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ミルテアリアにて ①

 ミルテアリア魔法士ギルド――魔法国家ミルテアリアにおいて国家と直結するギルドであり司法機関も担う特殊な立ち位置のギルドである。

 統括者はダークエルフの魔法士『フィヨルギュン・ノルアリテ』、国王の参謀も兼ねている。

 性格は『たった一人の例外を除いて』非常に温厚である。


「あーあー、大事な旅装束がほこりまみれになりましたよ。損害賠償を請求しますからね」

「あら? もともと土色の支給服なんてどこが汚れてるかわかんないわよっ」

「「ぐぎぎぎぎ……」」


 そのたった一人の例外がオルトリンデだ。

 そりゃもう通りすがるミルテアリアの人々がほほえましいわねぇ、とニコニコ見守るほどに。


 どうやら定例行事化しているのは明白だった。


「あ、エキドナさん。もうちょっと蒸らした方がいいですよ」

「ん、紅茶って難しいねぇ」

「ぎゃうぅ」


 もう処置無しと弥生達は二人を無視して勝手にお茶を入れている。


「魔法使いってこう、地味な装飾とか複雑な幾何学模様を好むのかなーって思ってたんですけど。綺麗な模様ですよね。町中の模様に意味があるのかな?」

「あー魔法士ギルドで聞いたんだけどさ。この国丸ごと術式陣形の形なんだって、ウェイランドで城壁作ってたでしょ? あれを魔法でやってるんだって……その魔法力どこから捻出してるのかな」

「もしかして人柱とか? 等価交換!! って」

「両手を合わせない合わせない、魔石じゃないの? 今どき生贄なんて創作物だけで十分だよ」


 こぽこぽと注がれるお湯が茶葉を開かせて優しい匂いが漂う、フィヨルギュンの執務室の窓からはどこまでも広がる青い空が絵画のように切り取られて見えて。ジェミニも若干物欲しげにその光景に見入った。

 階層建が多いウェイランドと違い、ミルテアリアは平屋建ての建物が主流らしく東には小高い山脈が望める。


「あっちは何があるんだろう」

「そういや何があるのか調べてないや、ジェミニわかるかい?」

『海、フォントルジェ海。魔物多いけどタコはおいしい』

「海かぁ……泳げたらいいのに。魔物がいるんじゃ無理かな」


 できれば、程度だったので特に落胆はしないものの。この世界の海を見てみたい弥生はいつか機会があったら真司と文香を連れて行こうと記憶にとどめておく。


「まあ、その内行けると思うよ。僕も手掛かりがつかめない状況が続くんなら探す範囲を広げないといけないからね。何やってるのかなぁ僕の妹の方は」

「キズナさんでしたっけ?」

「そうそう、後は僕の親ね……(ほむら)氷雨(ひさめ)。まず死にはしないと思うけど問題起こしてそうなのがこの二人。頭が痛いよ、真司と文香みたくいい子でおとなしくしてくれてればいいんだけどねぇ。僕の手持ち武器もあんまり余裕ないし」

「そうなんですか?」

「正直まともに戦うんだったらあと一回分位しか余裕はないねぇ。あの変態にだいぶやられたから」

「何なんでしょうね……アレ」

「知りたくない……」


 一気にお通夜のようなエキドナと弥生はあえて雰囲気を変えるために、いまだぎゃあぎゃあと仲良く喧嘩してるフィヨルギュンとオルトリンデに目を向けた。


「だから、今期の収穫量だとこの冬で1か月分小麦が足らないの!! 代わりに魚介の流通量増やすから融通してよ!!」

「小麦はこっちでも足りないんです! いっそそちらの魔法士とこっちの書記官で共同栽培区画作りましょうよ。あ、海産物は増やしてください。こちらは食肉増やします」

「鳥が食べたいから鳥増やしてちょうだい。なんかこの間ファングボアがやたらと増えて……」


 なんかいつの間にかちゃんとした外交情報の交換に切り替わっている。


「多分に私欲が混ざってない?」

「バイト先の店長さんもこんな感じでしたね。オルちゃん、フィンさん。お茶入りましたよー?」

「「いただきますっ!」」

「二人とも息ぴったりだねぇ。あ、ジェミニそこのビスケットのお皿頂戴」

「ぎゃう」

「それにしてもこの部屋広いですね、ジェミニの宿舎より広いんじゃ」


 応接用のテーブルに紅茶を並べながら弥生はジェミニとお茶会の準備をする。

 広さも高さもちょっとしたテニスコートほどもあるので、ジェミニが邪魔になるということもない。


 ソファーはふかふかでなんとなくダメ人間を量産しそうな心地よさだ。

 エキドナなどダイブして埋まりかける。


「そりゃあそうよ。何十人と入って会議もするし、国王もここに来て謁見とかするからね……正直落ち着かないわ」

「その割には書類とか無いんだね。机は豪華だけど……全然使ってる気配無いね」

「ああ、執務室って言ってるけどぶっちゃけ私はここに来ること少ないのよ。普段は研究室やギルドで魔法の実験ばかり、今日オルリンが来るの聞いてなかったら引きこもり生活2か月と3日目になってたわね」

「それって」

 

 オルトリンデが来る時以外外出していないという事ではないのか、と顔を引きつらせる弥生。


「弥生、そんな顔しないでください。いつもの事なんですフィンは……昔から変わらないんです。何度言っても」

「だってつまんないんだもん。とはいえ、ちょっと今回は理由が違うのよ。あ、紅茶ありがとう」


 一口飲んでのどを潤してからフィヨルギュンは切り出した。


「変な連中がこの国に入り込んでてね。結界のメンテナンスや巡回の強化案を作ってたの」

「それこそ執務室での仕事じゃないの?」

「着替えるのが面倒くさいもの。別に研究室でもできるしね……話を戻すけど。オルリン、この間ウェイランドに出た危険人物ってどんな奴?」

「……死霊術を使う金髪の青年です。見た目はそうですね線が細くて中肉中背、首を刎ねられても生きてた事、転移魔術を使用したことから人族に変装した魔族だと私は認識しています」


 弥生が両肩をさすり、目線を伏せる。

 まだ思い出すと怖気と寒気に震えが来るのだ。

 そんな弥生をエキドナはそれとなく背中に手を当てて隣に座りなおす、ジェミニも弥生のほほをぺろぺろと舐めて大丈夫だよアピール。


 その様子にフィヨルギュンも事情を察した。


「そっか、性別からして違うわね。こっちは二人で一人は黒髪の少女……そういえば弥生と同い年くらいだったかな? 白衣を着た巨乳。なんか良くわかんないけど金属製の旅行鞄を持ってた。もう一人は背の高いメイドで銀髪の鈍色釣り目。頭部に金属製の『角』が確認できたからこっちは魔族で確定」

「結構詳細まで掴んでますね、遭遇したんですか? フィンが取り逃がすなんてなかなかの手練れと見ますが」

「それがこう、地面に何かたたきつけてきて耳と目が効かなくなっちゃってね。今の所どこかに泥棒に入ったわけじゃないし誰かを傷つけた訳じゃないんだけど、城の宝物庫に忍び込んで来たから……探してるってどうしたのよ皆してそんな顔して。怖いじゃない」


 フィヨルギュンが言いよどむほど3人と1匹の眼は険しい。

 その理由を弥生が切り出した。


「フィンさん。その床に叩きつけたのってすごい音だったんじゃないですか? で、それものすごく薄い金属でできてますよね」

「え、うん。金属だったわね、ものすごく薄いし軽いかな。でもどうしてそんなことを?」

「この間私が見た金髪の男がそれと同じようなものを使ってきたんです」

「ついでに言えば僕も同じものを持ってる、その話詳しく聞きたいなぁ」


 フラッシュグレネード、視覚と聴覚を奪う非殺傷爆弾の一種だと弥生とエキドナは見当をつけていた。


「多分、無関係じゃないよ? その二人組」


 

  

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