弥生のお仕事ベルトリア共和国編 ⑦
「平たく言えば大掃除だ、ベルトリア共和国の国王様と首相の許可も得ている。催眠も時間経過と共に薄れていたのか割と簡単に解けた」
できる男クワイエットはこめかみに指をあてて説明を終える。
ここ数日は飛竜を乗り換えて数か国を行脚していたので、無事にベルトリア共和国で弥生と合流した日くらいはゆっくりするつもりだったのだが……できなかった。
「この作戦のキーとなるのが弥生とエキドナの妹、キズナだが……本当に大丈夫なのか?」
一抹どころか全部が不安しかない弥生の運動能力はクワイエットも知っている。
「あー、良いよ大丈夫。姉である僕が保証しよう。洞爺ほどじゃないけどうちの妹はやるときゃやるよ……やりすぎるけど」
「不安だ」
本職の隠密からしたら弥生が発案した案はとてもじゃないが採用したくない。
「城の使用人と役職者はどうするの?」
牡丹が一番難しそうなところを指摘するのだが。夜音が自信満々に答える。
「あたしが全員『一斉に』避難させるわよ……くくく、腕が鳴るわね」
「不安だ」
こきこきと首を鳴らす幼女がそんなことをしてもかわいいだけで、クワイエットがそろそろ胃の辺りを押さえ始めたのだが誰も頓着してくれない。
「文香はレンちゃんとお空で待ってるね」
「僕は固定砲台、と……ちょっと試してみたかったんだよね」
「儂はとりあえず斬ればいいんじゃな」
「私はとりあえず殴ればいいのね」
「僕は残弾気にしなくていいから派手にばら撒くよ~」
「ぎゃう(ご褒美のビスケットよろしく!)」
クワイエットはピクニックじゃないんだが!? と叫びたいのを堪える。
ここは耐えるのだ。弥生に付き合ってこの訳の分からない騒動に自分から身を投じたのだから。
「私はちょっと試したい魔法があったからちょうどいいわ。破壊にも美が欲しかったのよ」
「勘弁してくれませんかね!? いくら許可もらってても王城と行政府が跡形もなくなってたら賠償金とか言われますからね!? ね!?」
止めのフィヨルギュンの言葉はさすがに無視できないクワイエット。
何せ魔法国家の最大火力である。模擬戦でしか見たことは無いがデモンストレーションでフィヨルギュンが見せた魔法は下手をすれば辺り一帯を焦土にしてもおかしくはない。
「だ、大丈夫よ氷塊なら溶けるでしょ? 爆裂系なんて使わないから」
「お願いですからちゃんと手加減してくださいよ!? ただ単にかき氷食いたいからって一万人分の氷を氷塊魔法で自陣にメテオスォームしたとか再現しないでくださいよ!?」
「あ、あれ見てたんだ……オルリンにめちゃくちゃ怒られたのよね。良い思い出だわ」
「削る側の身にもなってください」
ちなみにクワイエット君はこの時まだ新米だったのでかき氷を作るために氷を削る人をやらされて大分つらい思いをしていたりする。隠密志望なのに両陣営のみんなから注目されてていたたまれなかったのだ。
「じゃあ、明日決行で結構かな!? 皆!!」
弥生が全員を見渡してどや顔で宣言する。
左手を前に突き出しちょっとやりすぎなくらい仰け反る……胸がさみしいとは誰も言わない。
「おおー」
文香だけがかわいらしく右手を上げて声を上げるが……みんなの反応は冷たかった。
「決行で結構……お父さんの影響だよね……かわいそうに」
「なぜこう、残念なんじゃろうな」
「ギャグセンスは皆無ね」
「ぎゃうう(ねぇわー)」
「弥生、その年でそれは将来まずいわよ?」
「オルリンと気が合う訳よね……レベルが一緒だもの」
「……俺は何も聞かなかった」
真司、洞爺、牡丹、ジェミニ、夜音、フィヨルギュン、クワイエット……全員が弥生と目を合わせようとしない。
「……文香ぁ」
「大丈夫だよおねーちゃん。人間触れなくてもいい事は全力でスルーするの。するーするーっと滑ってく人が居なくなるまで」
将来について一言どころかしっかりと物申したい発言である。
「真司よ……」
「大丈夫、僕は別だから」
ぽむ、と置かれた洞爺の手を決して真司は見ようとしない。
窓の外に広がる青空に目を向けて広いものを見るのだ……。
「まあ誰かさんのダジャレセンスの残念さは置いといて……ちょっと真面目に行こうか。オルトリンデも本当にシャレにならない事態だって言っていたようだからさ」
カシャン。
不思議と響く金属音。
それは聞くものが聞けばすぐに察する、刃物のこすれる音だと。
「ふむ、取り逃がしたのは失敗じゃったからのう……死霊はどうするのじゃ?」
「洞爺と牡丹は好きなように暴れていいよ、斬れるし殴れるっしょ?」
「まあね」
「それに……そのために真司が今回用意した術式があるから心配しなくてもいいよ」
「……なあ、普段から真面目にできないのかな弥生秘書官」
「え? 真面目ですよ!?」
「……聞かなかったことにしてくれ」
明日の晩、ベルトリア共和国のお城はどうなるのだろうか?




