敷童のおかげで議員会館とお城には普段ではありえない事に、ほとんどの人が自主的に早退していたのだった。


「……また百鬼夜行とかしたいな。どこにいるのかな女将(ゆきゆき)やぬらりの馬鹿は」


 まだお城に残っている人がいないか確認しながら、怪異は歌う。

 ほんの少しばかりの孤独を混ぜて。

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