夜間監視 ②
「いやうん、告白じゃないから。おねーさんなりの演出なだけだから」
月が綺麗、をあなたが好きですと訳すのはエキドナが知る限り日本に所縁が深いという認識だ。
とはいえ二人の返しにかなりエッジが効いていたので困惑はしている。
「あたしたちを捕まえに来たの?」
「場合によってはかな? 少しおねーさんとおしゃべりしないかい? バイオレンスな語り合いは最後のお楽しみに回してくれると嬉しいねぇ。ほら、武器だって捨てちゃうよ?」
ぽいぽいとエキドナは銃やナイフ(テープで継ぎ接ぎ)、手榴弾などを手放す。
「そっちのメイドさんも50口径の銃は使わないでほしいねぇ。見たことない型式だけど総弾数7発もあれば僕の身体バラバラにできちゃうよ? 予備のパーツも無いし、うちの機械整備担当がぷんすこ怒って泣いちゃうから」
にゃはは、と何も持ってないアピールをするエキドナに二人は顔を見合わせた後、頷いて白衣の少女はアタッシュケースを降ろす。
「銃はあんたが左腕のコンデンサーを止めたら安全装置をかけるわ」
「おお鋭い。オーケー止めるよ」
――かちゃ
「……私は間宮桜花、こっちのメイド服を着てるのは妹のカタリナ。カタリナ、目出し帽外していいわよ」
「はい、お姉様」
カタリナがすぽんと目出し帽を脱ぐと鮮やかな銀髪が現れ、同時にこめかみから突き出ていた『角』も露わになった。
「そのメイドさん人間? それとも魔族さん?」
「魔族でございます。そういうあなたも人間ではないかとお見受けいたしますが?」
「正解、型式番号はいるかな? エキドナ・アルカーノ……EKDN‐001、アルカーノ社製軍用アンドロイド」
腕も外すかい? とおどけて見せるが二人は首を傾げつつ黙殺した。
現在シリアスターンなので。
「聞いたことないわね。知ってる? カタリナ」
「……アルカーノ社と言いますと確か無人機の開発会社だったかと、バンカーツク連邦国の国有です」
カタリナの記憶ではそこまで高度な軍用機などを創れてはいなかったはず。
しかし目の前のエキドナが言う情報に嘘はなさそう、もしかして極秘に作られたのだろうかと悶々としていた。
「連邦国じゃなく共和国だよ。しかもアルカーノ社はとっくに民間に……まって、カタリナさん。君ら何年から来たの?」
エキドナはエキドナでそんな昔の情報を引っ張り出されたのでびっくりしていたが、ある推論を思い出す。
「西暦3892年です。それが何か?」
ぞくり、とエキドナの背筋が冷える。
エキドナの仮説の一つが紐解かれたのだ。
「僕はそうだねぇ、西暦で言えば3944年……3895年に始まった第二次人魔世界大戦で新暦に代わったけどね」
「「!?」」
「そかそか、だいぶ自分の状況含めて理解できて来たよ。だから弥生達と僕の認識にギャップがあるんだ。世界線じゃなくて時間線がずれてんだねこの世界」
「詳しく聞かせてくれないかしら? こちらの情報も洗いざらい提供するわ」
「良いよ」
立ち話も何なので、とカタリナが公園のベンチへ視線で促し。三人は居酒屋帰りのOLのように談話するのだった。
◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆
「という訳で、あの二人は別口だったよ」
オルトリンデ、フィヨルギュンにたった一言で報告を済ませるエキドナ。
昨晩いろいろと話し合った結果、桜花とカタリナは別行動で随時エキドナと情報交換することになり。 その中にはこの世界の人には知らせない方が良いこともあるため、エキドナは色々端折った。
「なにがという訳ですか。もうちょっと真面目に報告をお願いします……黒髪に白い髪が混じった少女の件とか」
「いや、あれは僕にも何が何だか。待機場所に戻ったらもう居なかったし……妖怪ってこの世界にいるの?」
「魔族の亜種にそんなのが居るとは聞いてるけどね、精霊に近いみたいであんまり気にしたことは無いわ……それより、別口は良いけどなんで宝物庫に忍び込んだかとか何をするつもりなのかくらい教えてほしいわよ? ちゃんと話せば協力できることくらいあるかもしれないんだから」
「フィヨルギュンの言う通りだね。そこはちゃんと聞いてきたよ、なんでも『剣』を探してるんだってさ……魔力の塊みたいな超危険な物だから封印するつもりなんだって。似た反応があったから見に来たんだけど違ったらしいよ?」
「剣? そんなもの宝物庫に山ほど転がってるからどれの事か分かんないわね。魔力の塊って……アレの事かしら? この国の結界維持に使われている鉱石……石かどうか疑問だけど」
フィヨルギュンの脳裏に浮かぶのは真っ黒な石。ちょっとした部屋ほどもあるその石はどう贔屓目に見ても剣などではない。
「本人たちもこっそり入っちゃって申し訳なかったってさ。流れ者だからお願いして見せてもらえるもんじゃないと思っての事だったようだし、お詫びの品も預かってきたよ。魔法士だったらすぐにわかるってて言ってたよ? はいこれ」
エキドナが胸の谷間から取り出したのは何の変哲もない銀色の指輪だった。
彫刻も何も無く、装飾店で安価で買えるようなそっけない物。それをフィヨルギュンは受け取り、内側や何か仕掛けが無いか検分するが……何もわからなかった。
「なにこれ? 材質は銀みたいだけど何にも変わった所はないわよ?」
「指輪なんだしはめてみたら?」
「……大丈夫なんでしょうね。ん、小指にしか入らないじゃないこれ」
「私の眼で見る限り魔力も無いですが……なんなんです?」
何とかフィヨルギュンの小指にはまった指輪、魔法士だったらわかるという桜花とカタリナの話からとりあえず魔法を使ってみようと簡単な魔法を使ってみる。
「火よ」
煙草に火をつける程度の小さな火をつける……つもりだった。
――――ちゅどん!!
「うあああああ!?」
「にゃああ!!」
フィヨルギュンの前にいたオルトリンデとエキドナが執務室の窓を突き破って吹っ飛ぶ!
「は?」
あああぁぁぁぁ……と遠ざかる二人の悲鳴と粉々になった窓ガラス。
そしてバックファイヤーで髪の毛がちりちりアフロになったフィヨルギュン。
どうやらそれなりに反省していた桜花とカタリナがプレゼントしたのは『高増幅媒体』の魔法具だったらしい。
倍率がいささかおかしいが……
「何の騒ぎですかっギルド長!! あああ、窓が!? 敵襲ですか!? 総員戦闘配置!! いそげぇぇ!!」
「あかんタイプの魔法具じゃないのぉぉぉ!! エキドナ! オルリン!! 生きてるぅ??」
当然ギルドの皆さんが殺到してきたんですが……自分がちょっと魔法を使っただけとは言えないほどの騒ぎとなり、事態の収拾をつけるのに半日ほどかかったのは言うまでもなかった。




