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弥生のお仕事ベルトリア共和国編 ⑥

「と言う訳でエキドナさん、ミッション失敗です」


 どこから持ってきたのか、かなり鋭角の三角形が目立つ眼鏡を左手でくいっとあげて弥生さんが睥睨する。エキドナ、洞爺、夜音、牡丹の先発隊全員を見下ろす形だ。


「のう、真司……儂らいつまで正座なんじゃ?」

「姉ちゃんが飽きるか僕が突っ込みを入れるまで……どちらにせよ大した時間じゃないよ」

 

 まあ、事実として大失敗だったのでエキドナさんたち自称『僕らはクールに物事を進めるんだぜい』はおとなしく弥生さんのお遊びに付き合うしかない。

 全員が牢屋から救出されているので。


「フィンおねーちゃん。お水呑む~?」

「ありがと……できればレモン絞って……後、お塩と……何か柔らかいもの」


 そんなエキドナ達『僕らはクール以下略』とは反対に、ソファーに寝そべり文香に据え膳上げ膳の好待遇を受けているのはこの国に来てから一切出番が無かった魔法大国の偉いエルフさん、フィヨルギュンその人だった。


「文香、麦粥とか胃に優しそうなの作ってもらってるから女将さんに言ってもらってきてあげて。フィンさん、クワイエットさんからすごく怪しいけど二日酔いに最適らしいオルちゃん謹製『あと二日は動けます』をもらってますけど飲みます?」


 弥生はポケットから包み紙を出す。

 途端に草を煮詰めたかのような青臭い、それでいてなんとなく鼻を通る清涼感もある妙な香りが漂う。何人かは顔をしかめたがフィヨルギュンは躊躇なく「もらうぅぅ」とプルプル震える手を伸ばした。


「これで後二日は飲み歩けるわ……」

「何この扱いの差……」


 大失敗と大成功の違いである。


「大失敗と大成功の違いじゃないの?」


 エキドナのボヤキに答えたのは隣で同じように正座をしている牡丹で、彼女はのほほんと無表情で的を得ている言葉を返す。そしてただただ絶好調の弥生さんを見ていることぐらいしかやる事が無い。


「では! なんか今のフィンさん胸元がとってもせくしぃでスクショしたい……じゃなかった尊い犠牲によりキズナちゃん奪還作戦! 金髪の生首を添えて!! 第二弾を発表します!」


 ばばーん。と凄まじくやる気のない筆跡で飛竜のジェミニが弥生の背中から吹き出しを掲げた。無駄に演出を凝っているなぁ、と感心するべきか呆れるべきかの瀬戸際で付き合うジェミニも大概だったりと思わなくもないが……空気が読める飛竜である。


「金髪生首って……洞爺がちょんぱした相手?」

「うん、ここの黒幕そのちょんぱさん」

「ちょんぱさんって……そのネーミングどうなのかな?」


 無情にも今後あの金髪の青年は『ちょんぱさん』と呼ばれていくことになるのだが、本人がそれを知るのはもう少し先の事だ。今は真面目な作戦会議の場なのでみんな触れないけれども。

 そんな弥生は正座中の4人と他の皆が見えるように床に複数枚の紙を並べていく、それぞれ覗き込むようにその紙を見ていくと見出しに『決戦は明日! さあ皆でお城をハチの巣にしよう』と書いてある。


「のう、弥生……儂の眼が老眼じゃからかの? お城をめちゃくちゃにするような事が書いておる気がするんじゃが? 見間違いじゃろ? そうじゃろ?」


 弥生から意気揚々と訳の分からないことを説明される前に洞爺は先手を打った。

 大失敗組の自分らが考えたプランより頭が悪そうな作戦名なので洞爺の行動は真っ当なのだが弥生さんはそんなことで止まらない。


「洞爺おじいちゃん。さすがだね! ちゃんと『爆破も』するよ!」


 びしぃ!! と親指を立てて宣言する弥生に洞爺の眼が点になる。


「フィン姉から広域殲滅用の爆裂術式を教えてもらってやっと書きあがったよ。いやぁ大変だった……パソコンあると良いんだけどね」


 朗らかな真司の笑顔にエキドナの口がぽかんと開く。


「ぎゃうぎゃう」


 止めとばかりにジェミニは『レン様にお城が壊滅したら追撃のブレス(特大)を降り注いでもらう手はずもできました』と自慢げに黒板を掲げた。

 夜音が「私逃げてもいいわよね?」とその場から動く前に牡丹が「は? 何言ってんの」と頭をぐわしっと掴み補足する。


「ちゃんと、理由があるから説明するから……」

「ふぃんおねーちゃんもう大丈夫なの?」

「ふふふ、さすがオルリン製。頭がすっきりしてきたわ」

「さっきの薬すごいねぇ……成分気になるけど」


 ほんの数分で効き目を発揮し始めた薬のおかげで大分顔色も良くなってきたフィヨルギュンが床の紙を一枚手に取り、その経緯と作戦を伝える。


「まず、エキドナ達がこの国に入ってすぐに捕まったのは洞爺の存在が大きいわ。よく考えたらその妙な形の剣は目立つもの」

「ぬ、そうか?」

「そうよ、んで……すぐに私はなじみのギルド員に連絡を取ったんだけどね? ギルドの管理をしているこの国の評議会委員がおかしいってその子から連絡があって酒場で会っていたの」

「ほう……」

「そしたら『最近秘書になった金髪の青年が来てからおかしいって』言うじゃない。すぐにルミナス……うちの国の飛竜をウェイランドに向かわせてオルリンに連絡とったら……」


 その後の説明は一言で言って大冒険だった。

 特にクワイエットの奮闘ぶりが……というか扱いが。


「まあ、要約するとその娼館でエキドナの妹であるキズナが撃ち殺したの相手がちょんぱだったのだな。で、儂らがのこのこと表れて嫌がらせされたと……なんで襲い掛かってこんのじゃあやつ」

「たぶんさぁ……ちょんぱ君まだ準備中なんじゃないのかな? 逐一国内のお偉いさんが何してるのか探ってたらさ。国外に出張してるんだよね……軒並み全員」


 調べた限りでは、と但し書きが付くがクワイエットがウェイランドに一時報告へ戻った時にキズナが殺してしまったと思われていた宰相さんがオルトリンデと談話していた。驚いたもののそこは基本的に敏腕なクワイエットさん、同僚総動員でベルトリア共和国の中枢メンバーが今どこで何をしているのか調べ上げる。


「クワイエットさんのおかげで今ベルトリア共和国のお城は普通に働いている人以外は……あのちょんぱさんが支配してるんじゃないかなーって結論になりましたっ!」


 くいっと三角眼鏡を押し上げて弥生はどや顔である。

 ほめてほめてと分かりやすいアピールだ。


「マジで驚いたわ、弥生ってただの運動音痴じゃなかったのね」


 白メッシュの座敷童さんが素直に感嘆した。


「こふっ」


 弥生ちゃんに効果覿面だ。


「残念感が半端なくて興味が無かったけど突っ込みの鋭さ以外にも面白そうな所があったのね」


 変態格闘女さんの余計な一言だ。


「ざん、ねん……だと」


 からん、と眼鏡が落下する。


「さすが弥生だよねぇ、おねーさん感心するよ。でも安易にちゅどんするとかハチの巣とか……いや、これはうちの愚妹が原因か!?」


 首の取れるおねーさんが取り乱す。


「私怨です!」


 生き生きと首を掻っ切るしぐさが妙にハマっている弥生さん。


「儂があんなシーン見せたのが悪かったのう? 弥生、まずは捕えてだな」


 冷や汗と共に提案する大体の原因のおじいさん。


探査(サーチ)(アンド)破壊(デストロイ)!!」


 ずだんっと足を踏み鳴らす弥生さん。


「無理無理、こうなったら姉ちゃん徹底的だからさ」

「真司!? お主ちょっと姉に甘すぎやせんか!?」

「違うよ洞爺爺ちゃん。僕は諦めているんだよ」

「何をさわやかに言い切っとるんじゃ!? まだいけるって!! 弟じゃろう!?」

「人間出来る事しかできないんだよ?」


 14歳の男子に諭される70歳のお爺さん……洞爺こそもう少し頑張れる気がする。


「で、作戦は?」


 一人わかってるのか分かってないのかぼんやりと牡丹がつぶやくが、誰もそれに答えてくれなかった。

 

 

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